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「最近のイギリスは食べ物が意外と美味しい」という議論を耳にするようになって随分経ちますが、もし自分の目で(舌で?)確かめたかったら、まずはバラ・マーケットに行ってみるのが一番なのではないでしょうか。ロンドン市民の台所と言っても過言ではないバラ・マーケット。しかし観光客も多いし、グーグル・マップで点数が高い店やインスタグラムの写真が映える店がいいとも限らないので、数あるお店の中からどこに行けばいいか悩みがちですよね。バラ・マーケットの記事は過去にもありますが、コロナ渦によるお店の入れ替わりや、またトレンドの移り変わりもあります。今回は2023年現在、ロンドンブリッジに住む友人のお薦めをもとに筆者が実際に食べ歩いて美味しかった人気のお店をご紹介します!
バラ・マーケットは恐らくロンドンで一番有名かつ人気のあるマーケットです。日常で友人と出かける際にはあんまり深く考えることはありませんが、マーケットとしてはロンドンで一番古く、なんと1000年ほどの歴史があります。現在の場所に移転したのは1756年のこと。敷地は広く、108軒ほどのお店が営業しているようです(2023年4月現在)。基本的に屋内で、テイクアウト用のフード屋台から、スイーツ、肉類、シーフード、乳製品、フルーツそしてワインバーにレストランと、ここに来ればいつでも新しい食の発見に出合うことができます。
バラ・マーケットはもともと業者向けの野菜やフルーツ専門の市場でしたが、1990年代から個人向けの高品質なアルチザン・フードを提供するマーケットに生まれ変わって現在に至ります。実はマーケットを運営しているのはチャリティー団体で、平等とダイバーシティーにコミットしています。言われてみれば確かに、ヨーロッパからアジア、アメリカ、アフリカまであらゆる地域の食品を見つけることができます。マーケットは大きく3つのエリアに分かれていて、「Borough Market Kitchen」にはフード屋台、「Three Crown Square」には大きめの店舗、「Green Market」には小規模な店舗や専門店が入っています。
「アップル・クランブル」というスイーツをご存じですか? イギリスの冬の時期の代表的なデザートで、リンゴに砂糖とシナモンを加えて煮たものに(アップル)、小麦粉・砂糖・バターを混ぜてボロボロにしたもの(クランブル)をのせた焼き菓子で、温かいカスタードクリームやアイスクリームをかけて食べます。イギリスのパブやレストランで食事をするとデザートのオプションに含まれていることが多いです。そんなアップル・クランブルですが、アイスクリームなどと違い、スイーツとしてテイクアウトで食べるものではありませんでした。そう、「Humble Crumble(ハンブル・クランブル)」が屋台を始めるまでは! 2016年にスタートした屋台は瞬く間に人気になり、現在もここバラ・マーケットで1番人気と言っても過言ではありません。
こちらお店の人気の秘訣は、「あなた好みにカスタマイズできるアップル・クランブル」に限るでしょう。下記のメニューの写真をご覧いただければと思いますが、①アップル・②クランブル・③トップの組み合わせを自由に選ぶことができます。①は基本のアップルに限らず、ベリー系も選べます。②はショート・ブレッドをグラノーラに変えることが可能です。③のトップは種類が豊富で、温かいカスタード、冷たいカスタード、アイス、チョコレート、マシュマロ、ヨーグルト、クリームブリュレから選べます。迷ったら両方かけておきましょう。最後にナッツやメレンゲ、バラの花弁もトッピングできますよ。
