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コロナ禍を経て多くの人が旅を楽しむようになる中、人々の旅行への意識や価値観、行動に大きな変化が見られます。SDGsへの取り組みが広がり、観光においても持続可能な「サステナブルな旅」を求める人が増えているのです。
「サステナブルな旅」とは、観光地の自然環境や文化、伝統などといった観光資源、その地域の人々の暮らしにまで配慮された旅のことをいいます。単なる旅行ではなく、観光資源の保全、地域の発展につながるような旅をすることで、地域が元気になり持続可能になるというわけです。逆に、観光客が集まりすぎるために起こる交通渋滞や環境負荷、旅行者の迷惑行為といった「オーバーツーリズム」は持続可能とはいえません。
このような「サステナブルな旅」「持続可能な観光」を浸透させることを目的に、観光庁は「サステナブルな旅AWARD」を創設しました。旅行業者からサステナブルな旅行商品を募集し、観光分野の有識者による審査を行い、大賞(1)・準大賞(2)・特別賞(4)を選出。10月27日(金)「ツーリズムEXPOジャパン2023」(大阪・関西)で受賞商品の発表と表彰式が行われました。どんな旅が「サステナブルな旅」に選ばれたのか、見ていきましょう。
熊本県阿蘇。27万年前からの度重なる大噴火により形成された世界最大級のカルデラが広がり、雄大な大自然は「阿蘇くじゅう国立公園」に指定されています。カルデラの中央には今も噴煙を上げる阿蘇山がそびえ、周辺には広大な草原が広がります。
この草原は千年もの間、自然と人々の営みにより育まれてきた、大切な農地です。人々はやせた大地に牛や馬を放牧し徐々に豊かな土壌を育て、農作物を作り、毎年春には野焼きを行い新たな芽吹きを促す、循環的な農業を行ってきました。しかし、農業の担い手不足などを理由に草原の面積は年々、減少しているのが実情です。
農地ゆえ一般には立ち入れない「千年の草原」を電動アシスト付きマウンテンバイクでサイクリングできるのが、大賞を受賞したツアーです。
ツアーは最初に、阿蘇の自然と暮らし、千年の草原について、阿蘇を知り尽くした地元のガイドが説明をしてくれます。その後、広大な草原をE-MTBで疾走し、牛が草をはむ牧場、山上の絶景ポイントなどへ案内してもらいます。
このツアーのサステナブルなポイントは、ツアー料金の一部が「草原保全料」として草原の維持・保全に充てられること。草原を観光に活用することで、旅行者は特別な体験ができ、地域には雇用や収益が生まれ、草原の環境が守られるというサイクルが回る「三方よし」の仕組みです。阿蘇で遊ぶことが、草原を未来へ引き継ぐことに役立つなんて、ちょっとうれしいですよね。
そのほかの受賞ツアーもいくつか紹介しましょう。
特別賞を受賞した新潟県十日町の「棚田トレッキングツアー」では、ブナ林のトレッキングや古民家宿泊、伝統料理づくりなどを体験。阿蘇と同様に参加料金の一部が棚田保全、棚田耕作者の収入増加と雇用創出による地域コミュニティーの維持に役立てられています。また準大賞の岩手県の「海山体験」では、漁業見学や地産地消の文化とあたたかなおもてなしを体験できるだけでなく、ツアーに参加すること自体が震災復興支援につながります。
これらのツアーの中には決してアクセスがよいとはいえないデスティネーションもありますが、日本人だけでなく多くの外国人旅行者もはるばる地方まで足を運びツアーに参加しています。例えば、阿蘇のツアー参加者の大部分は外国人で、来年の予約状況も好調だといいます。
その理由として、海外の旅行者は「持続可能な取り組みをしているかどうか」が旅行先選びの基準の一つとなっていることが挙げられます。また、日本の文化・歴史を体験しながら理解を深め、地域の人たちと交流もできるサステナブルな旅に大きな魅力・価値を感じているのです。
私たちが旅を楽しむことが、観光地の人たち、自然や環境にとってもプラスになる。サステナブルな旅を選択することは、無理をせず、楽しみながらできる社会貢献のカタチとして今後ますます注目されそうです。