
手軽に観戦できるツール・ド・フランスをパリ市内で応援
2019.7.29
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国連世界観光機関が2020年に行った調査で、フランスは世界でもっとも観光客を集める国に選ばれました。人々はなぜフランスに興味を抱くのか。なぜここを訪れるのか。現地在住日本人ライターが色々な切り口で解説します。
フランスという国を思い浮かべた時、頭に浮かぶのは中世に代表される華やかな貴族文化と、町なかに今も残る歴史的建造物ではないでしょうか。実際、町なかにあるこれらの建造物は世界中から多くの観光客を惹きつけていますし、歴史的なモニュメントから周りを見わたしても現代的な高層ビルなどがほぼ見えず、景観を含めてきれいに残されていることに驚きます。
なぜフランスにはこれほどまでに歴史的建造物が残っているのでしょうか? これは偶然ではなく残すための努力をしてきたためです。
フランスにおける景観保護に関連する法整備は、1913年の「歴史的な記念物に関する法律」や、1930年に制定された「天然記念物および芸術的、歴史的、学術的、伝説的または絵画的な景勝地の保護に関する法律」に加え、1962年には当時のフランス文化相だったアンドレ・マルローにより「フランスの歴史的、美的遺産の保護に関する立法の補完及び不動産修復促進のための法律(通称マルロー法)」が制定されたことが大きく関係しています。そして1977年には、特別な景観の中に景観を阻害する建築物が入らないよう制限する「フュゾー規制」、1993年に定められた「風景法」などが加わり、景観を含めた歴史文化遺産が守られてきました。
法律が制定される前のフランスでは、近代化への考え方が強く、歴史的建造物が新しい建物へと建て替えられることがありました。その風潮の中で、文化財を後世につないでいこうという考え方が高まったことにより法律の制定につながり、現在のフランスの風景を形作ることに寄与しています。
「おしゃれな国」というのもフランスを形容するイメージかもしれません。この印象を海外から持たれているのは、パリを中心にてフランスが“発表の場”として機能していることに理由があります。芸術や文化を中心にフランスで世界の才能が作品を発表することで、それがメディアによってクローズアップされ、注目されるからこそまた多くの人がここで発表を行います。
代表的なのが、年2回(3月と10月に2週間前後)開かれるファッションウィーク(日本での通称は「パリコレ」)。シャネル、ディオール、プラダ、グッチといった高級服飾ブランドを筆頭に、多くのブランドがパリの各所で大きな予算をかけてショーを開催し、人を集めます。ショーは基本的に関係者しか入れませんが、世界中からファッション関係者がパリを訪れるため町なかも一気に華やぎます。
パリコレ以外にも、インテリア、食、科学、産業など幅広いイベントや見本市が年間を通して開かれ、その開催数や規模は世界有数です。多くの人がフランスを訪れることによって、フランスは活力を得て、またそれを町の魅力に変えています。
フランスはスポーツが盛んな国であり、また世界を牽引する種目も多いです。
サッカーだとパリ・サンジェルマン(パリ)やオリンピック・マルセイユ(マルセイユ)といった大都市をホームタウンに持つ世界的チームが有名です。フランス南部はラグビーも盛んで、スタッド・トゥールーザン(トゥールーズ)、モンペリエ・エロー・ラグビー(モンペリエ)といった強豪チームがあります。2023年はラグビーワールドカップの開催国でもあります。
日本の伝統的スポーツにも親しみを持っていて、フランスの柔道の競技人口は約50万人。この数字は日本の約15万人より多いです。オリンピックでも柔道強国として日本選手と上位で熱戦を繰り広げることがしばしばあります。剣道は約8000人の競技人口で、ほかのヨーロッパの国々と比較してもかなり多く、ヨーロッパを代表する強豪国です。
ほかにも、テニスはグランドスラムのひとつ全仏オープンがパリのスタッド・ローラン・ギャロスで開かれますし、ウィンタースポーツでは冬季オリンピックの第1回開催地はフレンチアルプスのシャモニーでした。その後にグルノーブル、アルベールヴィルとフランスでは過去に3回もオリンピックの開催地になっています。2024年にはパリで夏季オリンピックも控えています。
競馬はパリのロンシャン競馬場で開かれる凱旋門賞が特に名高いです。ル・マン24時間レースをはじめ世界的な大会も行われており、国際自動車連盟(FIA)の本部はパリ。またフランス全土を駆け巡って最後にパリに戻る自転車競技ツール・ド・フランスは、自転車愛好家の間ではあまりにも有名です。
これらフランスに興味を抱く理由はさまざまですが、一度フランスを訪れた人がリピーターになってしまう最大の理由がフランスの誇る食文化ではないかと考えます。4000mを超える高所から平野、湿地、大西洋そして地中海と、海と山から取れる豊富な自然の恵みと、それを活かせる料理の技術がフランスの食を世界的に有名なものにしています。首都であるパリには各国から腕自慢の料理人が集まり、彼らが持つ外国の食文化とフランス料理のテクニックが常に混ざり合い、フランス料理に日々新しい魅力が加えられています。
これら魅力はあるものの、メディアやSNSが伝えるフランスは社会の一面を切り取ったものに過ぎず、フランスについての良いイメージが先行することによって、そのイメージとのギャップに悩む場合もあるようです。「パリ症候群」とよばれる適応障害もそのひとつで、フランスに憧れて暮らし始めた外国人が、実際の現地の習慣などに対応できず精神のバランスを崩すことがあります。
私もフランスで暮らし始めてから、フランスの長所と短所に常に悩まされてきました。しかしながら、ひとつ新しいことを知ればまたさらに新しい魅力がそこに隠れているという深みが、フランスへの関心をより掻き立て、今はフランス文化への興味が尽きることはありません。どこかいびつだけれど、そこも結果的に愛おしいと感じさせてしまう魅力がフランスには備わっています。
監修:地球の歩き方