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寒い時期になると、だれもが食べたくなる鍋料理。食卓を囲んで皆で味わう光景は、日本ならではの冬の風物詩といっても過言ではありません。今回は、地球の歩き方『日本のグルメ図鑑』に掲載している鍋料理のなかから、とりわけ地域色が色濃く表れたご当地鍋を厳選して一挙紹介。体を芯から温めてくれる鍋を通じて、ぽかぽか気分で全国各地を旅してみましょう!
冬定番の料理として、広く親しまれている鍋料理。身近な具材を使って手軽に作れ、バランスよくたっぷりと栄養が摂れるのが魅力です。体を内から温めてくれるだけでなく、鍋を囲んで皆で楽しむことで心も幸せに! 心身ともに満たしてくれる、寒い日にぴったりの一品です。
日本各地には、地域特有の食材や調理方法を用いた鍋料理が数多く存在。スープや具材をちょっとアレンジしただけでまったく別の料理に様変わりするので、毎日食べても飽きがきません。
最近では、カレーや豆乳、トマトスープをベースにした変わり鍋も人気。タイのトムヤムクンやフランス・地中海地方のブイヤベース、韓国のチゲなど、世界各国の味をもとにした鍋料理も定着しつつあります。
広辞苑によれば、鍋料理とは「鍋のまま食卓の上にのせ、煮ながら食べる料理」のこと。おおまかに分けると、おもに水だけで煮て、各自お椀に取り分けてから味をつける“水炊き”タイプ、「寄せ鍋」や「おでん」など“薄味のだし汁で煮込み、煮汁も一緒に楽しむ”タイプ、「すき焼き」など汁気の少ないだし汁で“味をしっかりつけて煮る”タイプの3つに分けられます。
だし汁に薄切りにした具材をさっとくぐらせ、タレをつけて食べる「しゃぶしゃぶ」も“水炊き”タイプ。新鮮な白身魚を野菜や豆腐などと一緒に水で煮た「ちり鍋」も、このタイプにあてはまります。
各地域に伝わる鍋料理には、その土地ならではの食文化や風土が色濃く反映されています。先人が生み出した知恵が詰まった鍋料理も多く、時代を超えて愛されてきました。近年になって、ご当地グルメとして考案されたユニークなものもあります。今回は、そんな地域色が色濃く表れた、気になる鍋料理を厳選。北から南まで、食材別に紹介します。
ぶつ切りにしたサケの身とあら、野菜を昆布だしの汁で煮込み、味噌で味を調えた料理。仕上げにバターや牛乳を加えると、よりまろやかで深みのある味わいに。さらに、山椒を加えると風味が増し、味が引き締まります。
サケ漁が盛んな石狩地方発祥で、かつては大漁を祝って食べられていたといわれています。ちなみに、同じく北海道の郷土料理として知られる「三平汁」は塩または糠漬けにしたサケ、タラなどの魚を野菜と一緒に煮込んだもの。味噌仕立ての石狩鍋に対し、魚から出る塩味で味付けします。
昆布で取っただしに秋田に伝わる魚醤「しょっつる」を合わせた汁でハタハタ、白菜、ネギ、セリなどの野菜、豆腐などを煮込んだ料理。男鹿発祥で、現在ではハタハタ漁が旬を迎える冬、県内全域で親しまれています。
秋田県の県魚でもある深海魚「ハタハタ」から作られる「しょっつる」は、うま味成分たっぷりの独特な風味が特徴。上品な味わいの身、プチプチ食感がたまらない魚卵「ブリコ」との相性も抜群です。
“西のフグ、東のアンコウ”といわれるように、茨城を代表する冬の味覚。あっさりとした塩や醤油、またはまろやかでコクのある味噌仕立ての汁にアンコウの切り身を入れ、季節の野菜や豆腐などと一緒に煮込みます。
