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渡辺 知子
大学卒業後、メキシコで約10 年間、民族学・社会人類学を学びながら日銭を稼ぎつつ現地の生活を経験。2004年にアイ・シー・ネットに入社。メキシコ、ドミニカ共和国、グアテマラ、エクアドル、パラグアイ、ガーナ、カンボジアなどで、主に農村地域を中心に、住民が主体性をもって生活を改善していくための協力事業に携わる。現在は、ブータンとグアテマラの業務に従事中。
経済成長よりも国民の幸福「国民総幸福量(Gross National Happiness: GNH)」を重視した国家運営や王室で知られるようになったブータン。ここ数年では、同国の山奥にある小学校を舞台にした映画『ブータン 山の教室』(2019年)が日本でも上映されるなど、ブータンの知名度が徐々に上がっています。
しかし、実際にブータンを観光するには旅行会社を通し、観光税を支払い、ガイドや車両を手配しなければならず、ほかの国に比べると旅行するにはまだハードルが高いのが現状です。本記事では、筆者が訪れた小学校の様子を通して、現地の雰囲気やブータンで息づいている教育方針を紹介します。
筆者がブータンをはじめて旅行したのは2013年。自然や生き物を大切にし、家族みんなでお弁当を持ってお祭りを楽しむ人々の暮らしをみました。同時に、携帯電話の普及によって現金収入が必要となり、若者の都会や海外への出稼ぎが増加するなど、社会が大きく変化しはじめていました。いつかまた訪問したいと思っていたところ、JICAのコミュニティ住民参加促進プロジェクトの仕事で再訪することになりました。
業務出張中に首都ティンプーの外に出るためには政府からの許可書が必要。そのため休日にちょっと足を延ばして地方へ・・・とはいかないのがブータン。特にわたしの場合は短期間の出張だったため、そうたやすく地方を旅行することができません。
時を同じくして、友人がブータンを旅行することになりました。この機会に、旅行者としてティンプー市外へ出る場合は許可書は必要ないため、一旅行者として友人とともに地方を訪ねることにしました。先述の映画『ブータン 山の教室』を観て以来ブータンの小学校を訪ねてみたかったことや、教育関係者である友人たちも現地の学校に関心をもっていたことから、旅行会社に依頼して訪問が実現しました。
首都ティンプーから車で約4~5時間のワンデュ・ポダン県ポプジカ谷。山間にある湿原地帯で、標高はおよそ3000m。毎年冬になるとオグロヅルが飛来することで有名な場所です。
ポプジカ谷の人々は、飛来してくるツルが電線に引っかからないよう、電化よりもツルとの共生を優先し、地上に送電線をはらない選択をしました。現在、送電線は地下に埋められ、電気が通っています。今回の訪問は夏だったため残念ながら実際にツルを見ることができませんでしたが、代わりにきれいな緑に覆われた谷を眺めることができました。
そんな自然との共生が進んでいるポプジカ谷にあるバヤタ小学校を訪問しました。訪問したのは月曜日。一週間のはじまりの日は、全校生徒が集まる朝礼があり、子どもたちは国旗掲揚のあと、校長先生の(長い)お話を聞きます。
ブータンの初等教育は7年間です。5歳で入学し、1年間は就学前教育、日本でいう幼稚園(保育所)の年長児です。それが終わると、6歳で1年生となります。最終学年になると卒業試験があり合格しないと落第となり、卒業できません。制服は、女子はキラ、男子はゴという民族衣装です。
朝礼では、大きな子どもが前に、小さな子どもが後ろに並びます。高学年の児童は、女子の場合は「ラチュ」という赤い布、男子の場合は「カムニ」と呼ばれる白い布を左肩にかけます。ブータンの正式な場ではこの「ラチュ」と「カムニ」の着用が必須で、ブータン人の場合、これを着用していないとゾン(僧院・行政の機能を併せ持つ城砦・エリア)に入場することができません。
そして日本と同じく、小さな子どもたちにとって校長先生の堅い長話はやっぱり退屈で、女の子も男の子も隣の子と遊びはじめます。
現在、ブータンの教育現場で使用されている言語は基本的に英語です。ブータンの公用語であるゾンカ語は国語として教えられます。ブータンには多様な民族がおり、日常生活ではそれぞれの民族の言葉で会話されていますが、若年層には英語が通じます。英語が書けてもゾンカ文字を書けない若者や子どもが増えてきているそうです。町なかの看板などの表記も英語とゾンカ語が併記されており、英語圏ではないほかの国と比べると言葉の面では旅行しやすい国かもしれません。
学校の保健室も見学しました。児童が休憩できるベッドがあり、壁には「タンカ」と呼ばれるチベット仏教の仏像が描かれた掛け軸(写真左側)と「祝!衛生的な月経の日(Happy Menstrual Hygiene Day)」と書かれた手作りポスター(写真右側)が貼られていました。宗教的・伝統的なものと、月経というタブー視されがちな女性の性にかかわるポスターが並列されているのが印象的でした。また、児童の身体、健康を尊重し、小さいころからきちんと性教育を行う姿勢はすばらしいと思いました。
学校の外壁に掲げられていたビジョンにも国民総幸福量(GNH)について触れられていました。
「常に誠実さと忠誠心を持って行動し、自らの行いの結果を自覚するというブータン独自の価値観で築かれ支えられた、国民総幸福(GNH)の教育と啓発社会」
また、その下には、「誠実(Sincere)、思いやり(Mindful)、鋭敏(Astute)、回復力(Resilience)、不変(Timeless)」の頭文字をとったSMARTの文字がありました。
学校は観光地ではなく、子どもたちが勉強するところであるため、あくまでも児童や生徒の妨げにならない範囲で、旅行会社を通じて許可を得た上での訪問となります。見学できる場所や時間は限られますが、教育現場に関心のある方は、旅行会社に尋ねてみてください。
ブータンは、国家プロジェクトとして、生物多様性や伝統文化を守りつつ最新のテクノロジーを導入した「ゲレフ・マインドフルネス・シティー」という新都市を建設中です。そんな新旧入り混じった独特の文化が織りなされる国ブータン。ぜひ訪ねてみてください。
■Prayer Flags Tours & Adventure (今回お世話になったツアー会社)
電話番号・WhatsApp:+ 975-1756-9767
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