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東ロンドンに位置するショーディッチ・エリアはファッションやグラフィティが有名な、ヒップスターの集まるトレンド発信地。シェークスピアの時代には劇場があったショーディッチですが、金融街シティから近いにも関わらず、元々は治安がよくない地域でした。それが1990年代から賃料が安いということでアーティストたちが移り住むようになり、がらっとイメージが変わりました。また、2010年頃から政府のイースト・ロンドン・テック構想を受けテクノロジー系新興企業などがオフィスを構えたこともあり、現在は安全で活気のあるエリアになっています。東京に例えるなら原宿のような感じで、ナイトクラブやおしゃれなバーなども多数あります。ブリックレーンはショーディッチにある通りで、Old Truman Brewry(オールド・トルーマン醸造所)を中心にマーケットや個性的なショップ、飲食店が軒を連ねています。今回は、トレンド最前線のショーディッチをご案内します!
ショーディッチというエリアの雰囲気を伝えるのには、街中に溢れるグラフィティの写真を見てもらうのが一番だと思います。カラフルでポップなストリートアートが建物の壁のそこかしこに溢れていて、まるで街全体が美術館のよう。新しいグラフィティを見つけるたびにワクワクしてしまいます。必見はRivington Street(リビングトン・ストリート)にあるDisignated Grafiti Area(Cargoという場所)付近です。バンクシーのグラフィティを見つけることができます。(バンクシーの作品だけはグラスで保護されています)こちらの警官がプードルを連れているものは「Guard dog(警察犬)」と呼ばれており、警察と当局を皮肉るものだとか。敷地内には同じくバンクシーの有名な「His Master's Voice(飼い主の声)」もありました。犬が蓄音機にバズーカを向けているものです。もともとの絵は音響会社・日本ビクターのロゴにもなっていましたが、バンクシーの絵はそのパロディ。もう体制の言うなりにはならないというメッセージと、資本主義に毒された音楽業界に対する批判、という解釈があるそうです。リビングトン・ストリート付近にはその他にもイギリスの有名グラフィティ・アーティストのStikやNathan Bowenのグラフィティがあります。
ブリックレーンのオーバーグラウンド(電車)の高架近くにも多くのグラフィティがありますが、こちらはどうやらかなり入れ替わりが激しいようで、行くたびに新しいグラフィティに変わっています。今回はフレディ・マーキュリーやダリなどが印象的でした。
基本的にはロンドンでグラフィティは違法行為。罰金が科され見つかり次第自治体によって消されてしまうそうですが、ショーディッチの表通りにある作品は建物の所有者の許可を取って描かれたものが殆どだと思います。また、最近では自治体に申請するとグラフィティの場所を探してもらえるなんていうシステムもあるそうです。以下、お見せしたいグラフィティが多すぎるのでギャラリーとしてご覧ください。
ボックス・パークは2011年にショーディッチにオープンしたポップアップ・モールです。現在ではショーディッチ以外にもウェンブリーやクロイドンにも展開していますが、当時は革新的でした。というのも、運送業用のコンテナを使用して小売事業主にポップアップ・ショップの場所を提供したためです。特に実店舗を持たない多くの中小ブランドにとってはショーディッチにポップアップ・ショップを持つというのはまたとないPRの機会になります。しかも期間限定のコンテナ・スペースなのでコストも少なくすみます。1階と2階があり、1階は小売店やスイーツのお店などが35軒ほど、2階はお酒を含むフード屋台16軒と広い飲食スペースがあります。(2023年6月現在)
コンテナを使用しているため、1階はどのお店もサイズは同じで細長い形になっています。ボックス・パークの魅力は、デザイナーや事業主との距離が近いことではないかと思います。例えば、アート作品を販売するこちらのお店「Blanchouse」では作品を制作したご本人から説明をしてもらう機会がありました。彼はパートナーと二人で、世界中のこれまで旅したAirbnbなどの実在する部屋の写真をイラストに変換して、ポップな色を彩色しているアーティストです。携帯電話で元々の部屋の写真も見せてくれました。どれもおしゃれな部屋ではあるのですが、配色のセンスが卓越しているので、イラストの方が断然スタイリッシュです。筆者も大好きなバルセロナの絵を見つけたので、購入してみました!中サイズが額付きで25ポンドというのはかなりリーズナブル。オンラインだと自分の好きなテキストを入れてもらえるサービスもあるようです。
