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ウイスキーといえば、スコッチといわれるほど、スコットランドが本場として世界的にも有名ですが、ウェールズにも100年の時を経て、復活を遂げたウェルシュ・ウイスキーがあることはご存知でしょうか!? 2022年1月、ウェルシュ・ウイスキーの製造販売元である「ペンデリン蒸溜所(Penderyn Distillery)」を訪れたので、蒸溜所見学ツアーについてレポートします。
スコッチでもなく、アイリッシュでもない、ウェルシュ・ウイスキー(Welsh Whisky)は文字通り、ウェールズで作られているウイスキーです。その歴史がちょっと興味深いのでまずは簡単に紹介します。
歴史上、ウェールズで初めて作られた蒸溜酒はバードジー島(Bardsey Island)で356年に製造された「 スゥィスギ(Chwisgi)」といわれています。ただ、製造者はウェールズ人ではなく、アングロ・ノルマン系の外国人で「スゥィスギ」の語源もスコットランドで話されているゲール語の「ウシュク・ペーハー(Uisge Beath)」に由来する、やはり外来語です。
そして、中世には現在のようなウイスキーが作られていたとされます。
ちなみにウェールズ西部でウイスキーを作っていたエヴァン・ウィリアムズ(Evan Williams)はアメリカに移住後、1783年にケンタッキー州で蒸溜所の設立に貢献したことから、アメリカのバーボン・ウイスキー産業において創設者の1人ともいわれてます。
そんなウェルシュ・ウイスキーですが19世紀に入ると禁酒運動により、生産は減少してしまいます。19世紀末にはニューポットと呼ばれる原酒の生産自体が途絶えました。最後にニューポットが作られたのはウェルシュ・ウイスキー蒸溜所(Welsh Whisky Distillery Company)が1887年に生産したものとされ、1900年には製品の販売も終了、ウェルシュ・ウイスキーはその姿を消したのです。
こうして、一度は衰退したウェルシュ・ウイスキーでしたが、1990年代になると、復活させようという計画が持ち上がりました。しかし、新たにニューポットを作るのは容易でなく、最初は複数の銘柄のスコッチ・ウイスキーをウェールズで混ぜて瓶詰めし「ウェルシュ・ウイスキー」として販売。もちろん、これが認められるはずもなく、訴訟を起こされ、呆気なく事業は停止処分となります。
それでも、ウェールズの人たちはウェルシュ・ウイスキーの復活を諦めませんでした。2000年にウェルシュ・ウイスキー社(The Welsh Whisky Company)を設立し、ブレコン・ビーコンズ国立公園内のペンデリン(Penderyn)村にウイスキー蒸溜所を建設。今度はニューポットの生産から始めたのです。そして、熟成期間を経て、完成したウイスキーは100年の眠りから覚めたシングルモルト・ウェルシュ・ウイスキー「ペンダリン(Penderyn)」として2004年3月1日、ウェールズの祝日「聖デイビッド・デー」にウェールズ大公でもあるチャールズ皇太子同席のもと見事復活を遂げました。
ビジターセンターにもなっているペンデリン蒸溜所では1日数回、ガイドによる有料の蒸溜所見学ツアーを催行。約1時間のツアーは各グループ最大20人で最後にテイスティングも楽しめます。
今回、ウェブ予約で朝11時のツアーに申し込みましたが、平日だったこともあり、参加者は私とドライブ途中に立ち寄ったという男性2名だけでした。人数次第では当日の飛び入り参加も対応可能とのことですが、週末や観光シーズンは事前の予約をおすすめしています。
受付を済ませたら、展示室にもなっているツアー専用のビジター・ルームへ。まずはこの部屋でペンデリン蒸溜所の概要やウェルシュ・ウイスキーができるまでの製造工程を説明した紹介映像を鑑賞し、ウイスキーの原料やペンデリンで使用されている蒸溜機について、ひと通り学ぶことができます。
