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サローム(こんにちは)!
一国の首都だけあって博物館が豊富にある町タシケント。もちろん旅行で来た際は、時間に余裕があればどれかに寄りたいものです。
どの博物館がおすすめか問われたら、私ならウズベキスタン工芸博物館(ウズベキスタン応用美術博物館という表記もされる)と即答するでしょう。ウズベキスタンは知る人ぞ知る伝統工芸が盛んな国で、美しくエキゾチックな工芸雑貨に魅了される日本人旅行者も多いのですが、なんせこの博物館にはそのほとんどすべてが詰まっているのです。タシケントの後サマルカンドやブハラなどの地方都市へ行くなら伝統工芸分野の予習に、また旅程の最後で寄るなら今まで見てきた工芸品の総復習として見学されることを猛烈におすすめします。
窓口でチケット(2022年4月現在で2万5000スム)を買うと、まず窓口裏の入口から入るよう案内されます。入ってみると目に飛び込んでくるのは色鮮やかな空間。日本でも密かにファンが増えてきた、独特な絣(かすり)模様を持つ生地アトラス・アドラスや生地いっぱいの刺繍スザニの展示からスタートです。
アトラス(シルク100%の生地)・アドラス(シルクと綿の混合生地)の名産地はフェルガナ盆地にあるマルギランやナマンガンやシャフリハン、そしてブハラ。スザニの名産地はブハラ、ヌラタ、アンディジャン、プスケント、タシケント、サマルカンド、ジザフ、スルハンダリヤ、シャフリサーブスといった町や地域とされています。それぞれ模様には無数のバリエーションがあり、地域や製作者によってあらゆる意味が込められています。各々英語で説明書きがあるので読んでみましょう。
それににしてもスザニの圧倒的な存在感! 枕カバー用の小さいものから壁掛け用の巨大なものまで展示されていますが、大きいものは幅3mはあるでしょうか。ちなみにスザニの購入スポットとして有名なサマルカンド郊外のウルグットバザールでは、このような大きくてカラフルなスザニを広げながら売り手のおばさんがお客様に迫ってくる光景が定番になっています。
続いては民族衣装コーナー。
ここで注目したいのが、ウズベク帽ドッピ。ウズベク人のおじいさんが被っていたりするとかっこよさがマシマシになる、あの帽子です。男性用は黒字に白模様、女性用はカラフルなドッピが定番になっていますが、ドッピの色や模様も実は地域差があるもの。かつては、ドッピを被っているだけでその人がどこ出身かわかったそうです。また男性用ドッピによく描かれている唐辛子の模様は魔よけの意味を持つなど、やはりよく調べると奥が深いアイテムなのです。ドッピの名産地はナマンガン州チュスト、シャフリサーブス、スルハンダリヤなど。
余談ですが、ウイグル人もドッパという似た名前の帽子を被る文化があるほか、中央アジアにはそれぞれの民族独特の帽子を持っています。中央アジア諸国を旅する方は、ぜひ各国で見る民族帽を比較してみてください。
さらに次の部屋がじゅうたん・民族楽器コーナー。ウズベキスタンや中央アジアの民族楽器、旅情をそそる音色でいいですよね。この国を代表する弦楽器ドゥタールについて前特派員の齋藤さんが記事を書かれていましたが(「ウズベク人の誇り」弦楽器"ドゥタール"を奏でてみた。(前編))、実は私も現在レッスンに通っています。齋藤さん同様、ウストズ(師匠)のスパルタ式レッスンを受けているところです……。
この地域の弦楽器はこの2弦のドゥタールだけでなく、さらに弦が多いタンブールやルバーブといったものがあります。その他代表的な楽器は、管楽器のナイやカルナイやスルナイ、太鼓のようなドイラ。すべて揃えば、結婚式などのイベントには欠かせない華やかな楽団の完成です。
ここまで見学するといったん中庭に出て、奥の建物に入ることになります。ここで私たちを迎えてくれるのは、息を呑むような華麗な装飾。まるで中世のイスラム宮殿のようなスタイルです。
この建物はもともと1907年に建てられたロシア公使の私邸で、この博物館では建物自体が一見の価値大有りなのです。ちなみにこの周辺は今でも高級住宅街で、各国大使館も多いエリアです。東京で例えると代官山あたりがしっくりくるでしょうか。
まだまだウズベキスタンご自慢の工芸品の展示は続きます。こちらはイスラム圏共通の文化、ミニアチュール(細密画)。ここに飾られているのは比較的最近の作品で、歴史的詩人ナヴォイの作品の場面を描いたものとのことでした。
スザニ同様世界的にファンが多い、陶器コーナーも。リシタンやギジュドゥヴァンといった有名生産地の伝統陶器から、帝政ロシア時代やソビエト時代のアンティーク食器まで幅広いラインアップが展示されています。ほかの伝統工芸品同様、やはり時代や地域によって模様や色合いが微妙に異なっているのに気づくはず。
あまり知られていないながらなかなか興味深いのが、ブハラの金刺繍文化とヒヴァの木工細工文化。金刺繍は19世紀終わりのブハラ・ハン国時代に発展し、上着や女性用ドレス、ヘッドバンド、馬具などを金の糸で刺繍していたとのこと。中世から伝統工芸が盛んだったブハラを象徴する文化といえるでしょうか。
そして彫刻や描画などの木工細工文化について。スルハンダリヤ、フェルガナ盆地でも盛んな文化とのことですが、美しく彫られた木の柱や扉など目を惹く大型の展示物は、ほとんどがヒヴァのものでした。実際ヒヴァを旅行すると、この展示物と同様きめ細かな彫刻がなされた木の柱や扉が歴史的建造物に使われていることに気づくでしょう。
博物館入口にも、19世紀の大きな木製扉が展示されているのでお見逃しなく。
このようにありとあらゆる展示品があり、伝統工芸ファンの方にとっては何時間もいられそうなウズベキスタン工芸博物館ですが、ミュージアムショップもあるのです。といっても建物の中庭に雑多な商品が置かれているだけ、果たしてしっかり管理しているのでしょうか……。説明書きや値札もないので、気になるものがあればスタッフに尋ねましょう。
工芸品を見て楽しむだけでなく、購入もできるこの博物館。ここでお気に入りの展示品や商品に出合えるといいですね!
それではコルシュグンチャ・ハイル(また会う日まで)!