もう一つの気になったお店は「Batch1」というポップなキャラクターTシャツのお店です。ホットドッグやハンバーガーなどのジャンクフードがキャラクターになっていて、ちょっとした洒落などが書かれています。(牛乳とシリアルの絵で「シリアル・キラー」とか、カットされたピザで「ハブ・ア・スライス(ナイス)・デイ」とか)90年代後半のファッションを思い出す雰囲気の店内です。ユニセックスのTシャツ、パーカー、トレーナーなどが売られています。決して大人らしいとは言えないデザインなのですが、あまりに可愛いので私の中の中学生が暴走して、Tシャツを購入してしまいました。ポップコーン君、ハンバーガー君などどれも捨てがたく迷いに迷いましたがピザのメニュー柄(色々な形のピザにそれぞれ顔がついている)にしました。Tシャツを買ったらおまけとして好きなキャラクターのステッカーを3枚選べて嬉しかったです。
今回は2店だけ取り上げましたが、他にも個性的なポップアップが盛りだくさんありますので、お気に入りのお店を見つけてくださいね。
ボックスパーク ショーディッチ
詳細をみる1660年に開業したオールド・トルーマン醸造所は11エーカーの敷地を有し、かつてロンドン最大のビール醸造所でした。1989年に閉業して、現在その土地はマーケットとして使用されています。トルーマン・マーケッツは6つのマーケットによって構成されています。若いアーティストやデザイナーのアートやクラフトを中心に80店ほどが出店し土曜日限定の「Backyard Market(バックヤード・マーケット)」、英国・欧州のビンテージのスペシャリストが古着やアクセサリーを販売する、60店ほどが出店し毎日営業の「Brick Lane Vintage Market(ブリックレーン・ビンテージ・マーケット)」、毎日営業のフードトラック「Ely's Yard Food Trucks(イーリーズ・ヤード・フード・トラックス)」、新進気鋭の独立系ファッション・デザイナーのコレクションなどを扱う、土曜日限定の「Rinse Showrooms(リンス・ショールームズ)」、40軒ほどのフード屋台が並び、同時に古着や手作りアクセサリー、アートや小物などの店も出店する、週末限定の「Upmarket(アップマーケット)」、アンティーク、家具、ハンドメイドグッズなどを扱う、週末限定の「Tea Rooms(ティールームス)」があります。今回はこの中から2つのマーケットをご紹介します。
まずは一番おすすめのブリックレーン・ビンテージ・マーケットです!
ピンク色のネオンが印象的な入口を下っていくと、地下スペースに古着屋さんが軒を連ねています。ここがブリックレーン・ビンテージ・マーケット。店員さんもお客さんも、さすがセンスのよいおしゃれな人が多いです。各ショップも、雑然と古着を売っているのではなくてセレクト・ショップのようになっています。全く古さを感じさせず、見ていると欲しくなる魅力的な洋服や小物がたくさん。当初、ビンテージと聞いて何となく1960-70年代などの洋服を想像していました。勿論そういう年代ものの洋服を扱っているお店もあるのですが、どちらかというともう少し最近の服を扱った古着セレクト・ショップが多かったです。値段は総じてリーズナブルで、古着なので自分に合うサイズを探すのは大変なのですが、ファスト・ファッションのお店で服を買うなら、このマーケットに来て個性的な洋服を探すほうが同じような値段で全然おしゃれだなと思いました。今の世の中、おしゃれってお金をかけなくてもできるんですよね。
30歳をこえると何となくコンサバな洋服を選んでしまいがちなのですが、イギリスは他人が何を着ているかをそれほど気にしない国(特に年齢にふさわしいファッションなんて全く気にしません)でもあるので、このマーケットに来て「あなたは何を着てもいいのよ」と言ってもらえているような気がしました。色とりどりの古着を眺めながら、先ほどのボックス・パークと同様に、「誰の目も気にせず何でも選んでいいなら、本当にあなたが好きなのはどんなもの?」と感性に問いかけられるような不思議な感覚でした。ショーディッチ・マジックですね。
尚、お国柄バーバリーの古着専門店などもあり、それはなかなかの値段でした。サイズもちょうど良かったけれど予算オーバー。男性が群がっていたのはサッカー・ユニフォームの古着店。好きな人にはたまらないのでしょう。洋服ではないですが、同じスペースに中古レコードのお店もありました。