アンコウの身は脂肪が少なく淡白で上品な味わいで、同時に皮、胃、エラなどの異なった食感が楽しめるのも魅力。水を一切用いず、野菜から出た水分に味噌を加え、アンコウの肝を溶かして作る「どぶ汁」は、アンコウの味が凝縮された濃厚な味わいが特徴です。
古くから能登地方に伝わる魚醤「いしる/いしり」を使って、旬の野菜や魚介、キノコなどを煮た鍋。「いしる/いしり」はイワシやサバ、イカのワタなどを塩漬けにし、1年以上かけて発酵・熟成させて造る日本3大魚醤のひとつで、クセのある独特な風味が特徴です。
味付けはいたってシンプルで、水(または昆布だし)に「いしる/いしり」を加えるのみ。凝縮されたうま味が具材全体にしみ渡り、コクのある奥深い味わいを生み出します。また、大きなホタテ貝の殻を鍋代わりにし、「いしる/いしり」のだし汁で具材を煮込んだ「貝焼き」と呼ばれる料理も人気です。
広島特産のプリプリとしたカキを用いた鍋。白味噌、赤味噌、酒、みりんなどを混ぜたものを土鍋の縁に“土手”になるように塗り付け、だし汁を加え、白菜やネギなどの旬の野菜、豆腐、糸こんにゃくなどの具材と一緒に広島特産のカキを入れてひと煮立ちさせて作ります。
土手を崩して味噌を溶かしながら食べるのが特徴で、自分好みの味に調整しながら食べられるのも魅力。うま味が凝縮されたスープで、締めに雑炊やうどんを楽しむのもおすすめです。
ぎょろっとした目と飛び出したほお、ギザギザの歯から地元では「ばばあ」「ばば」と呼ばれて親しまれている深海魚「タナカゲンゲ」。見た目はグロテスクですが、その上品な味わいが人気で、さまざまな料理に利用されています。
なかでも人気なのが、上品で淡白な身とコラーゲンたっぷりのコリコリとした皮、それらすべてを野菜などの具材と一緒に醤油ベースのだし汁で煮込んだのが「ばばちゃん鍋」。うま味たっぷりの汁とともに、部位によって異なる食感が楽しめます。
ぶつ切りにしたマグロとネギを醬油、酒、みりんなどでさっと煮立てた鍋。江戸時代、当時は保存が利かず捨てられることが多かったトロなどの脂身をさっぱりおいしく食べる方法として生み出されたといわれています。
マグロの脂が汁に溶け込み、そのうま味をたっぷり吸ったネギはトロリとした食感。シンプルながらも奥深い味わいが人気です。
かしわ(鶏肉)のすき焼き。すき焼き鍋から肉を“引きずる”ように食べることから、こう呼ばれるようになったともいわれています。古くから養鶏が盛んな愛知県で、来客時のもてなし料理として広く親しまれてきました。
味付けに使われるたまり醤油は、ほぼ大豆のみで長時間かけて発酵・熟成させて造られているため、通常の醤油に比べてコクとうま味が強く、味噌に近いまろやかさが特徴。一緒に煮込む具材としては、ネギやシュンギクなどの野菜のほか、未成熟卵や糸こんにゃくなどが人気です。
クジラ肉と水菜の鍋。捕鯨基地の和歌山県太地が近くにあった大阪では、古くからクジラ肉を食べる文化が定着。はりはり鍋は大阪のクジラ料理店が発祥とされ、水菜と食べる際に“ハリハリ”と音がすることから名づけられたといわれています。
昆布やカツオ節からとっただし汁でさっとひと煮立ちさせ、山椒や七味トウガラシをかけて食べるのが定番。クジラ肉が高級品になった現在では、代わりに豚肉を用いて作ったりもします。
