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今回はロンドンのおすすめ観光スポットをシェイクスピアという切り口でご紹介したいと思います!シェイクスピアについて詳しく知らなくてもレオナルド・ディカプリオ主演の「ロミオ+ジュリエット」(1996)なら見たことがあるとか、「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」というセリフならどこかで聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。イギリスが生んだ天才シェイクスピアが世界に与えた影響は計り知れません。シェイクスピアを知らなくても満喫できるスポットばかりですが、知っていると更に楽しめるので、奥深いシェイクスピアの世界を少し覗いてみませんか。
シェイクスピアは16世紀末から17世紀初頭にかけて活躍したイギリスの劇作家・詩人で「ロミオとジュリエット」「ハムレット」「マクベス」「真夏の夜の夢」など生涯で少なくとも37本の戯曲と多くのソネットを残しています。ご存じの通り、その作品の多くは400年を経た現代でもハリウッド映画をはじめとする数々のメディアで上演され続けています。昨年ロンドン公演があった野田秀樹監督の「A night at Kabuki」も「ロミオとジュリエット」をベースにした物語でした。(松たか子さんと広瀬すずさん、心を打つ演技でした)しかし、実はシェイクスピアがすごいのはその作品のテーマの普遍性と人気だけではなく、英語という言語に与えた影響と言えるでしょう。シェイクスピアは作品中に2万語以上の単語を使用していますが、そのうち1700語以上がシェイクスピア作品で英語として初めて使用されたとされています。驚くことに「Eye Ball(目玉)」「Hurry(急ぐ)」「Fashionable(ファッショナブル)」「Gossip(ゴシップ)」など現在当然のように使用されている英単語も、彼の作品を通して初めて定着しました。(シェイクスピアが作り出したか否か、それまでに使用されていたか否かには様々な議論があるようですが、彼の作品と共に普及したというのは事実だと思います)更に作品を通して文法を確立することで、英語を言語として安定させることに大きく貢献したのです。「To be, or not to be(生きるべきか、死ぬべきか)」や「Et tu, Brute(ブルータス、お前もか)」などの有名なセリフも秀逸ですが、これらの単語に注目してみるのも面白いですね。
彼の人生を超簡略化して紹介すると、イングランド中部のStratford Upon Avonで誕生(誕生日は不明、洗礼は1564年4月)、1582年にアン・ハサウェイと結婚し、1592年頃から彼の名前がロンドンの演劇界で聞かれるようになります。1594年にThe Lord Chanberlain's Men(宮内大臣一座)という劇団に参画。俳優として活動する傍ら脚本を書き始めます。人気は上昇の一途で、1603年には新国王がパトロンについたため劇団はThe King's Men(国王一座)に改称されました。1613年に引退して故郷に帰り、1616年に亡くなりました。ちなみにアメリカの女優アン・ハサウェイの旦那さんであるアダム・シュルマンはシェイクスピアに顔が瓜二つ!奥さんの名前も同姓同名なので、二人はタイムトラベラーなのではないかというジョークがあります。
(参考文献は記事の最後を参照)
シェイクスピアのグローブ座は、シェイクスピアが活躍していた1599年に建てられたグローブ座を模して1997年に再建された劇場です。この劇場がシェイクスピアの本拠地で数多くの傑作たちが上演されたことを思うと、感動しますね!劇場の構造は天井が丸く開いている屋外型で、昔ながらの張り出し舞台の前に立見席、その周りを3階建ての観客席が囲っています。1997年の再建プロジェクトではオリジナルの16世紀の建物に最大限に似せながらも、現在の安全基準を確保するという点が最も困難だったようです。建物はイングリッシュ・オーク材、屋根は茅葺きを使用していますが、17世紀のロンドン大火以降、ロンドン市内での茅葺きの使用は現在に至るまで禁止されており、この建物は唯一例外的に許可が下りた場所だそうです。
