• Facebook でシェア
  • X でシェア
  • LINE でシェア

【静岡県藤枝市】県内最古の酒蔵「初亀醸造」で日本酒の魅力を再発見

地球の歩き方編集室

地球の歩き方編集室

更新日
2025年3月17日
公開日
2025年3月28日

日本酒がおいしい場所、と聞いて思い浮かべるのはどこでしょうか?
お米の産地や伝統的な蔵の残る土地などさまざまあると思いますが、そのひとつに静岡県を挙げたいと思います。実は静岡は、酒作りに欠かせないきれいな水と、酒の肴にぴったりな海の幸・山の幸の宝庫。おいしい日本酒作りと、おいしく日本酒を楽しむ環境が整った、日本酒好きにはたまらないスポットなのです。
今回、「静岡の日本酒を語る上で外せない場所がある」と聞き、藤枝市のとある酒蔵を訪れました。

AD

1. 静岡最古の酒蔵、初亀醸造

訪れたのは、1636年創業の初亀醸造。現存する中では静岡県最古、日本全体でも32番目に古いという老舗の蔵です。銘柄の「初亀」は、『初日の出のように光り輝き、亀のように長く栄える』ということを願って命名され、その縁起のよさから正月や祝いの席に特に好まれています。
初亀醸造は「静岡の食文化との調和」をコンセプトに、日本食によく合うスッキリ辛口のお酒をおもに製造しています。日本一高い山、日本一深い海がある土地・静岡は、焼津港の鰹節からとっただしや、刺身に最適な新鮮な生魚をはじめ種類豊富な食材がそろい、日本食をおいしく食べられる環境が整っています。そんな静岡の地に根差した酒造として、静岡の食に合ったお酒を届けるため日々酒作りに励んでいます。

『ちびまる子ちゃん』の舞台も静岡県清水市(現:静岡市清水区)

静岡県清水市(現:静岡市清水区)出身で『ちびまる子ちゃん』の作者・さくらももこ先生も、こちらの初亀をとても気に入られており、毎年お正月にはダース単位で購入されていったとか。
そんなご縁もあり、『ちびまる子ちゃん』とコラボしたお酒も期間限定で販売されています。その名もズバリ「父ヒロシ」。本当はまるちゃんたちをパッケージにしたかったそうですが、さすがに小学生のキャラクターをお酒の絵柄に使うのは……ということで、まるちゃんのお父さんで酒好きのヒロシが大抜擢(?)されたとのこと。販売後は、まるちゃんファンはもちろん、全国の「ヒロシ」という名前のお父さんたちから大変喜ばれ、入手困難な大人気商品となったそうです。
父の日向けの期間限定商品で、例年通りであれば5月上旬頃から予約を受け付けていますので、気になる方はぜひウェブサイトをチェックしてみてください。

2. 酒蔵見学!麹第一の職人世界

蔵の中も木造で歴史を感じる

今回は特別に、お酒造りも見学させていただきました。
近年では年間を通して醸造する「四季醸造」という蔵が増えていますが、初亀は今も「寒造り」という10~4月の半年間で酒を造る方法をとっています。その年の秋に収穫されたばかりの米を使って、空気がきれいな冬に仕込みを行える点が初亀の酒造りに適しているのが理由です。作った酒の8割が県内、残りの2割が県外に出され、一部海外でも販売しています。

日本酒造りに大事なのは、米、水、酵母の3つ。
お米は、山田錦と誉富士という、10月中旬ごろに刈入れる品種を使用しています。この刈入れ時期というのが重要で、稲の特徴として米が実り始める頃に気温が下がるとおいしくなるという傾向があるため、収穫時期にもこだわって米を選んでいます。加えて、初亀の自社田と県内の契約農家は、360度山に囲まれた山間地に畑があるため、昼夜の寒暖差で農作物の品質がよくなるそうです。

ちなみに、私たちが普段食べる米と酒造りに使われる米は特徴が異なります。日本酒作りに使われる酒米は普通の米と比べてタンパク質が少なく、普通に食べてもあまりおいしくないそうです。(リゾットとかパエリアで食べると意外といけるのだとか。)

米の品種や状態によって吸水時間も変わる

日本酒の有名な地域というと稲作も盛んな地域のイメージが強いですが、日本酒の成分の約8割は水。水が味を決めるといっても過言ではありません。初亀では地下50メートルから組み上げた水を使っています。南アルプスから何十年もかけて流れてきたこの水は軟水に近く、絶妙なミネラルを含んでいます。水のミネラルが少ないと発酵が緩慢に、ミネラルが多いと発酵が活発になりすぎてしまうため、水の成分も重要です。静岡は豊富な地下水に恵まれているため、日本酒造りに適しているそうです。

はしごでないと登れないほど大きな樽

酒造りに欠かせない発酵。そのために必要な麹は、日本の国菌にも指定されており、これがないと醤油も酢も味噌も作れません。
他の菌に弱いため、酒蔵に入る場合は前日からキムチやヨーグルト、納豆などの発酵食品を食べることが禁止されています。もし食べた人が入室した場合は、蔵全体を消毒する一大事に……

そんな重役、麹の姿がこちらです!