牛の骨の周りから“そずり(削り)”落とした肉を使った鍋料理。古くから津山市で親しまれている郷土料理で、醤油ベースのだし汁で野菜と一緒に煮込んで作ります。そずり肉を使うことで脂と濃厚なうま味が汁に溶け出し、絶妙な味わいに。最後は、だし汁にうどんやそばを入れて楽しむのが定番です。
牛馬の流通拠点であった津山では、古くから牛肉文化が発達。ほかにも牛の大動脈を炭火焼きなどにした「ヨメナカセ」、濃厚ダレに絡めたプリプリのホルモンをうどんと鉄板で焼き上げた「津山ホルモンうどん」などのご当地グルメも有名です。
牛や豚のホルモンをたっぷりのニラやキャベツ、ニンニクなどと一緒に煮た博多グルメ。スープは店によってさまざまですが、定番は醤油と味噌ベースで、塩やピリ辛に仕立てのものもあります。
スープと具材を取り分けたら、好みで「ゆずこしょう」を溶かし入れて食べます。「ゆずこしょう」とは、熟す前の青いユズの皮と青トウガラシをすりつぶして混ぜたもので、さわやかな絡みが特徴。最後は、ちゃんぽん麵や雑炊でシメるのが定番です。
霧島市で誕生したご当地鍋。「ぼっけ」とは鹿児島の方言で「大胆・豪快」という意味で、霧島名産の豚肉に旬の地元野菜や豚足、軟骨、サツマイモを練り込んだ特製芋麵などを鍋で煮込んだものです。
赤味噌のうま味とコクが際立った「豚味噌味」、まろやかな味わいの「豆乳味」、あっさりとやさしい味わいの「醤油味」の3種類のスープがあり、霧島市内の提携店で味わうことができます。
八戸を代表する郷土料理。「南部煎餅」を醤油ベースの鶏だし汁に割り入れ、野菜、キノコなどの具材と一緒に煮込んだもので、もともとは冷害で不作だった年に米代わりに食べていたのが始まりといわれています。
戦後、煮崩れせず、もちもちとした食感のせんべいが開発され、寒い時期の鍋料理として親しまれるように。近年、ご当地グルメとして注目が集まり、飲食店でも提供されるようになりました。定番に加え、魚介や馬肉などの具材を使ったもの、塩味、味噌仕立てにしたものなど、さまざまな種類が楽しめます。
鶏ガラベースの汁に手頃な大きさに切った「たんぽ」(=きりたんぽ)と比内地鶏(または鶏肉)、ゴボウ、長ネギなどの野菜を入れ、醤油で味付けした鍋料理。炭焼きや猟のために山籠もりした人々が残りご飯をつぶして木の串に巻き付け、焼いて食べていたのが「たんぽ」の始まりで、それを鶏鍋に入れて食べるようになったといわれています。
ちなみに、秋田県では「だまこ鍋」も人気。きりたんぽの代わりにご飯をつぶして団子のように丸めた「だまこ」を使った鍋で、手軽に作れることから各家庭でもよく食べられています。
宮城県特産品のセリを根までまるごと使った“セリが主役”の鍋。根はさっとゆで、葉や茎は“しゃぶしゃぶ”して食べると、セリ本来の香り高い風味とシャキシャキ感が楽しめます。
各部位ごとそれぞれ違った食感と香り、味が楽しめ、特に根っこは強い香りと歯応えがあり、うま味もたっぷり! 鶏肉や鴨肉を入れ、和風だし仕立てにしたものが定番で、全体的にあっさりとした味わいです。
小麦粉を練ってのばし、幅広く切った“ほうとう麵”をカボチャ、ニンジン、ダイコンなどの野菜やキノコ、油揚げなどと一緒に味噌仕立ての汁で煮込んだもの。生麺をそのままぐつぐつ煮込むため、麺から溶け出したとろみが独特の食感を生み出します。
稲作に不向きな山間部などで米に代わる主食として古くから親しまれていたもので、武田信玄が考案した陣中食だったとも伝えられています。ほかにも山梨には、生地をひと口大の正方形に切ってふたつ折りにしたものをほうとう麵代わりに使った「みみ」と呼ばれる郷土料理もあります。