そんなグローブ座、ウォーキングツアーもいいですが、劇場なのでできれば演劇を味わってみてほしいです。実はグローブ座の立見席は5ポンドで購入することができます。90分間立ち見で、且つ天井が開いているので雨が降ると大変ですが、本当に手をつなげるような距離で役者さんの歌やダンス、迫真の演技が見られるので、体力に自信がある方にはとてもおすすめです。ものすごい迫力です!(立ち見ですが十分なスペースがあり、窮屈な感じはしません)筆者は同チケットで「テンペスト」を見ました。テンペストは「嵐」の意味で、シェイクスピアが引退前に書いた最後の単独作品で、ファンタジー調で人も死なない比較的平和なストーリーです。(復讐と赦しがテーマです)今回のテンペストは、セリフまわしは古典そのものなのですが、服装はスーツやスニーカーなど現代的でとてもカラフルでした。配役も興味深く、アロンゾー王役は女優さんが「女王」として演じているのが先進的。そしてフェルディナンド王子役の俳優は南アジア系、プロスぺローの弟のアントニオを演じる俳優は東アジア系、セバスチャンはアフリカ系、ステファノ(こちらも元々は男性の配役ですね)を演じる女優はムスリムのヒジャブを連想させる布を被っており、大団円のダンスはボリウッド風と、現代のロンドンを反映したようなクールな演出が素晴らしかったです。
ここSouthwark Cathedral (サザーク大聖堂)はバラ・マーケットの裏にある教会で、入場は無料です。喧騒のバラ・マーケットから大聖堂に入ると、静寂な空間にほっと一息。サザーク大聖堂はイギリス国教会の聖堂です。訪問者歓迎のオープンな雰囲気なのですが、実はこの場所は古くは606年ごろから教会が立っており、由緒あるロンドン最古の教会なのです。キリスト教が広がる以前もローマ人の信仰の場所だったとか。現在の建物は13-15世紀のゴシック建築で、シェイクスピアがグローブ座の近くに住んでいた頃(17世紀初頭)に、この教会に所属していたので、シェイクスピアにちなむものがいくつかあります。彼の兄弟のエドマンド・シェイクスピアもこの教会に埋葬されました。
何と言っても見どころはシェイクスピアのメモリアル・ウィンドウです。このステンドグラスは1954年に戦争によって破壊された窓を取り換える際に行われたコンペで選ばれたクリストファー・ウェブよって製作されました。左側にシェイクスピアの喜劇、中央にシェイクスピアの代表作テンペスト、右側に悲劇のキャラクターたちを配しています。リア王やマクベス夫人はどこかな、と自分の知っている作品のキャラクターを探すのも楽しいですよ。ステンドグラスの下には寝そべったシェイクスピアの像があります。筆者には意気消沈したような表情に見えましたが、同行者は「空想の翼を広げているところ」との意見でした。中庭にも別のシェイクスピアの像があり、シャードが見下ろす憩いの中庭のベンチで、次の作品の構想を練っています。この中庭は人も少なくリラックスできるので、シェイクスピアの隣に並んでのんびりと彼の著作を読むのもいいかもしれませんね。
次にご紹介するのは、ロンドン・ブリッジ地区から少し離れて、セント・パンクラス駅のすぐ隣にある「British Library(大英図書館)」です。ここにはシェイクスピアの「First Folio (ファースト・フォリオ)」があるのです。ファースト・フォリオというのは彼の死から7年後の1623年に出版された、シェイクスピアの戯曲のうち36本をまとめた最初のコレクションの初版本です。何が歴史的に重要かというと、36本のうち17本は1623年までに何らかの形で印刷されていましたが、残りは全く印刷されていなかったので、もしもこのファースト・フォリオがなければ、「ジュアリアス・シーザー」や「マクベス」などは永遠に失われ、忘れ去られてしまった可能性があるというところです!この感動をお金に換算すると…約1,000万ドル(10億5,000万円)以上だそうです。(同じファースト・フォリオが米国で2020年に落札された際の値段)現在も完全な形で残っているのは世界でわずかに56部だそうです。その貴重な一冊が目の前で拝めるというわけです。