ところで、こんなに注文が複雑だと英語がちょっと心配? 大丈夫です。こちらのお店はタブレットで注文する形式で、メニューには写真がついています。ただ、このお店の唯一の欠点は、人気すぎて並ぶところです。筆者は週末に行ったので30分並びました。ただ、並んだ甲斐はあったと思います! 甘酸っぱいアップル・クランブルに選び放題のトッピング、自分へのご褒美にピッタリです。お店はもう一軒、Old Spitalfieldsにもあるそうです。
こちらの「Padella(パデッラ)」は不動の人気を誇るパスタ・バーで、バラ・マーケットに隣接するSouthwark Streetに面した場所に店舗があります。Time out Londonの「London Best Restaurant 100」や、Evening Standard誌の「並ぶ価値があるレストラン」など数々のアワードを受賞しています。手打ちパスタを中心とする極めてシンプルなメニューで、贅沢な具は入っていないのに完成度の高い一皿が素晴らしいです。本場イタリアに行くとカッチョ&ペペ(チーズとコショウ)など素朴なパスタでもなぜか魔法みたいに美味しいことがありますよね。その感じがこちらのお店でも味わえます。パスタ自体は控えめなサイズなので、2人だったら3皿くらい注文して色々な味を試してみるのがおすすめです。パスタ・バーですがもちろん前菜も用意されています。個人的なおすすめはイタリアのフレッシュチーズのブラッタ・チーズです。とても新鮮で、ナイフで切るとクリーミーな中身がジュワ―っと出てきます。至福。そしてお財布にも優しいとなれば、人気も納得です。
ところで、こちらのお店は予約ができません。当然並ぶ必要があるのですが、効率的な行列システムを運営しています。並ぶ方法は、決まった行列開始時間にお店に行ってアプリで行列に加わるか(こちらの方が優先される)、もしくはアプリで並ぶ(こちらはお店に行く必要はないけれど、少し遅い時間に始まる)というスタイルです。予約できないのは不便ですが、ずっとお店の前にいる必要はありません。また、バラ・マーケットならば時間をつぶすのに苦労しないので、ショッピングをするなり、カフェやお酒を飲めるお店に入ってゆっくり待つのがいいでしょう。
筆者が東京に住んでいた頃はあまり中東料理を食べる機会がありませんでしたが、イギリスではレバノン料理を筆頭に中東料理は大変メジャーです。バラ・マーケットの「Shuk;(シュク)」(ヘブライ語で市場の意味)はグルメな友人一推しのイスラエル料理の人気屋台です。こちらのお店の特徴は、とにかくこだわりの材料を使っていることでしょう。タヒニ(中東料理で不可欠なゴマのペースト)、スパイス、蜂蜜などは最高品質のものを使うため、全て中東から直接仕入れています。また、ふわふわのピタも伝統の焼き方を守り続ける馴染みのパン屋から仕入れているこだわりのものです。
メニューはピタ・サンドイッチまたはサラダが選べます。サンドイッチは、チキン・ラムミートボール・ブリスケット(牛の胸肉)の3種類(日によって変更の可能性があります)。サラダは店頭の大皿からカリフラワーやスイートポテトのロースト、ビーツのサラダなど2-3種類を選んで、その上にオプションでチキン・ミートボール・ブリスケットを載せることができます。
筆者は最初の訪問時にはミートボールのピタを選びました。濃厚なトマトソースとさわやかな紫キャベツのピクルス、コリアンダー、チリ・ヨーグルトにハリッサ・オイルのハーモニーが素晴らしかったです。しかし、2回目にチキンを載せたサラダを食べ、美味しくて衝撃を受けたのでおすすめは断然サラダです。サラダというとお腹がいっぱいにならなそうですが、ボリューム感のあるスイートポテト等に肉類が追加されるとかなりの満腹感です。それでいて、たくさん野菜が取れるなんて素晴らしいではありませんか。そしてマリネされたシャワルマ・チキンがエキゾチックなハーブが効いていて感動の味。さすがのバラ・マーケットクオリティでした。滋養にあふれるイスラエル・ランチ、この辺で働いていたら毎日食べたい一品です。
