特集「今、こんな旅がしてみたい!」
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2026年は、画家クロード・モネの没後100年という記念年。モネが晩年暮らした場所であり、印象派の多くの作品の舞台にもなった北フランス・ノルマンディー地方では、印象派に関する特別なイベントも企画されています。東京でもアーティゾン美術館で大規模なモネの回顧展が予定されており、関心が高まっています。アカデミックな古典様式から近代絵画へ、美術の歴史を大きく変えることになった印象派。作品のモデルとなったパリ近郊のセーヌ河畔とノルマンディーを訪ね、モネや印象派画家たちが見て、感じた風景を追体験することで、作品に対する理解もぐっと深まるはず。画家たちの時代に思いをはせて、アートの旅に出発!
画家クロード・モネ(1840〜1926)は、パリで生まれ、幼少期よりフランス北部ノルマンディー地方で過ごしました。パリに出て絵を学び、1874年、サロンに落選した仲間たちとともに開いた展覧会で『印象、日の出』を出品。ある批評家から「ただの印象にすぎない」と揶揄されたことから「印象派」の言葉が生まれ、やがて同時代の画家たちと時代を牽引していくことになります。
光の変化によって刻々と変遷する風景を描く手法。なかでも『睡蓮』の連作は、モネの代名詞ともいえるほど世界的に知られています。パリでは、壁を覆う8点の『睡蓮』が圧巻のオランジュリー美術館、代表作が並ぶオルセー美術館、『印象、日の出』を所蔵するマルモッタン・モネ美術館で作品を観ることができます。
ノルマンディー地方、セーヌ川沿いにある村ジヴェルニーは、モネが1883年より約40年間住んだ場所。水と光に恵まれたこの地で、数々の作品を制作しました。1890年には家を購入し、造園に情熱を傾けます。川から水を引いて池を造り、睡蓮を浮かべた「水の庭」、そして四季折々の花を咲かせるパレットのような「花の庭」を造りました。ふたつの庭はモネにインスピレーションを与え、『睡蓮』の連作をはじめとする作品が生まれました。
色調にこだわった家の中は、膨大な浮世絵コレクションで飾られ、池に設置された太鼓橋とあわせ、モネの日本趣味を感じさせます。ジヴェルニーの家と庭は、花の咲く季節のみオープンし、11月上旬〜3月下旬は休館となるのでご注意を。
モネの家と庭園の詳細情報
ジャンヌ・ダルク終焉の地として知られる古都ルーアンは、木骨組みの家が並ぶ美しい町。中心にそびえるノートルダム大聖堂は、モネの作品のモデルとなったゴシック様式の名建築です。モネは、大聖堂の向かいにある建物の2階から、ファサード(正面)を描きました。当時ここは下着店だったため、衝立てを立ててご婦人たちから見えないようにしていたのだとか。
時間や天候によって表情を変える大聖堂を描いた作品は、ルーアン美術館やパリのオルセー美術館で観ることができます。ルーアン美術館は、印象派画家ポール・シスレーの作品も所蔵しており、モネとはまた違った端正なタッチを味わえます。ジヴェルニーの最寄り駅ヴェルノンからルーアンへは列車で45分ほど。朝早く出れば、パリから2ヵ所ハシゴして日帰りすることも可能です。
ルーアンのノートルダム大聖堂の詳細情報
オンフルールは、イギリス海峡に注ぐセーヌの河口にある古い漁港の町。モネが『印象、日の出』を描いたル・アーヴルの対岸にあり、美しい吊り橋「ノルマンディー橋」で結ばれています。この町で生まれたのが、「印象派の父」と称される画家ウジェーヌ・ブーダンです。モネは、若い頃は戯画などを得意としていましたが、ブーダンから屋外で制作することを勧められたことが、才能を開花させるきっかけとなりました。
町から高台に上った所にある「ラ・フェルム・サン・シメオン」という高級ホテルは、かつて印象派画家たちが集い、常宿にしていた場所。モネは、オンフルールからラ・フェルム・サン・シメオンに向かう道の雪景色も描いています。旧港の風景は、画家たちでなくても絵を描きたくなる美しさです。
オンフルールの詳細情報
ふたつのそそり立つ断崖の景観で知られるエトルタ。海に向かって左側にあるのが「アヴァルの崖」、右側にあるのが「アモンの崖」。一見象の鼻のように見える奇岩は、長年にわたる自然の侵食によって形成されました。モネは、白い岩肌が赤みがかった色になる日没時など、時間によって変化する風景を描いています。ほかに、クールベ、ブーダンなどにも描かれており、画家たちの創造欲を刺激する風景なのでしょう。
どちらの断崖も上を歩くことができるので、散策を楽しめます。アモンの崖の上には、現代アート作品が展示されたエトルタ庭園もあります。ふたつの断崖の間は全長1.5kmに及ぶビーチ。ただ、水が冷たいので、のんびり日光浴がおすすめです。
エトルタの崖の詳細情報
モネをはじめとする印象派画家たちは、たびたびパリから近郊に出かけて、作品を制作しました。お気に入りの場所は、セーヌ河畔。水辺の風景は、光によって移ろいゆく様子をとらえるのにぴったりだったのかもしれません。
アルジャントゥイユもよく描かれた場所のひとつ。モネは1870年代にこの町で暮らしましたが、その家を市が改修し、2022年に記念館としてオープン。予約制で内部が一般公開されています。絵画作品の展示はありませんが、調度品を開くと作品紹介のパネルが現れたり、音声で解説されたりとユニークな仕掛けになっています。モネの作品に描かれたアルジャントゥイユ橋へは徒歩20分ほど。受付で尋ねれば、交通量の激しい道路を避けるルートを教えてくれます。
印象派画家の家の詳細情報
パリからノルマンディーへは、パリ最古のサン・ラザール駅から出る列車を利用しますが、この駅自体もモネによって描かれました。パリのオルセー美術館では、機関車から立ち上る蒸気の揺らぎまで表現した作品を観ることができます。
印象派が登場した19世紀は、技術革新が進み、鉄道が発達した時代でもあります。携帯可能なチューブ入り絵の具が誕生したことも、屋外で制作する印象派画家たちの躍進を後押ししました。サン・ラザール駅からジヴェルニーの最寄り駅ヴェルノンまで、列車は大きく蛇行するセーヌ川に寄り添ったり離れたりしながら走ります。車窓にはモネもきっと目にした河畔の風景が。印象派の旅は、列車に乗るところから始まっています。
推薦者:坂井彰代(地球の歩き方フランス編 編集担当)