キーワードで検索
青木 孝
シニア向け旅行会社でのツアー企画や、青年海外協力隊でカリブの国・セントルシアのエコツーリズム開発支援、ドミニカ共和国のJICA事務所で観光分野の企画調査員などを務めた後、アイ・シー・ネットに入社。シニアコンサルタントとして、15年以上南米カリブ地域でJICAの地域観光開発のプロジェクトに従事。
皆さんはコロンビアと聞いて何を思い浮かべますか? コーヒー、サッカー、麻薬や拳銃などの少し怖いイメージがある方も多いかもしれません。実際のコロンビアは観光立国として年間約670万人を受け入れ、ボゴタやカルタヘナ、メデジン、カリなど個性豊かな都市や地域を有し、多様な文化と景観が育まれています。一方で、都市と地方の貧富の格差は拡大し、首都ボゴタでも、貧困層の拡大や治安悪化が深刻な問題となっています。こうしたコロンビアの負のイメージを払拭する一助となっているのがグラフィティです。
グラフィティは、スプレーなどを用いて公共の壁や建物に描かれるストリートアートのことです。現在では町なかにあふれるグラフィティに目を奪われますが、ユニークな例としては、ボゴタでもっとも高いビル、BD Bacatáの最上階南北2面の外壁に文字が描かれており、「ボゴタ最高所のグラフィティ」とも呼ばれています。
コロンビアの首都、ボゴタにある旧市街ラ・カンデラリア(La Candelaria)地区は、ボゴタの旧市街の中心に位置し、国会議事堂や黄金博物館などもある歴史地区で、かつては貧困層が多く暮らしていました。
現在、週末には通りや駐車場に骨董品や古着などを扱う市が立ち、多くの人でにぎわいます。ただし治安は必ずしも良好ではないため、散策の際には注意が必要です。
旧市街の東側、博物館群の横からモンセラーテの丘を望みながら坂道を上る一帯には、芸術性の高い壁画が数多く描かれています。
自由にカメラを片手に歩き回ることもできますが、この地区を熟知したガイドに案内してもらうのがおすすめです。壁画のデザインに込められた意味やアーティストの紹介、描かれた時代背景などを解説してくれるため、理解が一層深まります。ガイドサービスは仲介サイトから予約できますが、現地で直接交渉すれば無料で参加可能です。ただし、ガイドへのチップは忘れずに。
■ The Original Bogotá Graffiti Tour
ガイドツアーを毎日10時と14時に実施、所要時間約2時間30分
URL: https://bogotagraffiti.com/
予約連絡先:+57 321 2974075 / reservas@bogotagraffiti.com
政治的な主張やマイノリティの権利を訴えるものから、商業的なもの、作家の自由な表現によるものまで、作品のテーマは実に多様です。ガイドの説明によれば、2011年に若いアーティストが警察の職権乱用で命を落とした事件を契機に、抗議の動きから始まり、それまで「落書き」と見なされていたグラフィティが合法化され、アーティストが自由に描ける環境が整えられてきたとのことです。ボゴタ市では個人所有の建物には持ち主の許可があれば描くことができ、公共設備も特別な規制がない限り制作が可能です。運が良ければ、実際に複数のスプレー缶を地面に並べて制作中の現場に出会えるかもしれません。
ラ・カンデラリア観光の中心地となるPlaza del Chorro de Quevedo(チョロ・デ・ケベード広場/ケベードの泉公園) は、16世紀にボゴタが町として設立された場所とされ、植民地時代にはスペインの支配地域と先住民地域との境界でもありました。
1832年には広場の名前の由来となったフランシスコ・ケベード牧師によって泉が築かれ、現在では植民地時代の建物と現代のグラフィックアートが融合した空間として、昼間は多くの人々でにぎわっています。広場の屋台では「チチャ(Chicha)」と呼ばれる伝統飲料が売られています。トウモロコシを発酵させた自家製のカラフルな飲み物で、10種類以上の味があり、試飲もできるため、好みの味を選んで飲みながら散策を楽しめます。
■Plaza del Chorro de Quevado
住所:Cl. 12b #2-98, Antonio Nariño, Bogota
作品には作者のサインと制作年月が記され、アーティスト間には「1年間は上書きしない」という暗黙のルールがあります。広く知られた作品は敬意を持って残されますが、やがて色あせれば新しい作品に描き換えられていきます。こうした自由で新陳代謝のある環境と、それを受け入れる住民の存在が、この地区に独特の活気をもたらしています。グラフィティの登場によって地域住民の意識が変化し、治安が改善し、町歩きを楽しむ観光客も増え、ビジネスの機会も広がったといいます。
アーティストの作品を気に入ったなら Cafe Galería Nuestra Herenciaに立ち寄ってください。このカフェでは、地区のグラフィティを手がけたアーティストたちの作品を購入できますし、店内の壁画もじっくり鑑賞できます。コーヒーを片手にひと休みしながらアートを楽しむことができ、作品のサイズや種類も多彩で、関連グッズも販売されています。
■Café Galeria Nuestra Herencia
住所:Cl.11 #2-19, Bogota
営業時間:10:00~22:00
今回はボゴタのグラフィティ事情とラ・カンデラリア地区を紹介しましたが、グラフィティはボゴタをはじめコロンビア全土で広がりを見せています。小さな村のアーティストが大都市で評価され、その後故郷に戻って自身のグラフィティで村を盛り上げようとする例も見られます。コロンビアを訪れて都市や村を散策する際には、ぜひグラフィティアートにも目を向けて、お気に入りの作品を探してみてください。
アイ・シー・ネット株式会社では、新興国・途上国150ヵ国以上で社会課題の解決を行っています。下記のサイトで事業内容を紹介していますので、ぜひご覧ください。