ブレコン・ビーコンズ国立公園内にあるペンデリンではカンブリア紀から守られてきたとされる地下深い石灰岩層の純粋な水源から引いた自然水を使用。唯一無二のウイスキーと自負するゆえんです。
ただ国立公園ならではの規制も多く、蒸溜所は小規模にする必要があったため、仕込みとされるウォッシュ(麦汁に酵母を加えてできるもろみ)はウェールズのビール醸造所「ブレインズ・ブリュワリー(Brains Brewery)」から入手。蒸溜したあとの熟成も蒸溜所から少し離れた場所に以前からあった倉庫で熟成樽を保管し、そこで製品化してます。
また蒸溜所内ではアルコール分92%もの高濃度なスピリッツも製造しているため、電化製品の使用や撮影が禁止されているといった案内もありました。(展示室やテイスティング・エリア、ショップ・エリアは撮影可能)
映像鑑賞が終わると案内ガイドのケイトリンさんが登場。
簡単な自己紹介のあと、早速、蒸溜所内へと移動し、ガイドツアーの開始です。
蒸溜所内に入ってまず驚いたのが強烈なにおい。その正体はビール醸造所から運ばれてきたウォッシュの酵母臭と酸臭でした。
このウォッシュをポットスチルと呼ばれる銅製の蒸溜機に注ぎ込みます。ポットスチルは大きさや形状が蒸溜所によって異なりますが、ペンデリンのスチルはデイビッド・フェラデー博士によって考案された単式蒸溜機と連続式蒸溜機が組合わさった特殊なものでエネルギー消費を抑え、環境に優しい最新技術が導入されているそうです。
ファラデー・スチルの上部には7枚の精留板があり、気化して上がってきたアルコールを濃縮すると同時に不純な化合物を取り除きます。これを繰り返すことでアルコールがさらに凝縮されます。その後、隣のセカンド・コラムへ移動し冷却されて、ガラス製のスピリットセーフと呼ばれるタンクに原液(スピリッツ)が溜まる仕組みです。この時のスピリッツのアルコール度数は92%、その後、加水されて62%前後で樽詰めされます。
現在、ペンデリンではこのフェラデー・スチル2機のほかに従来型のランタン・スチル2機を設置。フェデラー・スピリッツとランタン・スピリッツを混ぜ合わせることで新しいウイスキー作りにも挑戦しているそうです。
蒸溜所内を見学した後はビジターセンターの別室で熟成方法についての説明を受けます。ペンデリンではアメリカ・ケンタッキー州のバッファロートレース蒸溜所でバーボンの熟成に使われた樽(バーボン樽)を調達。最初の熟成に使用しているそうです。そして、仕上げの熟成をウイスキーの種類ごとにマディラ・ワインやシェリー、ポートなど異なる樽で行い、味や香りの個性を生み出してます。
また、樽の内側を焼くことでスモーキーな風味や深みを与えたり、乾燥したオレンジやレモン、天然ハーブなどを香料としても使用します。これは昔ながらのウェルシュ・ウイスキーの製法です。
ツアー中はマスクの着用が義務付けられてましたが、ここではマスクを外して数種類の熟成樽の匂いを蓋に開けられた栓から、樽のなかの匂いを嗅ぐことができました。熟成樽に染み付いた芳醇な香りは樽によって、まったく異なり、とても興味深かったです。
ツアーの最後はテイスティング・エリアに移動して、商品説明もかねた試飲タイム。ペンデリンで製造されているウイスキーをはじめ、スピリッツやリキュールがカウンターにずらりと並んでます。
ペンデリンのウイスキーの主な銘柄はレッド・ドラゴンがラベルにデザインされたドラゴン・レンジ3種(ケルト、レジェンド、ミス)とスタイリッシュなボトルのゴールド・レンジ5種(マディラ、ピーティッド、シェリーウッド、ポートウッド、リッチオーク)ですが、ほかにもウェールズのアイコン・シリーズがあります。2019年にリリースされたロイヤル・ウェルシュ・ウイスキーは100年以上前に閉鎖されたウェルシュ・ウイスキー蒸溜所を記念して作られた復刻版です。
