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サローム(こんにちは)!
ウズベキスタンに住み始めて1年以上が経ちましたが、ロシア語圏に住むからにはぜひ見てみたいと以前から思っていた儀式がありました。それが「神現祭」。
名前だけ聞いてもピンとこない方がほとんどだと思いますが、一見水浴びにも見える、真冬に氷の張った川や池に穴を開けて浸かっている信者の写真や映像を見たことがあるという方もいるのでは? まさにこれこそが、イエス・キリストが洗礼者ヨハネに洗礼を受けたことを記念して、1月18日から19日にかけて行われる祭りである神現祭(主の洗礼祭や寒中沐浴という表記も)。ロシアのプーチン大統領もこの祭礼で半裸で水に浸かるのが恒例で、毎年ニュースになっていました。他の東方教会でも儀礼の形式は同じで、カトリックなどでも公現祭という名称で祝われるものの水に浸かることはしません。どうしてよりによって真冬に、それも寒い地域に信者が多い東方教会でのみ水に浸かるのでしょう…。
世界の変わったお祭りに興味があり足を運んできた私、今年こそこの神現祭を見たい!と意気込んで下調べ。サマルカンド最大のロシア教会は、すでに数回訪れたことのある聖アレクセイ教会(Church Of St. Alexius)。この教会は公式ウェブサイトがあり(http://hram-alekseevskii.ru/)、ご丁寧にも神現祭の様子を毎年載せてくれています。そして3年前の神現祭の記事に、教会の敷地内でドラム缶のようなものに水を張って信者が浸かっている写真が。そう、まさにこれを見たいのです!
ウズベク語は多少話せるもののロシア語はわずかしか話せない私にとって、ロシア教会はアウェー。直接問い合わせることもままならないので職場の同僚に代わりに聞いてもらったところ、1/18の午後から祭礼があるとのこと。他のサマルカンド在住日本人数名を誘い、さっそく教会へ向かいます。
ロシアでは1月18日の夜から水に浸かるのが一般的とのことですが、教会ウェブサイトに載っていた以前の神現祭の写真も明るい時間帯に撮られた写真で、ここでは日中に行われるようです。しかし教会の外にそれらしき姿はないので、仕方なく中へ。するとちょうど礼拝の真っ最中で、20人ほどいる礼拝者の賛美歌が教会内に鳴り響き、時折神父さんが香炉を回しながらやって来ます。やはりアウェーな雰囲気ですが、念願の神現祭見学のためなら仕方ありません。
そうこうしているうちに何やら神父さんに祝ってもらうための行列ができ、信者のおばさんに私たちも並ぶよう勧められます。にこやかな対応だったので私たちのことを邪魔者とは思っていないようです。良かった…。
結局私は列に並びませんでしたが、信者たちは何かの液体を額に塗られ、ワインをしみこませたパンをもらっているようでした。後で聞いたところ、この液体は神聖な油、聖油とのことです。
しかし一向に礼拝者たちが外に出る気配がないため、私たちは一度外へ。ちょうどウズベク人の警官がいたので聞いてみたところ、明日朝に水に浸かるからそのとき来いとのこと。というわけで出直しです。
明けて翌朝行くと、今度は教会スタッフに朝はやらない、昼過ぎになったと言われます。この時期サマルカンドでは異常な寒波が続いており、氷点下をゆうに下回る中で水に浸かるのは危険だと判断したのでしょうか。いずれにしろこの国で予定がころころ変わるのは当たり前のことなのでおとなしく引き下がり、三度目の正直を祈って再度昼過ぎに教会へ。
すると敷地内でさっそくやってるではありませんか!
集まっていたのは10人ほどで、女性2人が水に入るところ。確かにドラム缶に冷え冷えの水が並々と入っています。先述の通りロシアでは川や池で行われることが多く、タシケントでは教会のウェブサイトを見る限り敷地内に即席プールを作って行うよう。ドラム缶を使うのはかなりの少数派ではないでしょうか…。
水に入った後、十字を切って頭まで潜るのを3回繰り返すのが決まりのよう。そう、水に少しどころではなく全身浸からないといけないのです。見ているこっちまで寒くなる儀式ですが、宗教の力って本当にすごい…。
しかし意外だったのがこの場の雰囲気で、さぞかしおごそかな雰囲気になるかと思いきや意外と朗らかムード。もう一回やれよとかビデオ撮ろうなどの声が飛び交います。突然現れた謎のアジア人たち(私たちのことです)にもウェルカムモードで、すぐ近くで写真を撮らせてくれました。
女性たちの番が終わると今度は男性が浸かるためにやってきましたが、直前に見物人がさらに水を冷やそうとニヤニヤしながらその辺に転がっていた氷を入れ、水に入ろうとした男性が何でこんなことすんの、と言いたげにその氷を放り投げるという場面も。
私たちが水に浸かったのを見たのは女性2人、男性2人の4人で、私たちが来る前に3人浸かっていたとのこと。つまりこの儀式に参加した猛者は7人いたということになります。浸かるときは周りの見物人がダヴァイ(さあさあ)!祈れば冷たくない!と励まし、無事終わるとマラツィー(よくやった)!と称える、皆が一体感に包まれる儀式でした。
宗教や意味合いは全く違うものの、形だけ見れば日本の禊に通じるものもあるこの神現祭。サマルカンドやウズベキスタンに限らず、正教の教会がある地域にお住まいの方、この時期旅行される方はぜひ見学に行ってみては。ただ当然ながらここが神聖な場ということを忘れず、限度を超えて騒がない、女性はスカーフを被るなどのマナーを守るようにしましょう。
それではコルシュグンチャ・ハイル(また会う日まで)!