大英図書館は日本の国会図書館にあたる施設で、英国およびアイルランドで発行される全ての本を所蔵しており、蔵書数は1億7000万~2億冊と推計されています。また、英国に流通する海外の本も多数所蔵しています。もともと大英図書館はBritish Museum(大英博物館)の一部でしたが1973年に現在の図書館が建設されました。大英図書館にはほかにも1215年に制定され国王の権利を制限したことで有名なマグナカルタ(大憲章)や「不思議の国のアリス」を書いたルイス・キャロルにまつわるお宝、ビートルズの走り書き、膨大な切手コレクション(こちらは撮影禁止)なども展示されています。
最後のシェイクスピア聖地は、シェイクスピアが1604年に滞在していた場所の近くにある、ブルー・プラーク(ロンドンで有名人にゆかりのある場所を示すパネル)です。この時彼はフランス人でユグノー教徒のマウントジョイ夫妻のもとに滞在していました。この付近は1666年のロンドン大火で大きな被害を受け、付近は様変わりしてしまい、残念ながら夫妻の家やSilver Streetという道すらも失われてしまっています。このパネルの場所がわからなかったらCanaccord Genuityという建物(非常に現代的なビル)を検索すると、その目の前の公園にあるのでわかりやすいと思います。近くには3世紀頃からローマ人が作りはじめたロンドン・シティを囲む防御壁の跡が残っていて、新旧が混ざり合ったロンドンらしい魅力がたっぷりです。しかし、パネルと壁だけだと1分で観光終了してしまうので、せっかくだから歩いて5分の大観光地・セントポール大聖堂を併せてご紹介します。正直に言うと、この大聖堂の建設が開始されたのが1675年、シェイクスピアが没したのが1616年なので、ご近所に住んでいたシェイクスピアですがこの大聖堂を見てはいません。(シェイクスピアが生まれる数年前に旧セントポール大聖堂は落雷とそれに続くロンドン大火で失われているので、シェイクスピアはちょうどセントポール大聖堂の空白の期間を生きた人、ということになります)
この場所に最初のキリスト教の礼拝堂が建てられてから1400年以上が経ちますが、現在の建物は天才建築家クリストファー・レンが31年の歳月をかけて1697年に完成したものです。ウィンストン・チャーチル元首相の国葬、ダイアナ妃とチャールズ皇太子の結婚式、マーガレット・サッチャー元首相の葬儀などの重要イベントがこの大聖堂で行われています。こちらの大聖堂、外から見るのも美しいですが、せっかくだから内部を見てみたいですよね。おすすめは夕方の礼拝に参加すること。荘厳な大聖堂に響き渡る聖歌隊の歌声が味わえて、更に無料で大聖堂内部に入れます。筆者が参加した晩祷は夕方5時から40分間でした。大聖堂のドームにはたくさんの天窓があり、そこから注ぎ込む優しい日差しがただただ美しいです。英国国教会ですがバロック式で、内部もカトリックのような豪華な装飾なことに気づきます。聖歌隊もホグワーツの制服のようなマントを着ていて英国らしくて素敵でした。ただし、あくまでも宗教儀式のため礼拝中の撮影は禁止なので悪しからず。礼拝の時間はホームページでご確認ください。完全に任意ですが、退出時に現金またはクレジットカードで5ポンドの献金をすることができます。
いかがでしたか。シェイクスピアがなくても楽しめる場所ばかりでしたが、シェイクスピアのことを知るとより味わい深いですよね。上記のスポットに限らず、シェイクスピアについて詳しくなるとこれまで知らなかった世界が見えてきて、旅行のみならず演劇、絵画、音楽までより楽しめるので、まずは映画など親しみやすいものから触れてみるのもおすすめです。(ちなみに筆者は「テンペスト」をグローブ座に観にいくまで、実家に飾られている海を眺める女性の絵画が「テンペスト」モチーフのものだと知らず、親に教えてもらって「!!」となりました。またベートーヴェンのピアノソナタ17番が「テンペスト」と呼ばれていることも腑に落ちました)