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日本人にとって、パキスタンへの渡航はあまりメジャーではありませんが、2億人(平均年齢22才)を超える人口を抱える同国は、今後経済発展が期待されるグローバルサウスの一角を占めています。では、そのパキスタンの治安情勢はどうなっているのでしょうか。ここでは治安情勢をテロ、一般犯罪、抗議デモという視点から簡単に説明したいと思います。
パキスタンの隣国アフガニスタンで一昨年夏にイスラム主義勢力タリバンが実権を握って以降、パキスタンではアフガニスタンで活動するイスラム過激派が越境してテロを起こすことへの懸念が拡がっています。タリバンは9.11テロを起こしたアルカイダと長年深い関係にあり、パキスタン当局はアフガニスタンのテロ情勢を警戒しています。また、国内のイスラム過激派では、2022年11月にパキスタン・タリバーン運動(TTP)がパキスタン政府との停戦協定の破棄を宣言し、直後にバロチスタン州やイスラマバードで自爆テロを実行するなど、パキスタン国内ではテロへの警戒が必要です。近年ではパキスタン西部バルチスタン州を拠点とする武装勢力「バルチスタン解放軍」も、同国でインフラ開発などを進める中国人や中国権益を狙ったテロ事件を繰り返しています。
パキスタン政府は公式に犯罪統計を公表していません。しかし、筆者の体感も入りますが、パキスタンの犯罪事情は決して良いとは言えません。不特定多数の人が集まる場所においてはスリなどの窃盗被害が発生し、強盗事件では停車中の車両を狙って運転手や乗客に拳銃を突き付けて金品を強奪する、銀行で現金を下ろした人を後ろから尾行し、タイミングの良い時に一気に襲って現金を奪うといった手口が見られます。また、性犯罪も多く、夜間を中心に強制わいせつや強姦等の性犯罪が頻繁に発生しており、女性に限らず子供や青年なども被害に遭っており、最近では首都イスラマバードで外国人女性の自宅を警備していた警備員が寝室に侵入し、同女性をレイプする事案などが発生しています。
抗議デモも頻繁に発生しています。近年では、たとえば2022年5月、当時パキスタンで与党だったパキスタン正義運動による抗議活動がイスラムバードやカラチ、ラホールなどで発生し、一部のデモ隊は暴徒化し、建物を燃やしたり警官隊と衝突したりするなどしました。2023年5月には、元首相のイムラン・カーン氏が逮捕されたことを受け、パキスタン各地がカーン支持者らによる抗議デモが勃発し、治安当局と衝突するなどして多数が死傷しました。ロシアによるウクライナ侵攻で世界的な物価高騰に拍車が掛かり、それによって国内経済も影響を受け、デモ・暴動、犯罪の増加に繋がる可能性もあります。
こういった事実に鑑みれば、パキスタンへの渡航を検討するにあたっては、まずは情報収集に徹し、自らで予防策に努めることが望まれます。特に、抗議デモや暴動は政治のスケジュールに沿って発生する場合も多く、大統領選や地方選などの日程を事前に把握し、そういった時期は渡航を控えるといった姿勢が重要です。また、パキスタン国内で発生するテロは基本的に日本権益を狙ったものではなく、国家機関や軍・警察施設など国内権益を狙ったものであるので、そういった場所には近づかない、長居しないことが重要です。現地にある日本大使館も、テロや抗議デモなどに関する注意喚起を頻繁に発信していますので、常に情報収集をすることが求められます。