次にアップマーケットをご紹介します。アップマーケットは室内で地上階にあります。40店ほどのフード屋台が入っているのが特徴です。週末限定でとても活気があり、ロンドンのマーケットでは珍しく、どの店でも「食べてみて!」とつまようじで試食をすすめられます。(試食は今までカムデン・マーケットの一部のアジア屋台でしか見たことがありませんでした)危うく試食だけでお腹いっぱいになるところでした。フード屋台のラインナップは様々ですが、他のマーケットと比べると、中国・韓国・和食などの東アジア料理が多めです。その他インド、メキシカン、ジャマイカンなどがいくつかありましたが、他でよく見る中東料理や、ハンバーガーなどのアメリカン、ピザなどのイタリアンは殆ど見当たりませんでした。私は韓国料理、同行者はホットドッグを選びました。韓国料理はチャプチェか白米をベースとして選べて、小だと2品、中だと3品、大だと4品の韓国惣菜を選ぶとベースの上にのせてくれます。少量を試食した時は美味しかったのですが、いざ買ってみると味付けが濃くて、更にうっかりベースにチャプチェを選んでしまったので、お惣菜とどちらも味が濃くて、ちょっと失敗でした。フードコーナーで購入した後は、アップマーケットの裏手にある屋外広場や、建物の2階にある飲食スペースで席を見つけて落ち着いて食事することができます。また、ついつい食べ物ばかりに目が行きがちですが、アップマーケットでは食べ物コーナーの後ろ側にアートや小物などを販売しているスペースがありますので、こちらもお忘れなく。
ブリック・レーン・マーケット
詳細をみるショーディッチで働いている取引先の人に教えてもらった人気店が「Manteca(マンテカ)」です。イタリアンを提供するお店ですが、「イタリアン・インスパイヤ―ド(イタリア料理に影響を受けた)」なので、王道イタリア料理というわけではなく、少々アレンジされています。だからといって侮ってはいけません。ここ数十年のロンドンの食の進化の集大成のレストランと言っても過言でないくらいのクオリティで、次世代のロンドン流イタリアンだと思います。マンテカはインハウスのサルメリア(イタリア語でハムやソーセージなどの肉製品を扱う店)を擁しているので、肉料理が特に美味しいです。またハンドメイドのパスタはロンドン・ブリッジの有名店「パデッラ」を思わせる食感でとても新鮮でモチモチ、添加物を極力使わないナチュラルなワイン、窯で焼きあげたパンなど、どの食材にもこだわりがあります。ダック・リバーのパテ、ラグー・パスタをはじめ料理はとにかくどれも美味ですが、格別だったのは鴨のグリルでしょう。さすがお肉屋さん、という感じでジューシーで焼き加減も絶妙でした。お肉はかなりボリュームがありましたが、前菜とパスタは比較的小さめなので、いくつか頼んでシェアするのがいいと思います。イタリアンのお店だとパスタなどシェアしづらいですが、このお店はロンドン・スタイルなので気楽です。ロンドン流イタリアンとして完成されていて、ぜひ、再訪したいお店です。人気店なので、数日前から予約を忘れずに。
前編最後はロンドン在住日本人の方から薦められたお店で、ブリックレーンにあるレトロな雰囲気の日本の喫茶スイーツ店です。店名の「かつてKatsute」はノスタルジックを意味しているそうです。思わず懐かしくなる、おばあちゃんの家にありそうな木製のタンスや棚、ランプなど日本のアンティーク家具が置かれています。このお店で嬉しいのは、日本式の抹茶のミルクレープが食べられること。しかも、ひょっとしたら日本より美味しいかもしれません。濃厚な抹茶パウダーと、絶妙な密度のクレープのレイヤー、最高でした。他にも、練り切り、餡バター、若鮎、フルーツサンドイッチ、桜餅などの「そうそう、そういうのが食べたかったのよ。でも売ってないのよ…」というメニューのオンパレードです。お茶も「かぶせ茶」「柚子茶」「ほうじ茶ラテ」などを揃えています。スイーツはもちろんテイクアウトできますし、茶葉も販売しているようです。さらに日本式の喫茶店としてはちょっと突飛なのですが、日本酒も提供しています。上記のマンテカと同じく、純日本経営ではなく、オーナーはJoe Mossmanというイギリスの方。日本の文化や食事に魅せられ他にもエンジェルで居酒屋を経営しているそうです。というわけで、あくまでもロンドン・スタイルの日本の喫茶店なのですが、ここまで本格的にしてくれるとは、と感無量ですね。まだまだお客さんはアジアの人が多めですが、いずれは必ずしも日本文化に関心がなかったイギリス人にも身近なものになって、もっとこういうお店が増えてほしい、と自分勝手な夢を見る筆者でした。
ショーディッチには魅力的なスポットがまだまだあるので、後編に続きます!お楽しみに。