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ボルチモアの名跡をたどることは、同時に18~19世紀のアメリカの歴史のさまざまな奥深さに触れることにもつながります。今回は、現在の合衆国国歌『星条旗(The Star Spangle Banner)』のゆかりの地、マクヘンリー砦(Fort McHenry)を訪れます。
ボルチモアという都市がニューヨークやロサンゼルスなどと比べると日本であまり知名度が高くないのは、例えば歴史の授業で1812年~1815年に起きた米英戦争(別名英米戦争、1812年戦争など)に触れる機会が少ないことが関係しているかもしれません。
しかし、18世紀から19世紀のアメリカの歴史をさかのぼると、ボルチモアがアメリカの国の現在に至るさまざまな分野で、大きな役割を果たした都市であることが見えてきます。
ボルチモア発祥の中で最も有名なものは、現在国歌として制定されている「星条旗(The Star-Spangled Banner) 」の歌詞です。市の中心地の南東に位置する、フォート・マクヘンリー(マクヘンリー砦)がその誕生の地です。
公共交通機関を利用する場合、インナーハーバー(Pratt Street とLight Streetの交差点のバス停)から無料で運行されている巡回バスの「バナー・ラインBanner Line」に乗車します。(約20分間隔で運行)
バスに乗車して約30分(道路状況によります)でマクヘンリー砦の公園入口に到着します。
ここは現在国立公園として管理されています。砦の外周の遊歩道は、地元の人々が散歩やジョギングコースとしても利用しています。広い緑園の中に、五角形の星形をかたどった、レンガ造りの要塞があり、東側はチェサピーク湾につながるパタプスコ川に面しています。ここでは1813年9月13日から14日まで夜を通して、米英両軍の激しい戦闘が繰り広げられました。
最初にビジターセンターの建物で入場料を払い(事前にオンラインで購入可)、施設内で上映の短編映画を見て、星条旗の歌詞誕生のあらましを学びます。
捕虜交換の交渉のため湾内の船に足止めになっていたアメリカ人弁護士、フランシス・スコット・キーは、夜通し続いた英国海軍の砲撃の後、夜明けの空にはためく星条旗の姿に心を動かされ、(おお、見えるだろうか、夜明けの明かりの中に~)で始まる有名な詩「マクヘンリー砦の防衛」を書き上げました。その詩の一部が現在のアメリカ国歌の歌詞となりました。
映像の最後にスクリーンが上がって米国国歌が流れるなか、現在の砦に掲揚されている星条旗が見られる演出があります。この時、館内のアメリカ人はほぼ全員が立ち上がって最敬礼をしています。
映画を見たあとは、外に出て、砦の内部の見学に向かいます。砦の周囲には大きな大砲があり、砦内の兵舎や蔵の中は、米英戦争当時の防衛隊の生活用具が再現されています。テーブルの上の食事のメニューまで、かなり細部にわたりわかるようになっています。
マクヘンリー砦は現在も常に星条旗が掲揚されています。ちなみに、星条旗は合衆国に属する州が増えるたび、星の数も何度も変更されています。1776年の独立時は星の数は13でしたが、1812年時点では15個の星(州)がありました。現行の50個の星は、50州目のハワイ州が含まれた、1960年のデザイン変更以来のものです。
1813年9月のマクヘンリー砦の攻防のさなかに掲揚されていた、実際の星条旗は、現在もワシントンDCのスミソニアン国立アメリカ歴史博物館で見ることができます。
マクヘンリー砦の攻防や国歌誕生のあらましを学ぶと、アメリカの人々が抱く星条旗への強い思いと誇り(プライド)のみなもとが見えてくるかもしれません。
ご注意:上記情報は2021年9月取材時のものです。新型コロナウイルスの感染状況によって、公開時間や公開範囲、入場条件などに変更が生じる場合があります。