
フランスには世界遺産がたくさん!現地在住日本人ライターが選ぶおすすめのスポットと見どころ
2022.12.2
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パリの町並みを形作るオスマニアン様式や、ノートルダム大聖堂に代表されるゴシック建築など、歴史的建造物に目が行きがちなフランスですが、現代においても有名建築家を多数輩出し、各都市には世界を代表する建築が点在しています。そこでパリ、リヨン、マルセイユというフランス3大都市を中心に、チェックすべき建築物をまとめました。
首都であるパリは、フランス文化が集まる場所。それゆえ建築分野でも魅力的な建物が数多くあります。パリの建築史においてひとつの転換点だったのが、1980年代初頭に当時の大統領フランソワ・ミッテランが進めた計画「グラン・プロジェ」。パリの大規模な都市再開発です。その際に多くの現代建築が作られ、今はパリの町並みのアクセントとなっています。1区から10区を中心とした中心部(19世紀半ばまではこの範囲がパリで、その後に拡張)は歴史的建造物が林立するため、現代建築の多くはそれ以外の区の再開発地域に主に建っています。
グラン・プロジェで整えられたのが、イオ・ミン・ペイのルーヴル美術館中庭のピラミッド(1区)、ジャン・ヌーヴェルのアラブ世界研究所(5区)、カルロス・オットーのオペラ・バスティーユ(12区)、ポール・シュメトフとボルハ・ユイドブロのフランス経済・財務省(12区)、ドミニク・ペローの新国立図書館(13区)、ベルナール・チュミのラ・ヴィレット公園(19区)、ヨハン・オットー・フォン・スプレッケルセンのグランド・アルシュ(ラ・デファンス)など。新たに建てられたものと、歴史的建造物を生かしつつ利便性を高めるために増改築されたものがあります。
グラン・プロジェ以降も、歴史的建造物は保護しつつも次々と建築物は建てられていき、ジャン・ヌーヴェルのケ・ブランリー・ジャック・シラク美術館(7区)やフィラルモニー・ド・パリ(19区)およびトゥール・デュオ(13区)、ジャコブ+マクファーレンのレ・ドック(13区)、フランク・ゲーリーのシネマテーク・フランセーズ(12区)やフォンダシオン・ルイ・ヴィトン(16区)といった建築物が人々の注目を集めてきました。
ケ・ブランリー・ジャック・シラク美術館
詳細をみるシテ・ド・ラ・ミュージック – フィラルモニー・ド・パリ
詳細をみるシネマテーク・フランセーズ
詳細をみるフォンダシオン・ルイ・ヴィトン
詳細をみる日本人建築家が設計したものだと、坂茂氏とジャン・ド・ガスティーヌが共同設計したラ・セーヌ・ミュージカル(ブローニュ・ビヤンクール)、SANAAのサマリテーヌ・リヴォリ館(1区)、そしてピノー・コレクションが入るブルス・ド・コメルスの内装リノベーションを担当したのが安藤忠雄氏です。
また現在では「グラン・パリ」と銘打ったパリ周辺を大規模に開発して、環境やイノベーション、持続可能性に重きを置いてパリの都市機能を高めようという計画が進んでいます。そこでも有名建築家の最新作がお目見えする予定で、例えばエトワール凱旋門から近いポルト・マイヨ(16区)に建築中のミル・アブルは、藤本壮介氏の設計です。
パリ郊外のポワシーにはル・コルビュジエが設計したサヴォワ邸もあります
リヨンにも見逃せない建築物が多く建っています。まず押さえておきたいのが、リヨン郊外ラルブレルにあるル・コルビュジエ設計のラ・トゥーレット修道院。同じくル・コルビュジエが設計したロンシャンにあるノートルダム・デュ・オー礼拝堂と並び、彼の後期代表作です。
リヨン市内だと、ジャン・ヌーヴェルにより改修されたリヨン・オペラ座、パリのポンピドゥー・センターを設計したレンゾ・ピアノによる国際都市、リヨンの空の玄関口に隣接したリヨン・サン・テグジュペリ空港駅は、サンティアゴ・カラトラヴァがデザインしました。
そしてリヨン市内の再開発地区であり現代建築が集積するのが、リヨン市内を流れるローヌ川とソーヌ川に挟まれた地区の南端「ラ・コンフリュアンス」と呼ばれるエリアです。コープ・メンヒルブラウのコンフリュアンス博物館、ジャコブ+マクファーレンのキューブ・オランジュとユーロニュース、MVRDVのモノリス、クリスチャン・ド・ポンザンパルクのオーヴェルニュ・ローヌ・アルプ地域圏庁舎など。日本人建築家では隈研吾氏が設計したオフィス、住宅、商業複合施設であるHIKARIが建っています。
マルセイユの建築も、まずはル・コルビュジエ作品から。住宅をはじめ商店、幼稚園、郵便局などを備えた集合住宅ユニテ・ダビタシオンは彼の代表作です。ユニテ・ダビタシオンはマルセイユ以外にも建てられましたが、マルセイユのものが最も評価が高く「ル・コルビュジエの建築作品−近代建築運動への顕著な貢献」として世界遺産にも登録されています。
旧港の入口でひときわ目立っているのがヨーロッパ地中海文明博物館(MuCEM)。リュディ・リチオッティの設計です。その隣にはステファノ・ボエリのヴィラ・メディテラネが建っています。旧港の一番奥には、巨大な一枚板の鏡の日除けであるノーマン・フォスターのオンブリエールがあります。
市内にはオフィスビルであるザハ・ハディドのCMA-CGMタワーや、ジャン・ヌーヴェルのラ・マルセイエーズなど、著名な建築家の作品が点在し、日本人ではマルセイユ現代美術センター(Frac)が隈研吾氏によるデザインです。
パリ、リヨン、マルセイユという3つの都市以外にも、フランスには各地で才能豊かな建築家による建物が点在しています。
フランス北部リールにあるクリスチャン・ド・ポンザルパルクのクレディ・リヨネ・タワーは、TGVや仏英間などをつなぐユーロスターが発着するリール・ユーロップ駅と、在来線リール・フランドル駅の間を再開発したユーラリール地区にある高層オフィスビルです。フランス東部メッスだと坂茂氏のポンピドゥー・センター・メッスは、パリにあるポンピドゥー・センターの分館を日本人がデザインしたことで当時話題になりました。西部ナントには、ジャン・ヌーヴェルのパレ・ド・ジュスティス、テトラックのラ・ファブリックやマニなどがあります。
現代建築には、時代と共に産業構造が変化した結果、停滞してしまった都市に活力を再び与える役割も持っています。例えば、ナントは造船業が廃れた町の産業構造の転換に、建築や「ラ・マシン」と呼ばれるアート&パフォーマンス団体を町の目玉にすることで、観光業などへ経済をシフトしました。
またフランスの町並みは、古いものを壊してそこに新しいものを作るのではなく、それぞれの時代に輝いていた建築家の建物をなるべく壊さず、そこに新しいアイデアやデザインを加えていくという形も多いです。そのため各年代の建築物は保存され町全体が建築の博物館のようになっています。
今もフランスは新しい作品を加えつつ、年々そのコレクションを充実させています。
監修:地球の歩き方