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スペインは、地方ごとに「国」があるといわれるほど、多彩な魅力にあふれています。バルセロナを州都とするカタルーニャ州もまた、独自の歴史と文化を育んできました。フランスと国境を接し、地中海を通じて他国との交流がさかんだったこの地域では、食文化もバラエティ豊か。食材も豊富で、スペインのなかでも美食の地として知られています。バルセロナを訪れたらぜひ味わいたい、カタルーニャならではのワインと料理をご紹介しましょう。
ブドウの栽培面積は世界1位、ワインの生産量はイタリアとフランスに次ぐ世界3位と、屈指のワイン大国スペイン。地方ごとに多種多様なブドウが栽培され、その土地の気候や土壌を生かした、個性豊かなワインが造られています。
カタルーニャ州でDO(原産地呼称ワイン)に認定されている生産地は全部で12。その代表がバルセロナの南西に位置するペネデスPenedès地方です。ローマ人の足跡が色濃く残り、古くからブドウ栽培とワイン造りが行われてきました。なかでも、フランスのシャンパンと同じ製法で造られるスパークリングワイン「カバ Cava」は、飲みやすいフルーティーな味わいとコストパフォーマンスのよさで、世界中で愛されています。
また、タラゴナ県の南西にあるプリオラートPrioratは、世界のワイン関係者からも注目される生産地。DOよりさらに高品質なDOQ(特選原産地呼称ワイン)に格付けされているのは、スペインワインの代表格リオハとプリオラートのみといえば、そのクオリティの高さがうかがわれることでしょう。山肌にへばりつくように段々畑が広がり、厳しい自然環境で育ったブドウから造られる赤ワインは、濃厚かつ洗練された味わいでワイン愛好家を魅了しています。
豊かな自然に恵まれたカタルーニャは食材の宝庫。地中海で取れる新鮮なシーフード、山岳地帯で作られるソーセージやチーズ、肥沃な内陸部では野菜や果物、キノコ、ナッツなど、おいしいものが盛りだくさん!
またプリオラートエリアにあるシウラーナは、スペインで最も早い時期にオリーブオイルのDOP(保護指定原産地)の認定を受けた地域で、高級品種アルベキーナから作られるオリーブオイルが有名です。
近年、旅のスタイルとして注目されているのが「エノガストロノミー」。カタルーニャでは、エノガストロノミー・ツーリズムにも力を入れています。エノガストロノミーとは、ワインを意味するエノと美食を意味するガストロノミーをかけあわせた造語で、ワインと料理が互いに引き立て合い調和する美食の世界を楽しむこと。IGCAT(国際ガストロノミー・文化・芸術・観光研究所)が推進する、2025年の「世界ガストロノミー地域(World Region of Gastronomy)にカタルーニャが選ばれたこともあり、さらに注目度もアップ。バルセロナを訪れたらぜひ、おいしいワインとともに地元の料理を味わってみましょう!
カジュアルに楽しめるスパークリングワインとして、日本でも知られるようになったカバ。バルセロナから少し足を延ばして、カバのふるさとを訪れてみてはいかがでしょうか。バルセロナ中心部から南西へ約30km、近郊列車で50分ほどのところにあるサン・サドゥルニ・ダノイアがカバ発祥の地。スペインで生産されるカバの95%がカタルーニャ産で、そのうち80%が人口1万3000人ほどのこの町の周辺で造られています。
サン・サドゥルニ・ダノイアの郊外にあるコドルニウは、1551年創業のスペインで最も古いワイナリー。コドルニウ家のホセ・ラベントスが1872年、スペインで最初にシャンパンと同じ製法によるスパークリングワイン造りに成功しました。1897年には元王妃マリア・クリスティーナによって、スパークリングワインメーカーとして初めてスペイン王室御用達を任命。伝統を大切にする一方で、シャルドネやピノ・ノワールなど新しい品種の商品化に挑戦し、現在でもスペインでの販売実績No.1を誇ります。
それでは、コドルニウのワイナリーを訪問してみましょう。ブドウ畑に囲まれた広い敷地内には、創業当時から残る建物のほか、モダニズムを代表する建築家のひとり、プッチ・イ・カダファルクによる建造物が点在しています。モダニズムとは、19世紀末から20世紀初頭にかけてカタルーニャで流行した建築スタイルのこと。見学ツアーの受付がある建物もそのひとつで、アーチの美しいエントランスホールが訪問者を迎え入れてくれます。
受付をすませたらガイドさんに案内され、昔のワイン造りの道具を展示したミュージアムやカバの貯蔵庫などをまわります。カバとはスペイン語で洞窟という意味で、地下の暗いセラーで長時間寝かせるるため、この名がつけられました。コドルニウの貯蔵庫は地下20mもの深さにあり、年間を通して気温15~17度、湿度は70%ほどと、熟成に最適な環境が保たれています。ブドウの搾り汁を1次発酵させたあと、1本ずつ瓶詰めされたカバは、このセラーで最低でも9カ月から12カ月、長いものでは3~4年かけてじっくりと熟成させることによって、豊かな風味と美しい黄金の泡が生み出されるのです。
見学ツアーのハイライトは、トロッコ型バスに乗ってのセラー巡り。地中を網の目のように張り巡らされた貯蔵庫は全長30km以上あり、実際に走るのはそのごく一部ですが、狭いトンネル内を疾走するのは迫力満点です!
