キーワードで検索
テムズ川沿いを散歩すると見える、豪華な宮殿のような建物。人気ミュージカルのシアター・エリアに近いので通りかかることも多いけれど、目立った看板や広告が殆どないので、「この建物は何だろう?」「ここは入っていいのかな?」と不思議に思われた人もいるのでは。サマセット・ハウスはそのゴージャスな見かけによらず、敷居の低いアートやカルチャーの発信地となっているのです。今回はそのサマセット・ハウスの内部を覗いてみましょう。
見た目通り、サマセット・ハウスの歴史は古く、なんと450年前に遡ります。まず、1547年にサマセット公爵のエドワード・シーモアが宮殿建設に着手しました。お気づきの通りサマセット・ハウスの名前はここから来ています。残念ながら彼は完成を見ずに反逆罪で処刑され、完成間際の宮殿は王権の手に渡りました。エリザベス1世も即位前にサマセット・ハウスに住んでいたことがあります。その後、様々な王族・貴族が居住し増改築を繰り返します。ロンドン大火は幸いあと一歩のところで免れました。1775年、「ロンドンにはこじんまりとした建物ばかり。なぜ他のヨーロッパの首都(パリやウィーン)のような立派な公共建築物がないんだ!」というナショナル・プライドの高まりから政府主導で新サマセット・ハウス建築のプロジェクトが開始されます。過去数10年間に渡って放置されていたオリジナルのサマセット・ハウスは取り壊され、その跡地に建築家のウィリアム・チェンバースが新古典主義様式の新しいサマセット・ハウスの建築を開始、彼の死後1801年に完成しました。その後も増築が繰り返され、現在の姿となっています。国家プロジェクトということもあり、初期のテナントは印紙・租税庁や登録所などの政府機関でしたが、現在は政府系機関は移転して、芸術・教育関連機関、オフィスなどが入っています。
サマセット・ハウスのニュー・ウィングにあるこちらの「Spring(スプリング)」はミシュランスター・シェフのSkye Gyngell氏のレストランです。彼女はシェフとして有名ですが、更にVogue誌のフード・エディターとしても知られていました。オーストラリア出身の彼女はフランスで修行して、2004年からPetersham Nurseries Cafe(覚えている方いらっしゃいますか?リッチモンドの記事でご紹介しました!)でヘッド・シェフを務め、2011年に同レストランはミシュランの1つ星を獲得しました。その後、2014年からこちらのサマセット・ハウスに「Spring(スプリング)」をオープンしたというわけです。こんな素敵な立地のミシュラン・シェフのレストランなんてお高いんでしょう、と思いますよね?しかし、ランチは2コース(前菜+メイン)で29ポンド、3コース(前菜+メイン+デザート)で33ポンドと比較的お手頃なのです!(火曜から金曜までのランチタイム限定なのでホームページでご確認を)
レストラン内部はサマセット・ハウスの建物の色でもある白が基調で、スタイリッシュで明るいイメージ、まさに「春」のイメージです。筆者は2コースのランチを注文しましたが、前菜の「ポーチド・リーク・ヴィネグレット、ブラックオリーブ、ミモザとハーブを添えて」はランチメニューとは思えないほど完成度が高かったです!メニュー名が複雑ですが、わかりやすく言うと、西洋ネギなのに調理がうますぎてホワイトアスパラガスかと思った、という感じ。シャキシャキ感を残しつつもソフトな西洋ネギがヴィネグレット・ソースとハーブやナッツのトッピングと絡み合って新鮮なハーモニーを作り出していました。そして、メインのウズラのグリルはテーブルに来た時から、「これが美味しくないわけない」という香ばしい匂いが。グリル具合と味付けが絶妙で、ジューシーで最高でした。他のテーブルを見渡すと、ビジネス・ランチ風の人々とプライベートな雰囲気のテーブルが半々くらいでした。味もサービスも大満足で、ロマンチックなサマセット・ハウス内のロケーション。次回は特別な日のディナーで再訪したいです!