バラ・マーケットにはチーズ専門店が多くあります。試食は市場散策の楽しみのひとつ。見た目だけでは味はわからないので、やはり試してみないと!今回はイギリス、フランス、イタリアのチーズ店でチーズをひとつずつ購入して、自宅で食べ比べてみました。こんなことができるのも、ロンドンのバラ・マーケットならではです。
まず、地元イギリスは「Heritage Cheese(ヘリテイジ・チーズ)」。2017年にバラ・マーケットからスタートしたチーズ店で、現在はダリッジにも店舗があります。いくつか試食させてもらい、ゴートチーズで2019年にGreat Taste Award3つ星を獲得したTho(トゥ)をセレクトしました。サマセットのチーズ農家が作っているもので、トゥはケルト語で丘という意味だそう。そのせいか、チーズとしては変わっている、山のような形をしています。クリーミーなカビチーズで風味をつけるために表面に少し灰をまぶしてあります。ちなみにこの生産者のチーズはレイチェルやキャスリンなど女性の名前のものが多く、意中の女性の関心をひくためにチーズに彼女の名前をつけたからだそう。また、自社のチーズは彼女たちのように「スイートでふくよかで、ちょっとナッティー(クレイジー)」だからだとか。
次はフランス。向かい側にあるお店「Une Normande a Londres(ユヌ・ノルマンド・ア・ロンド)」というノルマンディー出身の兄弟が経営しているフランスチーズの専門店で探しました。この店でしか手に入らないレアなフランス・チーズがほしい、と言ったところ店員のお姉さんが「何といってもここはロンドンだからね…大抵のチーズは他でも手に入るわね」とのこと。正直で好感度が高いですね。最終的に彼女が「Guilty Pleasure(密かな愉しみ)」と薦めてくれたハート形のNeufcheatel Cheese(ヌーシャテル・チーズ)というAOCのチーズをセレクトしました。ほぼジャケ買い状態でしたが、後で調べたら非常に古い白カビのチーズで6世紀頃にフランク王国で食べられていたという説があるとか。食感はカマンベールチーズに似たソフトさですが、味はもう少し塩気がきいていてコクがあります。
最初は英仏対決、と思っていたのですが、「Drunk Cheese (ドランク・チーズ)」というイタリア・チーズのスタンドを見かけて立ち止まらずにはいられませんでした。この専門店では何とチーズをお酒に漬けて熟成させた製品を売っているのです。赤ワインにプロセッコから始まり、デザートワインやジンまで様々なお酒に漬けられたチーズたち。ワインにチーズを漬けるという発想は、第一次大戦中に空腹の兵隊にチーズをとられないように農家がワイン樽の中にチーズを隠したことから始まったそうです。一番人気の赤ワインのチーズをはじめ色々と試食させてもらいましたが、最終的にBlugins(ブルー・ジンズ)というRoby Marton Ginに付け込んだブルーチーズをセレクトしました。(名前はジーンズとお酒のジン&ブルーチーズをかけた洒落ですね)もう、包み紙をあけると笑ってしまうくらいお酒の香りがします。
さて、3か国対決、イギリス一家と一緒に食べ比べてみました。勝者は…!
フランスのヌーシャテル・チーズが一番人気でした!Guilty Pleasure強しです。どのチーズも個性たっぷりで美味しかったのですが、やはりバランスがよく、控えめなのに完成度が高かったです。
さて、バラ・マーケット、食べたいものは見つかりましたか?
バラ・マーケットはアクセスがいいので、市場散策の後はタワー・ブリッジの方角にテムズ川沿いを散歩するもよし、テート・モダンに行ってアート鑑賞もよし、グローブ座で観劇もよしです。
失敗して記事にしなかった場所も含め(インスタ映えで試してみたお店は価格が高い割に味がイマイチでした)、筆者はこの1週間で明らかに食べすぎました。次回はバラ・マーケット以外のロンドン・ブリッジ周辺のおすすめスポットをご紹介します。こちらもレストラン&パブが盛りだくさんです。お楽しみに。