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2025年2月20日発売の『地球の歩き方 J21みちのく 福島 宮城 岩手 青森』では、巻頭に俳優・渡辺謙さんのインタビューを掲載しています。渡辺さんはドラマや映画のロケで何度も東北を訪れていて、宮城県気仙沼市のカフェ「K-port」のオーナーでもある、みちのくと縁の深い方。インタビューもまさにその「K-port」店内で行いました。限られた時間のなか、カフェ開業の経緯や気仙沼への思い、みちのく各地のお気に入りスポットや思い出などをたくさん語ってくださった渡辺さん。この記事は、そのなかから本編の紙面に載せきれなかったエピソードをご紹介する、いわば巻頭インタビューの“続編”です。ぜひ本編とあわせてご覧ください。
以下、(編)=編集部 (謙)=渡辺さん
(編)2011年3月の東日本大震災では、いち早く被災地を訪れていらっしゃいましたね。
(謙)ロケで何度も訪れていて、それこそ半生のお付き合いになる土地です。だからこそ、東日本大震災のときは考えるより先に体が動いて、大きなバンに物資を積んで届けました。現地にたどり着いたら「生鮮食品が足りない」ということがわかって、内陸まで買いに戻ったりもしましたね。
(編)その後、たくさんの避難所をまわっていらっしゃいました。
(謙)おもに岩手と宮城で、避難所を22ヵ所ほどまわりました。マイクを使った全体挨拶のようなものはお断りして、時間の許すかぎり一人ひとりに声をかけたり、肩を抱いたり、時には一緒に涙を流したりしました。
(編)印象に残っていることはありますか?
(謙)訪問した避難所のひとつで、あるお父さんとその娘さんに出会いました。最初に言葉を交わしたときは、おふたりとも「大丈夫です」と気丈に振るまっていらしたんです。でも、本当はご家族をふたり亡くしてとても大変な状況にある、とお隣のご家族から聞きまして。思わず引き返して「大変でしたね」と声をかけました。おふたりの目からは涙があふれた。それを見て、「いったいどれだけの人が、こんなふうに表に出せない思いをためこんでいるんだろう」と考えました。ただただ、その思いを僕も同じ目線で受け止めよう、という一心でしたね。
(編)そして翌年、そのすべてを再訪されましたね。
(謙)最初に訪問したとき、別れ際皆さんが悲しそうな顔をして「もう会えませんよね」「お元気で」と言うので、思わず「ううん、また来るよ」って答えたんです。そして1年後に(閉所した避難所を除き)すべてを再訪しました。「本当に来たねー!」と皆さん笑顔で迎えてくれましたよ。僕は自分のやっていることを支援とは思っていませんが、やはり、支援は継続することが重要です。続けることで現地の課題が見えたり、被災者の心情の移ろいに気づけたり、本当に必要な物資を届けられたりしますからね。
そういう意味で、K-portは僕自身が東北に通い続けるために作った拠点ともいえます。当時避難所でお会いした方と、数年たってK-portで再会することもあるんですよ。「今はこんなことをしています」なんて話を聞けたりすると、店を作ってよかったなと思います。
(編)震災直後、カフェを開業される前の気仙沼はどんな印象でしたか?
(謙)気仙沼を訪問したとき、「磯屋水産」の安藤竜司くんや、居酒屋「ふくよし」の店主と出会いました。震災後の気仙沼はとにかく色がなく、どこもかしこも暗かったのですが、真っ先に営業を再開した「ふくよし」の看板だけが輝いて見えた。それがとても印象的でした。僕がK-portを開業したのは安藤くんの言葉がきっかけでしたが(詳細は『地球の歩き方 みちのく』巻頭インタビュー参照)、自分も灯台のように気仙沼の町を照らしたいと思って、「ふくよし」の対岸に店を作ったんです。
(編)10年余り、どんな思いでお店を続けてこられたのでしょうか。
(謙)1日1日、気仙沼に思いを寄せることを大切にしてきました。僕が一方的に何かをするというよりは、「僕のやりたいことや好きなもの、食べたいものをお客さんにも一緒に楽しんでもらう」というスタンスでやっています。そこでいい時間を共有できると「よし、また何かやろう」と思える。それを10年積み重ねてきました。これからも同じスタイルを続けるでしょうし、変わったことや大きなことをしようとは思っていません。
(編)渡辺さんは、震災をテーマにした映像作品にも多く出演されています。どんな思いで臨んでいますか?
(謙)最近では、山田太一監督のドラマ『五年目のひとり』で、家族全員を震災で亡くした福島県の獣医師を演じました。機会をいただいたからにはきちんとその人生を描こう、と思って臨みますが、やはりプレッシャーはありますね。震災を経験した方々にたくさんお会いしているぶん、「本当の気持ちを汲み取れているんだろうか」という自問自答が続きますし、反省も残ります。映画やドラマ以外では、震災後、ひとりのディレクターと一緒に定期的に東北をまわって番組を作ったりもしています。それらはもう「仕事」とは思っていないですね。ライフワークです。
テレビやスクリーンを通して見る渡辺さんは、唯一無二の存在感を放つ偉大な俳優さんです。一方で、K-portのスタッフパーカーを着て店内に立つ渡辺さんは、港町のカフェオーナーそのもの。町の人たちから気軽に挨拶され、すてきな笑顔で来店客を迎え入れる姿が印象的でした。K-portの料理が衝撃的においしかったことも特筆事項です(ひと口食べてフリーズするほどの感動!)。これから、K-portがどんなふうに気仙沼の町を照らしていくのかとても楽しみです。みちのく旅へお出かけの際は、ぜひ気仙沼を、そしてK-portを訪ねてみてください。
気仙沼内湾の目の前に立つカフェ。東日本大震災後の復興支援で同地と縁が深まった渡辺さんが
「人が集まれる場所を作ろう」と 2013 年 11 月に開業した。自身が店に立つこともあり、
朝食会やクリスマスイベントなども開催されている。設計は伊東豊雄氏が担当。
2月20日発売の『地球の歩き方J21 みちのく福島 宮城 岩手 青森』では、ここには掲載していない渡辺謙さんのお話も掲載。おすすめのスポットやグルメも教えていただきました。
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