ツアーの最後には、3種類のカバをテイスティングします。カバに使われるブドウは、カタルーニャ固有品種のマカベオ、チャレッロ、パレリャーダのおもに3種類。シャンパンに比べると酸味が穏やかで飲みやすく、果実味あふれるフレッシュな味わいが特徴です。またシャルドネやピノ・ノワールの使用も認められており、ブドウの品種や配合によって、それぞれの個性が生まれます。試飲で気に入ったカバがあれば、併設のショップで購入し、日本へのおみやげにするのもいいですね。
カバの産地として知られるペネデス地方では、カバ以外にも多種多様なワインを造るワイナリーが点在しています。なかでも、150年以上の歴史をもつファミリア・トーレス(以下トーレス)は、スペインでも最大規模を誇る名門ワイナリーのひとつ。日本にも多く輸入されているので、ワインに詳しくなくても一度はトーレスのワインを目にしたことがあるのではないでしょうか。
「キング・オブ・スペイン」、「カタルーニャの星」とも称されるトーレスは、2024年にイギリスの専門誌『ドリンクス・インターナショナル』が選ぶ「世界で最も賞賛されるワインブランド」で世界1位に輝いています。この賞でトーレスが1位を獲得するのは、なんと通算7回目。このほかにも数多くの受賞歴を誇る、世界トップクラスのワイナリーのひとつです。
トーレスのワイナリーは、ペネデス地方のワイン生産の中心地、ビラフランカ・デル・ペネデスの郊外にあります。カバのふるさと、サン・サドゥルニ・ダノイアからは列車でひと駅なので、1日でコドルニウとトーレスの両方を訪れることも可能。カタルーニャを代表する2つのワイナリーで、ワインの造り方を見学し、それぞれ個性豊かなワインを試飲するのも楽しいですね。
世界屈指のワイナリーであるトーレスは、17世紀からこの地でブドウ栽培を行っていたトーレス家により、1870年に創業。独立した家族経営を守り、またスペインでもいち早くステンレスタンクや温度調節装置を導入するなど新しいスタイルのワイン造りに挑戦し、高品質なワインを世に送り出してきました。現在はカタルーニャのほか、リオハやリベラ・デル・ドゥエロなどスペインの主要産地を網羅し、カリフォルニアとチリでもワインを生産。近年は地球温暖化対策として、ブドウの古代品種の再生など環境再生型農業にも取り組んでおり、貴重な自然環境を守りつつ「持続可能なワイン造り」を行っています。
広大なブドウ畑に囲まれたワイナリーに到着したら、まずは10分ほどのビデオ上映(日本語音声あり)でトーレスの歴史や理念を学びます。その後、ブドウ畑を見学し、ソーラー発電のミニバスに乗って醸造所へ。ガイドさんがワインができるまでの工程を説明しながら、セラーを案内してくれます。温度管理された近代的なセラーに、巨大なタンクやオークの樽が並ぶ光景は圧巻です。ツアーの最後は、お待ちかねのテイスティング。4種類のワインと、チーズまたはタパスとのペアリングを楽しみましょう!
ショップでは、トーレスが生産する多種多様なワインを購入できます。なかでも、単一畑のカベルネ・ソーヴィニヨンで造られる「マス・ラ・プラナ」は、ボルドー5大シャトーを制し世界1位に輝いたことがある逸品。しっかりとしたボディに果実の濃密なアロマ、オーク樽由来のスパイシーさがみごとに融合した、スペイン屈指のプレミアムワインです。
最後に、カタルーニャの代表的な料理をいくつかご紹介しましょう。
フィデウア(Fideuà)は、米の代わりに細いパスタを使ったパエリア。魚介のうま味が染み込んだパスタが絶品です! また、米をイカ墨入りのスープで炊いたアロス・ネグラ(Arròs negre)もおすすめ。いずれもアリオリというニンニク風味のマヨネーズをつけて食べます。
スケ・デ・ペイシュ(Suquet de peix)は、地中海の海の幸をふんだんに入れて煮込んだ濃厚なスープ。もともとは漁師たちが市場で売れない傷ついた魚を調理したもので、さまざまな種類の魚のほか、エビや貝を入れるなど、漁師の数だけバリエーションがあるといわれます。
古代ローマのレシピに基づくともいわれるブティファラ(Butifara)は、生の豚肉にスパイスやハーブを混ぜて作るジューシーなソーセージ。白(ブランコ)と豚の血を混ぜ込んだ黒(ネグラ)があり、こんがりと焼いて、ゆでた白インゲン豆と一緒に食べるのが定番です。
カタルーニャの冬の味覚が、カルソッツ(Calçots)と呼ばれるネギを、直火で真っ黒になるまで焼いたもの。焦げた皮をむいて、とろけるような甘いネギにロメスコソースをつけて食べます。旬は12月~3月頃。この時期にレストランのメニューにカルソッツを見つけたら、ぜひ注文してみましょう。
いかがでしたか? ここでご紹介したのはほんの一部です。さまざまなワインと料理を味わって、カタルーニャ・グルメの魅力にふれてみてくださいね!