特集「今、こんな旅がしてみたい!」
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映画ファンの間で早くも注目を集めているのが、2026年7月公開予定のクリストファー・ノーラン監督の最新作『オデュッセイア』(The Odyssey)。古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』を題材にした壮大な冒険ロードムービーで、主演マット・デイモンを筆頭に、アン・ハサウェイ、トム・ホランド、ゼンデイヤ、ロバート・パティンソンなど豪華キャストが勢揃いします。ギリシャ・フィルムコミッションが発表した撮影地には、ペロポネソス半島の山上にそびえるアクロコリントス要塞や海に突き出すメトーニ城、白砂が弧を描くヴォイドキリア・ビーチなどが並び、神話の世界のような絶景ばかり。そんなギリシャの旅のベストシーズンはまさに夏。公開直後の熱気をまとったままロケ地巡りをすれば、旅の感動もいっそう深まるはずです!
『オデュッセイア』は、紀元前8世紀ごろに成立したホメロスの叙事詩で、『イリアス』と並ぶ古代ギリシャ文学の代表作です。『イリアス』がトロイ戦争そのものを描くのに対し、『オデュッセイア』は戦後、英雄オデュッセウスが故郷イタキ島へ帰ろうとする果てしない帰還の旅。
戦争で「トロイの木馬作戦」を考えたオデュッセウスは、海神ポセイドンの怒りを買い、嵐に巻き込まれて難破します。ひとつ目の巨人サイクロプスの島や仲間が豚に変えられる魔女キルケーの島を訪れたり、セイレーンの誘惑があったりと、波瀾続き。絶対に食べてはだめと言われていた太陽神ヘリオスの牛を仲間が食べてしまい仲間が全滅したり、女神カリプソーに7年間軟禁されたりしつつも、最後にはなんとか愛する妻ペネロペのもとへ帰り着きます。ざっくりいえば、“家に帰りたいだけなのに、試練続きでなかなか帰れない英雄の超長い寄り道物語”という感じ。ここからは、映画の舞台となったペロポネソス半島のロケ地を紹介します。
アクロコリントスは、古代コリントス遺跡を見下ろす標高約575mの山頂に築かれた巨大要塞。山の上にどーんと構える石壁と、乾いた岩肌に広がる青い空のコントラストがドラマチックで、映画の歴史や神話の世界観と相性抜群です。
長い歴史のなかで、古代、中世、ヴェネツィア、オスマンと何度も手が加えられたため、“時代のレイヤー”を感じられる重厚感のある場所。ギリシャ文化省が撮影許可を出し、実際にクローズ期間もあったことから、映画のなかでも重要なシーンに使われている可能性が高そうです。
アテネからコリントスまではバスで約1時間とアクセスがよく、麓の古代コリントス遺跡とセットで巡ることもできます。映画公開後は、ロケ地巡りのハイライトになりそうな注目スポットです。
メトーニ城は、ペロポネソス半島の南西に海へ突き出すように建つ中世の要塞。現在は廃虚となっている城は、13世紀前半、この地域を支配下に置いたヴェネツィア共和国によって築かれたとされています。15世紀後半以降、オスマン帝国がたびたび侵攻を試み、1500年にはついに陥落。その後オスマン帝国は城壁を増強したものの、ヴェネツィアとの戦いは長期化し、町は徐々に疲弊。18世紀には衰退が進み、現在は城壁やアーチ、そして海に突き出た塔が往時の姿を静かに伝えています。
今回の『オデュッセイア』の撮影では、城が数日間クローズされたと地元メディアが報じており、海に面した城門周りや石造りの回廊で撮影が行われたともいわれています。神話世界に登場する“城砦都市”や、主人公の帰還を象徴する“港”のシーンに使われた可能性が高そう。海に向かって大きく開けた風景は迫力満点で、映画のスケールにぴったりのロケーションです。
ヴォイドキリア・ビーチは、ギリシャでも屈指の絶景として知られる“オメガ型”の美しい入江。透き通った浅瀬と白砂の曲線がつくる完璧な半円形は、上から見るとまるで神話のワンシーンそのものです。「世界で最も美しいビーチのひとつ」と称えられるビーチの背後には小高い丘とネストールの洞窟があり、自然と神話が並ぶ雰囲気も魅力。
映画『オデュッセイア』では、このエリアが正式な撮影地として発表されており、航海シーンや象徴的なショットに使われた可能性が高い場所。夕暮れ時に染まる入江の眺めは圧巻で、映画でも神話的な美しさを映し出す重要なカットになっているかもしれません。
ヴォイドキリア・ビーチの背後にあるネストールの洞窟は、神話の賢王ネストールゆかりの場所として知られる聖地のようなスポット。入口までは10~15分ほど登る必要がありますが、内部は広く、外光が差し込むと幻想的な雰囲気に包まれます。
『オデュッセイア』の正式な撮影地として発表されており、暗がりを活かした象徴的なシーンが撮られた可能性も。洞窟から見下ろす入江の眺めは、まさに神話の世界そのものです。
ヴォイドキリアの北側にあるアルミロラッコス・ビーチは、白砂と浅瀬が続く、静かで素朴な雰囲気が魅力の海岸。観光地化はされていないものの、環境のよさから地元の人々に親しまれています。
『オデュッセイア』の正式な撮影地としてギリシャ政府が公表しており、夜間ロケが予定されていたとの報道も。焚き火や漂着など物語の転換点を思わせるシーンに使われた可能性が高く、自然そのままの風景が神話的な世界観を引き立てます。
ロケ地として正式に公表されてはいませんが、『オデュッセイア』の物語にゆかりのあるギリシャの地はまだまだあります。映画を観たあと、“物語のルーツを巡る旅”をするのも楽しそうです!
物語のスタート地点であり、ゴールとなるオデュッセウスの故郷。イオニア諸島で2番目に小さな島ですが、のんびりとした島の空気が魅力です。村の広場にはオデュッセウスの胸像も。近くにはシップレックビーチで知られるザキントス島もあるので、あわせて巡るのもおすすめ。
オデュッセウスが故郷イタキ島に戻る直前、王女ナウシカアに助けられる“ファイアケ人の国”は、ケルキラ島だという説が有力です。緑に包まれた美しい島で、ヴェネツィア統治時代の町並みが残る旧市街は世界遺産。ヨーロッパでは長年、人気のリゾート地として親しまれています。ちなみに、宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』のナウシカは、この王女がモデルだといわれています。
長い歴史を持つギリシャでは、どの遺跡や町並みにも物語とつながる“何か”が潜んでいます。例えば、オデュッセイアとは直接の関わりはありませんが、観光客が最も訪れやすい遺跡のひとつであるパルテノン神殿では、アテナ女神が祀られています。彼女はオデュッセイアにも重要な存在として登場しますが、作品によってまったく異なる顔を見せるのも興味深いところ。そうした違いを超えて、アテナ女神という存在がいかに長い時間ギリシャの地に息づき続けてきたか――その連続性を感じ取れるのも、ギリシャ旅の醍醐味なのです。映画をきっかけに、古代神話の世界に少し近づいてみたいと思ったら、次の旅先にギリシャを選んでみてはいかがでしょうか。青い海と太陽の下で、“オデュッセイアの景色”に出合えるかもしれません。
推薦者:澄田直子(地球の歩き方ギリシャ編 編集担当)