サマセット・ハウスにある常設の美術館が「The Courtauld Gallery(コートールド美術館)」です。セントラル・ロンドンには無料の美術館も多いですが、こちらは時間指定の予約が必要で大人9ポンドです。しかし、人が少ないところで静かに見られる上に、コレクションの質がとても高いことで有名なのです。サミュエル・コートールドはレーヨン(化学繊維で絹の代用品となる)の事業で大成功した実業家であり、アート・コレクターで、美術史や保存修復において世界有数の研究機関であるコートールド美術研究所を設立しました。そして、彼の遺言で彼の卓越したコレクションが1932年に設立されたコートールド美術館に寄贈されたのでした。
美術館はこじんまりとしており、1階が中世・初期ルネサンス、2階が初期ルネサンス、3階が印象派・ポスト印象派となっています。各フロアを結ぶ可愛らしい螺旋階段がとても印象的です。やはり見どころは3階で、ゴッホにマネ、モネ、ルノワール、セザンヌ、ゴーギャンと誰もが聞いたことがある印象派の重鎮の名画が納められています。コートールド氏の審美眼に拍手です。こんな美術館がロンドンにあるなんて知りませんでした!ところで、今回情報を集めていて、コートールド美術館のウェブサイト(下記参照)のバーチャルツアーのクオリティが高すぎて驚きました。実際に足を運ぶことができなさそうな方はチェックしてみて下さい。テクノロジーの進歩ですね。「いつかこの目で見たい!」という方はリアルすぎてネタバレになってしまうので、おすすめしません。
コートールド美術館を後にして歩いていると、イースト・ウィングとウェスト・ウィングではSony World Photograhy Award(ソニー・ワールド・フォトグラフィー・アワード)というエキシビジョンを開催していました(2023年度は5月1日に終了)。このアワードは日本が誇るソニーがスポンサーするグローバルの写真コンテストで、毎年その上位入賞者の作品をこちらのサマセット・ハウスのエキシビジョンで展示しているというわけです。2023年度は200以上の国から415,000点の応募があったそう。テーマ別では環境問題やサステイナビリティ、スポーツやワイルド・ライフまで幅広い写真がありました。
筆者が写真展に出かけるのが好きなのは、写真そのものを見るのが楽しいというのも勿論なのですが、テーマのある写真の背景を知ることで自分の知らなかった世界が広がっていくからです。下記の「子供時代」という写真は、業務終了後のバングラデシュの精米工場で、労働者が使うカートを子供たちがおもちゃにして遊んでいる姿だそうで、温かい気持ちになります。一方で、「Window of Horror:Window 5」という写真は2022年の3月から4月にかけてウクライナで撮影されたもの。ニュース記事を読むよりも、ある日突然生活を奪われたウクライナの人々の悲しみと戦争の非道さが、攻撃により破壊されて時が止まった美しいリビングの写真を通してダイレクトに伝わってくると思いませんか?エキシビジョンの最後には、日本の写真家川内倫子氏の特別展示もありました。ちなみにソニー・ワールド・フォトグラフィー・アワードでは一般公募枠もあるようです。写真が好きな方は応募してみてはいかがでしょうか?来年の春には、あなたの作品がサマセット・ハウスに展示されるかも?!
サマセット・ハウスのサウス・ウィングのテムズ川沿いにはテラス・バーがあって川を眺めながらゆっくりできます。夏のシーズンはどこも混み合っているセントラル・ロンドンですが、この場所はサマセット・ハウスの裏手にあるので、人が少ないです。少々説明が難しいのですが、サマセット・ハウス自体が川面より高いところにあるので、テムズ川沿いの道路から見るとこのテラスは2階相当で、特に看板もなく外から見えにくいので、知る人ぞ知る隠れスポットなのです。毎月最終金曜日の夕暮れ時には有名サックス奏者の演奏があり、お客さんをイビザ島にいるような気分にしてくれるとか。また、テラス・バーの隣にはフリーのテーブル&椅子もあるので、ドリンク不要の方はこちらで一息ついてもいいですね。
最後に、少々季節外れですが、サマセット・ハウスはクリスマスのシーズンはスケート・リンクになり、ロンドンの冬の風物詩の一つに数えられています。期間は11月半ばから1月の半ばまで。2022年のメインスポンサーはモエ・シャンドンでした。サマセット・ハウスの白亜の建物がプロジェクション・マッピングでライトアップされカラフルに浮かび上がり、フェスティブな雰囲気に最高にテンションが上がります。クリスマス・ツリーの高さは12メートル!クラシックなデコレーションがロンドンらしくていいですね。スケートリンクの周りにはドリンクやフードが楽しめるスペース、ポップアップショップなどが展開し、DJナイトなどのイベントも開催されます。余談ですが、ロンドンのクリスマスシーズンのスケート・リンクはデートにおすすめです。特にサマセット・ハウスはとにかくロマンチックなセッティングなので絶対に盛り上がります。(勿論、家族や友達同士でも楽しめます!)ちなみにロンドナーはイベント系については信じられないくらい早くから予約するので、予定が決まっている場合はクリスマス時期のイベントは数週間前から予約するのがベターです。
いかがでしたか?サマセット・ハウスは楽しみ方を知っているととても魅力的な場所なのです。この他にも季節によって様々なイベントが催されているので、是非調べて遊びに行ってみてくださいね。