鶏ガラなどのだし汁に野菜、鶏肉、魚介、豆腐などをたっぷり入れて煮込み、醤油や酒、みりんなどで甘めに味付けした鍋。明治時代に相撲力士たちの体をつくるために考案され、かつては“手をつく(=負け)”四足歩行動物の肉は使われなかったそうです。
ちなみに「ちゃんこ」とは、相撲部屋の調理担当である力士が作る料理のこと。なかでもちゃんこ鍋は定番で、引退後の力士がお店で提供するようになったことから、一般にも広く浸透していきました。
鶏肉、野菜、豆腐などの具材を牛乳と鶏ガラから取っただし汁で煮込み、白味噌や薄口醤油などで味を調えた鍋料理。飛鳥時代、唐から伝わった牛乳がしだいに貴族から僧侶、庶民へと広まり、そのうち飼っていた鶏を牛乳で煮て食べるようになったのが起源といわれています。
まろやかでコクがあり、クリームシチューに近い味わいで、隠し味にショウガを加えることも。最近は、牛乳の代わりに豆乳を使った「大和鍋」も登場し、ヘルシー鍋として人気を集めています。
イサザ、ウナギ、ナマズ、コイなど、琵琶湖でとれた湖魚を旬の野菜と一緒にすき焼き風に味付けた鍋料理。具材を煮るときの音が“じゅんじゅん”と聞こえることから、こう呼ばれるようになったのだといわれています。
一説によれば、もともとは琵琶湖の漁師たちがウナギを牛肉に見立て、すき焼き風に煮て食べたのが始まりとも。最近では、湖魚に牛肉や鶏肉などを加えた“じゅんじゅん”も人気です。
国産レモン発祥の地であり、生産量日本一を誇る広島のご当地鍋。鶏肉や豚肉などと季節の野菜が入った鍋に、皮ごとスライスしたレモンをのせてぐつぐつ煮込んだもので、さわやかな風味と後味のよいさっぱりとした味わいが特徴です。
レモン果汁たっぷりの汁はそのまま飲んでもおいしいほど。さまざまな具材との相性がよく、カキやタイ、タコなど、広島特産の魚介を使ったレモン鍋も人気です。
瀬戸内海に浮かぶ周防大島で誕生した、新鮮な魚介と名産ミカンを使った鍋。まるごとオーブンで焼いたミカンをはじめ、ミカンの皮を練り込んだ地魚のつみれなどが野菜とともに入っていて、飽きのこないさっぱりとした味わいです。
青トウガラシとミカンの皮を練り合わせた「みかん胡椒」が薬味として使われているため、ピリッとした味わいも特徴的。最後は残り汁にご飯を入れ、卵白をフワフワに泡立てたメレンゲをのせ、さらに溶いた卵黄かけて食べます。
昆布などをだしに使う一般的な水炊きとは異なり、皮や骨が付いたままの鶏肉のぶつ切りをだしにした鶏スープが特徴。最初はスープのみを味わい、次に鶏肉、キャベツなどの具材を楽しみ、最後は雑炊で締めくくるのが定番です。
鶏肉を水から煮込むため、基本的に一切調味料は加えません。十分に煮込んだ鶏肉や野菜は皿に取り分け、薬味などと一緒にポン酢をつけて食べます。
心も体もぽかぽかに温めてくれる鍋料理。各地域に伝わる鍋料理には、その土地ならではの食文化や風土が色濃く反映されています。地球の歩き方「旅の図鑑シリーズ」の『日本のグルメ図鑑』では、食にまつわるストーリーとともに全国各地で親しまれているご当地鍋料理を多数掲載。この冬、あなたはもういくつ食べましたか?
TEXT:『地球の歩き方W32日本のグルメ図鑑』編集担当 竹内あや
PHOTO:iStock、PIXTAほか
W32 日本のグルメ図鑑
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