ウェールズの著名な詩人「ディラン・トーマス」生誕100周年を祝って製造されたその名もディラン・トーマスや2015年のラグビーワールドカップを記念して「ラグビー史上最高」と称されるサー・ガレス・エドワーズのトライをモチーフにしたザット・トライなど、ウェールズならではのウイスキーがラインナップ。テイスティングは好きなものを2杯選べますが、どれにしようか悩みます。
ちなみに運転者は持ち帰り用のミニチュア瓶を1本選ぶことができます。これは併設のショップでも販売していて、土産にも人気です。
今回は参加者が3名だけだったこともあり、プライベートツアーのように終始リラックスして会話や試飲を楽しむことができました。そして以上で見学ツアーは終了。各自テイスティング・エリアから隣のショップへ移動し、解散です。
ペンデリンはウェルシュ・ウイスキーとして市場に流通している唯一のブランドです。日本でも数種類ほどが輸入され購入することができますが、まだまだ知名度は低く、知る人ぞ知るウイスキーです。そんなレアなウイスキーをぜひ、旅の記念や土産にどうぞ。ウイスキー好きはもちろん、珍しいもの好きにはたまらない逸品が併設のショップで見つかるはずです。
今回、参加したツアーの他にペンデリンではブレンディングの学習ができるマスタークラスも開催してます。また、首都カーディフから車で1時間ほどのブレコン・ビーコンズ国立公園内にあるこの蒸溜所とは別に2021年5月に北ウェールズのリゾート地スランドゥドゥノにオープンしたばかりの蒸溜所があり、交通アクセスも良いことから観光客に人気です。また現在、南ウェールズのスウォンジーにも蒸溜所を建設中。
ぜひ新型コロナ収束後は100年の眠りから覚めたウェルシュ・ウイスキーをご当地まで味わいに来てください。
■ペンデリン蒸溜所(Penderyn Distillery)
・住所: Pontpren, Aberdare CF44 0SX ウェールズ
・ビジターセンター営業時間: 毎日9:30〜17:00(ガイドツアー1日5回程度催行)
・ガイドツアー料金(1時間): 大人(18歳以上)£12.50/ウェブ予約£11.50、子供(8〜17歳)£4.50
・休館日: 12月25日、26日、1月1日
・アクセス: カーディフ・セントラル駅からアバーディア駅までは鉄道で30分〜1時間に1便。所要約1時間。アバーディアのバスステーションから蒸溜所までは7番バスが1時間に1便。所要約30分
・URL: https://www.penderyn.wales/tours-breconbeacons/
巻頭ページでは各地方の魅力をビジュアルで紹介し、体験してほしいテーマは厳選して詳しく解説。さらに世界遺産リストやイベントカレンダーも掲載しています。大観光都市ロンドンや、美しい自然が心を癒してくれるカントリーサイドを訪れる皆さんの「自分流の旅づくり」をとことん応援する一冊です。
■地球の歩き方 ガイドブック A02 イギリス 2019年~2020年版
URL: https://hon.gakken.jp/book/2080126700
※当記事は、2022年1月27日現在のものです。
〈地球の歩き方編集室よりお願い〉
2022年1月27日現在、国によってはいまだ観光目的の渡航が難しい状況です。『地球の歩き方 ニュース&レポート』では、近い将来に旅したい場所として世界の観光記事を発信しています。渡航についての最新情報は下記などを参考に必ず各自でご確認ください。
◎外務省海外安全ホームページ
・URL: https://www.anzen.mofa.go.jp/index.html
◎厚生労働省:新型コロナウイルス感染症について
・URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
旅したい場所の情報を入手して準備をととのえ、新型コロナウイルス収束後はぜひお出かけください。安心して旅に出られる日が一日も早く来ることを心より願っています。