
W29 世界の映画の舞台&ロケ地
2024.12.12
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オーストリア映画における新たな鬼才・ダニエル・ヘールス、ユリア・ニーマン両監督作品『我来たり、我見たり、我勝利せり』が、6月6日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開されます。オーストリアの美しい風景の中で繰り広げられる億万長者の“残酷な趣味”とは?
穏やかな山道を走る一台のクロスバイク。道端で止まってひと息ついたところ、何者かに狙撃されてしまう…。物語は、そんな衝撃シーンから始まります。撃ち殺された被害者に代わり、涼しい顔でバイクにまたがって山道を走り出すのは、この街屈指の億万長者のアモン・マイナート。起業家として大成功を収めたアモンは、上品でユーモアにあふれ、何よりも家族を大切にする男。しかし、そんなエレガントな姿の裏で、アモンは“狩り”と称して何ヵ月ものあいだ無差別に人を撃ち殺し続けているのでした。
連続狙撃事件がアモンの仕業だということを、街の人たちは薄々気づいているものの止められる者はいません。そうこうしているうちに、アモンの娘・パウラまでもが、父親の傍若無人な姿に影響を受け、“上級国民”としてのふるまいを身につけていきます。ある日、ついにパウラは父親と“狩り”に行きたいと言い出し…。
物語の舞台はオーストリア。不穏なストーリーとは裏腹に、オーストリアの風景のあまりの美しさに心洗われます。本編では、緑豊かな丘や、並木道、歴史的な建築物など、訪れたくなる魅力的な場所がいくつも登場します。そのなかから印象的な3つの場所をご案内しましょう。
まずひとつめは、マイナート一家の邸宅として撮影された「ラズモフスキー宮殿」です。この宮殿は、ベートーヴェンのパトロンの1人であったアンドレイ・ラズモフスキー侯爵が暮らしていた場所。7000平方メートルもの居住スペースを誇るウィーン最大級の邸宅で、約1400点のプライベート・アート・コレクションを所蔵しているのだそう。ちなみに、現在この邸宅は売り出し中とのうわさが。アモンのように財力に自信のある方は購入を検討してみては?
2つめは、アモンが狙撃犯だと確信した記者が待ち伏せするシーンで登場する「ホーフブルク宮殿」。ウィーン中央にあるこの宮殿は、13世紀頃にオーストリア公国公城として建てられ、その後ハプスブルク家や神聖ローマ帝国の王宮となり、1918年までオーストリア・ハンガリー帝国の皇帝の宮殿となっていました。ハプスブルク家といえば夏の離宮である「シェーンブルン宮殿」も有名ですが、ホーフブルク宮殿は冬の主皇宮として使用されていました。作中でも登場する宮殿の噴水の像は、まるで悪者を追いつめるような表情が印象的で、悪事を暴こうとする記者がアモンを追うシーンにぴったりです。
何としても狙撃犯を挙げたい記者がアモンの娘に詰め寄るシーンのロケ地には、カーレンベルガードルフ墓地が選ばれました。ウィーンのカーレンベルクの丘に1878年に建てられた小さな墓地で、ドナウ川とウィーンの街並みが一望できる見晴らしのいい場所です。緑に包まれた美しい場所ではありますが、他人の命を軽んじるマイナート家を咎める記者とのやり取りが死者の眠る場所で行われるのは何とも皮肉です。
いかがでしたか? 本作で登場するのは美しく魅力的な場所ばかりで旅心が誘われることでしょう。映画では恐ろしい事件が起こりますが、実際は、ウィーンはヨーロッパの中でも治安がいい都市として知られています。観光の際には安全に過ごせるよう十分注意を払って楽しい旅にしてくださいね。
TEXT:清水真理子