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キリスト教の祝日である聖体節には、ポーランド各地でさまざまな祭典が執り行われる。民族衣装をまとったウォヴィチのプロセッション(行進)、2021年にユネスコ無形文化遺産に登録されたスピチミエシュの花の道は、聖体節に行われる祭典であり、地元住民が脈々と受け継いできた伝統文化である。どちらも儚くも見ごたえがあり、美しさに心ひかれるはず。
目次
ポーランドの中部では聖体節は質素に祝うのが一般的だが、ウォヴィチでは伝統的に華やかなプロセッション(行進)を見ることができる。
ウォヴィチは、ワルシャワから西に80kmのところに位置する。空港があるワルシャワから、車なら1時間程度、列車ならワルシャワ中央駅からウォヴィチ中央駅まで1~1時間30分程度で着く。聖体節のプロセッションの会場となるのは、ウォヴィチ中央駅から徒歩15分ほどのところにあるウォヴィチ大聖堂とその前の広場だ。
ウォヴィチ大聖堂は、バロック様式の歴史的な建造物である。ポーランドの教会は中央の主祭壇と左右の祭壇の計3つの祭壇があるのが一般的。ウォヴィチ大聖堂も3つの祭壇からなるが、聖ビクトリアの聖遺物を祀るために右側の祭壇だけルネサンス様式で作り直されており、本物の布のように柔らかい質感が表現されたカーテンの彫刻などを見ることができる。大聖堂は誰でも入ることができるが、お祈りの邪魔をしないように注意して見学を。
聖体節では、ウォヴィチ大聖堂でミサが行われ、プロセッションがスタートする。
ウォヴィチの民族衣装は、19世紀から受け継がれている。自然の素材で染められている民族衣装は、ポーランドを感じさせる色鮮やかな配色が印象的。一生に一着だけ持つことができるという特別なもので、民族衣装を着てプロセッションに出ることは大変名誉なことなのだそう。実際にプロセッションに参加している方々の表情は晴れやかで、見ているこちらが元気をもらうほど。
ミサは1時間程度、プロセッションは2時間程度行われる。プロセッションでは旗を持った男性が中心に立ち、旗から垂らしたリボンを持って女性が歩く。
聖体節は初夏に行われるので、花のエレメントが多くあしらわれている。ヨーロッパ特有の日差しで色鮮やかな民族衣装が照らされ、とても華やか。さらに、聖歌と鐘の音が広場中に響き渡り、幻想的で美しい。
ぜひ、現地で体感してほしい。
プロセッションが行われる広場には、お土産を買えるショップがある。ポーリッシュポータリー(ポーランドの食器)、伝統柄が刺繍であしらわれたポーチ、かわいいマグネットなど品ぞろえ豊富。ウォヴィチでしか買えないものもあるので、どれを買おうか迷ってしまう。なお、プロセッション中はショップ前が見物客でいっぱいになるので、プロセッションが始まる前に購入するのがおすすめ。
また、修道会だった建物を利用して建てられたウォヴィチ博物館(Muzeum w Łowiczu)もある。町の歴史や民族衣装などが紹介・展示されており、聖体節の日以外でも見学できる。
スピチミエシュの花の道は、2018年にポーランド国内の推薦リストに登録され、2021年にユネスコ無形文化遺産に登録された。これはあくまでも言い伝えだが、ナポレオンが遠征に来るという噂を耳にしたスピチミエシュの住民たちが、彼らを歓迎するために花の道を作ったことが始まりといわれている。結果的にナポレオンはスピチミエシュへ来ることはなく、花の道は神へ捧げられることになったという。つまり、花の道はスピチミエシュで生まれた伝統で、それが今日まで受け継がれているのだ。
取材したこの日(2024年5月30日)は、花の道を見るために約4万人が訪れた。
スピチミエシュは、ワルシャワから車で西に2時間程度、ウォヴィチからだと車で1時間程度のところに位置する。小さい村ではあるが、ポーランドのなかでも古い歴史を持つ村として知られており、エジプトのピラミッドができる前から人が住んでいたという記録があるのだそう。