抹茶?黄粉?マサラスパイス?いいえ麹です

少し分かりにくいのですが、青い袋に入った粉のようなモノが麹。蒸した米にぱらぱらとふりかけて混ぜることで発酵させます。米の種類によって麹の使用量を変えるのですが、大体この一袋を2週間ほどで使い切るそうです。

麹が発酵しやすいよう室温は約35℃。冬でも半袖で汗だく

ここで発酵のお話。
基本的なアルコール飲料の作り方としては、原料と水を混ぜ、酵母を加えて発酵させる流れとなります。ワインのように原料が果物の場合は、発酵に必要な糖が原料に含まれているためこれだけで発酵ができますが、日本酒のように穀物を原料とする場合は、原材料に糖を加える作業が必要となります。そこで登場するのが麹というわけです。麹の酵素が米と合わさることで、米のデンプンを糖に変えることができます。
難しそうですが、要は「お米をよく噛むと甘くなる(唾液内の酵素がデンプンを糖に変える)」のと同じ仕組みと考えると、なんだか身近に感じます。
化学の概念が存在してなかった古代から、このように発酵を用いた酒造りがされていたことを考えると、とても不思議な気持ちになります。

麹という生き物を管理するため、感覚としては畜産業に近いという

こうして発酵させたものを濾すことで、水分と固形物、つまり日本酒と酒粕に分けます。袋に入れて、重力でゆっくりと絞り出していきます。
絞りの作業は、発酵状況に応じて2~3日に1回行われます。絞られたお酒は、すぐに販路に渡るものもあれば、瓶詰めしてからさらに何年も熟成させるものもあり、一番おいしい状態でお客さんの元に届くよう調整がされています。

発酵した酒を袋に入れ、大きな箱に詰める。自重と重力でじっくり絞る

たっぷりの米と水を使い、手間暇をかけて作られる日本酒。古来、儀式や祭りや祝いの場などの特別な場面で飲まれていた背景も踏まえて、とても特別な飲み物であることがあらためてわかります。

3. 初亀醸造の日本酒を飲み比べ

米・水・麹が作り出す、澄みきったきれいな色

ひと昔前までの日本酒造りは、冬に漁や農業のできない雪国の人々が、日本各地へ出稼ぎに行く際の働き口というのが主流でした。しかし現代では酒造の半分以上を社員でまかない、伝統や技術をきちんと継承している蔵が多いため、今日流通している日本酒は、過去最高においしいと言っても過言ではないそうです。
……というわけで、そんな過去最高においしい日本酒を試飲させていただきました!

左の仕込み水は非売品。イベント出展などでチャンスがあれば飲めるかも!

初亀の味の特徴は、飲んだ時の軽やかな口当たりと、料理を邪魔しない上品で穏やかな香り。酸味も控えめでバランスが取れた飲みやすいお酒です。
個人的にこの特徴が一番わかりやすいのは、ベーシックな黒ラベル「純米酒 特別純米」。ドライでスッキリしているのにあと味まろやかでどんな食事にも合いそうなお味です。
左から2番目の白ラベル「大吟醸純米 瓢月」は少し高級版。黒ラベルよりもさらにクセがなくて飲みやすい感じです。
この中で一番人気だという赤ラベル「純米吟醸 辛辛べっぴん」は辛口の日本酒。こちらもさっぱりしており、食事も進むけどお酒だけで飲んでもいけそう、という絶妙な口当たり。

驚かされたのは「瓶内二次発酵清酒 習作 05/誉富士」という日本酒のスパークリング。フルーティーでとても飲みやすく、日本酒とスパークリングのよいとこ取りのような新しいお味!まだ発売前の商品とのことなので、これからが楽しみです。

4. 日本酒という伝統文化を守る

現在、日本酒産業は斜陽産業のひとつとなっています。作り手不足や材料費の高騰など理由はいくつかありますが、おそらく何よりの原因は消費者の激減。現在日本国内で消費されているお酒の中で、日本酒の消費量はたった6%だといいます。30年前は4000社ほどあった国内の蔵も、現在では1200社まで減ってしまったそうです。単純計算でも10年で1000社減るペースなので、10~20年後には日本酒が飲めなくなってしまってもおかしくない状況です。

ユネスコの無形文化遺産に「伝統的酒造り」として登録もされている日本酒。特に各地で作られる地酒は、その土地の風土や文化が凝縮された、その土地をよく知るための一杯にもなり得ます。国内旅行をした際のおみやげに、おうちでの晩酌に、居酒屋での乾杯に、日本酒を選択肢に入れてみるのも、日本の伝統文化を支える一歩なのかもしれません。

初亀醸造株式会社の詳細情報

住所
静岡県藤枝市岡部町岡部744
営業時間(直売所)
10:00~17:00 ※営業日は公式SNSかウェブサイトで要確認
価格
純米酒 特別純米 1,680 円(税込)、大吟醸純米 瓢月 3,960円(税込)、 純米吟醸 辛辛べっぴん 2,090円(税込)
公式ページ
https://hatsukame.jp/

TEXT : 奥津結香

トップへ戻る

TOP