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静岡県西部に位置する掛川市は、古くは東海道を中心とした交通の要衝として栄えた町で、現在でも歴史ある街並みや自然が残る土地です。それでいて県内有数の工業都市という一面ももち、ほどよく田舎、ほどよく都会というバランスのとれた都市ともいえます。
「住むもよし、旅するのもよし」な魅力がたくさんある掛川市。ネクストブレイクの旅行先として、掛川の文化を体感できるおすすめ観光スポットを紹介します!
葛布(くずふ/かっぷ)とは、葛のツルから編んだ布のこと。植物である葛から作られるため、雨などの水に強く、軽く、それでいて保湿性もあるのが特徴です。また独特の光沢とやさしい手触りをもっており、この布を使用して作る壁紙や小物などは、鎌倉時代から続く掛川市の伝統工芸品です。
掛川城を臨む静かな通りにたたずむのは、小崎葛布工芸株式会社。明治時代から続く工房です。店内は大きな窓と、柔らかい色合いの壁が居心地のよさを感じさせてくれます。それもそのはず、壁や天井にも葛布が使われているんだとか。
葛布は、葛のツルをそのまま編めばよいわけではなく、まず採取した葛を煮沸、発酵、洗浄、乾燥させて葛の糸を作ることから始めます。すべての工程が手作業で行われ、洗浄や乾燥に関しても、川の流水や天日など自然のものが使われます。葛の繊維を縦に細く裂いたものを結び合わせ、紡いだ糸ができあがると、ようやく手織りの工程に移ることができます。
もともとは掛川の産業として重宝された歴史のある葛布ですが、すべてが手作業で行われる制作の過酷さや、葛布作りが行える自然環境の維持、また高い技術力が必要とされることなど様々な理由から、時代とともに工房は減少。現在掛川では、こちらの小崎葛布を含めて2件の工房しか残っていないといいます。
店舗1階の売り場では、2階の工房で作られた葛布を使った商品を取り扱っています。実際に葛布の商品を手に取ってみると、自然素材ならではの心地よさと、手仕事だからできる丈夫さと繊細さに驚かされます。
例えばこちらは日傘。軽くしなやかな葛布の特性が活きています。光に透かした時の色合いもきれいです。
うちわも、葛布の軽さと丈夫さを活かした品。富士山柄が静岡らしいです。紙のうちわや扇子とも違う、葛布ならではの味わいがあります。
鞄も人気の商品のひとつ。自然由来の葛布は、使っているうちに色合いに変化が出てくるそうです。長く愛用する楽しみもあるって素敵ですね!
葛がもつ上品さと、職人技が光る品々。伝統工芸を身近な品として生活に取り入れることができるお店です。
かっぽしテラスの愛称で親しまれている「粟ヶ岳世界農業遺産茶草場テラス」は、2019年にオープンした山頂休憩所。粟ヶ岳の山頂、標高532mから富士山や駿河湾、南アルプスなどの美しい景色が一望できます。
テラス名の「世界農業遺産茶草場」とは、2013年に世界農業遺産として登録された静岡県の農法・茶草場農法のこと。畝に枯れたススキなどをしきつめる農法で、夏の干ばつや冬の寒さを防いだりする効果があるといいます。静岡県では伝統的に茶の栽培で用いられてきましたが、生物多様性保護につながることや、世界的にも希少な事例であるということから評価を受け、世界農業遺産に認定されました。
茶草場農法で用いるススキなどは、束ねて干し傘のような形にします。その時の形を模して造られた建物であるため、「かっぽしテラス」という愛称で親しまれているというわけです。
この日は少し雲が多かったのですが、富士山、大井川、伊豆半島、駿河湾、箱根の山、富士山静岡空港、牧之原台地と、静岡の絶景を楽しむことができました。
山の手前には一面の茶畑。圧巻の光景です。
かっぽし型の部屋の中は天井が吹き抜けになっており、空がくりぬかれたような不思議な光景を見ることも。
このテラスから茶畑を見下ろすと、後ろ姿の銅像が目に入ります。この銅像のモデルは、平安時代末期~鎌倉時代初期の僧侶であり、臨済宗の開祖でも知られる栄西禅師。中国に渡った際、お茶を延命として用いる文化に触れたことから、茶の種と飲茶文化を日本に持ち帰った「日本の茶祖」と呼ばれる方です。
茶文化とともに歩んできた掛川市の歴史は、この栄西禅師によって紡がれたといっても過言ではありません。最も絶景が楽しめる場所にこの銅像を建てた掛川市民。茶祖への敬愛と感謝を感じます。
かっぽしテラスまでの道は、くねくねとしたとても細い山道を行く必要があります。自動車の運転に自信がない方は、トレッキングかサイクリングをオススメします!(急斜面なのでサイクリングも十分注意を!)
お茶文化に思いをはせたところで、おいしいお茶をいただきます。「茶の庭」は2021年にオープンした日本茶カフェ。店舗内には茶葉や茶器の販売スペースもあり、おみやげを買うこともできます。
まずは、抹茶ラテ。濃厚な抹茶とミルクを存分に味わえる、人気NO.1商品です。クリームがたっぷり入っているため、混ぜると味が変わるという楽しみもあります。
真上からみると、3本線のような模様と立体感ある抹茶パウダーが。こちらは畝を抱いた茶畑をイメージしています。味だけではなく見た目にもこだわった一品!
続いてどら焼き。つぶあん、抹茶クリーム、葛餅が挟んであります。葛餅は「かみ切れるお餅」というような独特の食感で、素朴な甘さと満足感があります。香り高く濃い味の抹茶クリームが、あんこによくマッチしていました。
そして最後は和菓子とお茶のセット。季節によってお茶や茶菓子の種類が変わるそうです。今回は茶菓子にシャインマスカットが含まれていたのですが、緑茶と食べるとよりおいしくなることがわかり、フルーツと緑茶がこんなにも合うことに衝撃をうけました。緑茶に玄米をいれて玄米茶風に楽しむこともでき、いろいろな味わい方でお茶をいただけるセットで、おすすめです。
茶器にもこだわっていて、白い湯呑みはワイングラスの形をヒントに制作されており、お茶の匂いを逃がさずに味わえる特別なデザインなんだとか。
店舗の横に製茶工場、カフェの目の前は茶畑があり、茶畑を見ながらくつろぐことができます。お茶の木が育ち、葉をつけ、製茶され、味わう一連の工程がこのエリアの中に納まっていると思うと、お茶の味が一層おいしく感じました。
掛川市を支えてきた産業と農業を、楽しみながら学べるスポットをご紹介しました。日本列島のほぼ中央に位置する掛川市は、新幹線掛川駅や2つの東名ICなど交通アクセスも良く、旅行者にもやさしい町。ぜひ足を運んでみてください!
TEXT&PHOTO : 奥津結香