スピチミエシュにたどり着くまでの道のりは、北海道を彷彿とさせる平原が広がっている。ポーランドの自然の豊かさを感じることができるので、車で通るのも、村から離れすぎない程度に辺りを散策してみるのも気持ちがいい。
なお、付近にコンビニなどお店は見当たらなかったので、事前に飲料水を買って持参するのがおすすめ。この日はマーケットが開催されており、ジュースやアイス、グルメが食べられるほか、陶器などお土産も販売されていたので、飲料水を忘れたからといって困るということはなさそうだが、現金のみ利用可能だったのでご注意を。
スピチミエシュのシンボルである教会。元々は木製の質素な教会であったが、1980年代に改修の話が持ち上がり、1990年代初めごろに今の姿になった。この教会でミサが行われた後、プロセッションが始まる。
一般に、ポーランドの教会は、ドアは誰にでも開かれているそうなので教会の中に入るのは自由だが、敬虔な方も多いので邪魔をしないように注意して見学を。
花の道の長さは一周約2km、教会を起点に村を一周するように作られる。スピチミエシュはポーランドでは珍しく住宅が密集している村で、花の道作りは住宅の前を担当し、住宅がない部分は近隣の住民がやってきて作り上げる。まさに、信仰心と村への愛着から成り立っている伝統だ。
聖体節が近づくと、スピチミエシュの住民たちは、花の道の模様を考え、花の道作りに必要な素材を集め始める。模様は、もともとは花が描かれていたが、最近では花以外にもさまざまなものをモチーフにして描かれている。素材は、花びら、草、枝、葉っぱ、川砂などで、村周辺に咲いている花や草木を取ってくる人から育てたものを摘んでくる人までさまざまだが、重要なのは身近な素材を使うことなのだそう。
花の道を作り始めるのは、プロセッションが行われる当日の朝から。模様はチョークで下書きしたり、砂でかたどったりして、神への敬意をこめながら取ってきた素材を敷き詰めていく。
教会でミサが執り行われ、プロセッションが始まると聖職者が花の道の上を歩き、その後を一般の参加者が続いていく。つまり、花の道は聖体節の当日の朝から作り始め、その日の夕方にはなくなってしまうのだ。
プロセッションが始まるのは17:30~18:00ごろと遅いが、日暮れが遅いのでそれほど暗くならない。また、観客が多く一周2kmでも30分~1時間程度かけてゆっくり回ることになるので、暑さ対策と時間に余裕を持ったスケジュールを立て、プロセッションが始まる前に花の道の見学を。
取材した当日(2024年5月30日)、ミサが行われる教会の目の前に記念文化センターがオープン。
伝統の花の道を365日体感できる映像展示のほか、衣装や神具、花の道の素材、スピチミエシュの村の歴史に関する展示などを見ることができる。展示物は、教区に住んでいる38家族から提供された実物である。
今回の取材では、ウォヴィチとスピチミエシュにアクセス良好のウニェユフに宿泊。ウニェユフは温泉の町として知られ、町の公園には温泉の噴水があるほど。この町にはスーパーもあり、取材した2024年5月の時点で0.75~1リットルのミネラルウォーターが2~3ズウォティ(1ズウォティ=45円程度)で買えたので、気軽に買い物もできる。
今回宿泊した古城ホテルのウニェユフ城にはRestauracja Herbowaというレストランが併設されており、ここでいただいたあまいピエロギが忘れられない。ピエロギといえばポーランド版餃子と称されるようにお肉が包まれているが、あまいピエロギはベリーが包まれあまさ控えめの生クリームが添えられている。ウニェユフを訪れた際はぜひお試しいただきたい。
ウォヴィチのプロセッションとスピチミエシュの花の道は、聖体節の日にしか見られない祭典ではあるが、一生に一度は見る価値のある伝統文化だ。
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TEXT&PHOTO:ヒラカワ