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アメリカの旅客鉄道網は、長距離が主体のアムトラックのほか、地域ごとにさまざまな通勤列車があります。メリーランド州とワシントンDC間で現在運航されている通勤列車網の中で、最も歴史の古い路線である、MARCのカムデン・ライン Camden Lineについて紹介します。
MARC(Maryland Area Regional Commuter:メリーランド地域通勤鉄道)は、メリーランド州を走る通勤列車網で、首都ワシントンDCの鉄道の玄関口であるユニオン駅Union Stationへつながる3路線(ペン・ライン、カムデン・ライン、ブランスウィック・ライン)を有しています。
最も利用が多く、運行本数も多いのがペン・ラインPenn Lineで、ボルチモア市のペン駅(Penn Station)やBWI空港駅を経由して、メリーランド州北部のペリービルPerryvilleまで結んでいます。ブランスウィック・ラインBrunswick Lineは、メリーランド西端にあるハーパース・フェリーを経由して、ウェストバージニア州のマーティンスバーグまで延びています。
カムデン・ラインは営業キロとしては最も短いですが、ペン・ラインとは別のルートでボルチモアのカムデン駅までを結んでおり、また、カムデン駅はMLB(メジャーリーグ)のカムデン球場の目の前という大変便利な立地にあります。
カムデン・ラインの前身は、ボルチモア・オハイオ鉄道のワシントン支線で、1830年に開通しました。これは現在も運航している旅客鉄道網としては全米で最古だそうです。初期は通勤電車というより、沿線の農場の収穫物を運搬するものがおもな目的だったようです。
ボルチモア・カムデン駅からワシントンDCのユニオン駅までは約1時間の乗車で、運賃は$9です。ペン・ラインと線路を共有しているアムトラック(長距離旅客列車)を利用した場合、ユニオン駅からボルチモア・ペン駅まで当日購入で時には$34もかかることもありますので、かなりお得感はあります。カムデン駅、ユニオン駅ともに切符はMARC専用自動券売機で購入できます。
カムデン・ラインで使用されている列車はおおむねふたつのタイプがあり、ひとつはMARC主流のペン・ラインでも使われる2階建て新型客車、もうひとつは1階建ての旧型客車です。
旧型客車は座席が2~3席の配置で、真ん中を分け目にシートは進行方向と逆方向それぞれ固定されています。網棚はありますが、アムトラックのような各座席のコンセントやテーブルはありません。
客車も4両だけで片側には大きなディーゼル機関車が連結されています。運転席は機関車と反対側(客車の先頭)にも運転席があり、カムデン駅からワシントンDCへ向かうときは、機関車がボルチモア側(最後尾)の位置になるため、客車の運転席で運転士が列車を操作し、動力は後ろからディーゼル機関車が列車を押す形になります。
途中の駅はどれもプラットホームの短い小さな駅で、実際、4両の列車でも全車両のドアが開くことはありません。車内アナウンスを注意して聴く必要があります。先頭車両か2両目あたりのドアだけが開閉され、ホームと列車のドアの高さに高低差があるところは車掌が踏み台を用意して乗客の乗降をサポートします。
ワシントンDCへの通勤がおもな利用であるためか、カムデン・ラインのタイムテーブルを見てみると、運航は平日(月曜から金曜)のみ。カムデン駅発が朝の通勤時間帯(午前5時~午前8時)に5本、夕方の通勤時間帯に2本で、午後6時15分発が「終電」となります。ユニオン駅発の下り列車は同じく朝に4本、夕方に6本運行があり、午後7時45分発が最終列車です。土日の運航があればもっと観光利用に便利になるのにと思いますが、現在の乗車人数の少なさを見るとなかなか増便は難しそうです(※ペン・ラインの方は土日の運航ダイヤがあります)。
古い鉄道路線だけに、車窓の景色も歴史を感じる家々や町並みを見ることができ、車内も少しレトロなインテリアと雰囲気を味わうことができます。