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2023年6月2日から日本で全国公開されている映画『怪物』。今年5月に開かれた第76回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、「脚本賞」と独立部門である「クィア・パルム賞」を受賞しました。現地で取材した同作の見どころについて紹介します。
これまでの是枝映画とは様子が違う。映画『怪物』を見て、そう感じた人は私だけではないかもしれません。同作が公開された6月2日から6月4日までの週末観客動員数(興業通信社)では、首位の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』などに続く3位。翌週の6月9日から11日のランキングでも3位をキープして、注目度の高い作品となっています。
同作がこれまでの是枝作品と異なる雰囲気をまとっているのは、脚本を坂元裕二さんが担当しているというところ。坂元さんは映画『花束みたいな恋をした』やTVドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」などの脚本を手がけた人気脚本家です。
今回の『怪物』については、まず企画・プロデュースの川村元気さんと山田兼司さんが、坂元さんと長編映画の企画開発を進めており、坂元さんによるロングプロットがすでにできあがっていました。そして3人の総意として、監督をお願いしたい人に是枝監督の名が挙がり、是枝監督がそのオファーを受けたという形です。
以前に是枝監督は「基本的に自分の映画は自分で脚本を書いてきましたが、誰か脚本家と組むなら誰が?という質問には必ず『坂元裕二!』と即答してきた」そうです。今回の企画を持ちかけられた時、是枝監督は自身の脚本において自分が書く人物に限界を感じていた時期があったそうで、「坂元さんが書く人間には、僕の書けない人間が何人もいるんですよね。だから話をいただいたとき、すごく嬉しかったです」と答えています。
つまり、今作は相思相愛の作品であり、結果もカンヌで見事に脚本賞を受賞しました。同賞の受賞は、今作にとてもふさわしい賞だと言えます。
『怪物』では、今作も是枝監督らしい子供を中心にしたストーリーが展開されています。
「大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。 そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した――」という物語。
主役となる二人の子供を、黒川想矢さんと柊木陽太さんが務め、シングルマザー役に安藤サクラさん、学校教師役に永山瑛太さんを配し、田中裕子さん、高畑充希さん、角田晃広さん、中村獅童さんと言った俳優陣が、内容をさらに魅力的に彩ります。
是枝作品に詳しい方ならご存知かもしれませんが、当時14歳の柳楽優弥さんがカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を取った『誰も知らない』を始め、これまでの是枝作品では子供たちに台本は渡さず、現場でセリフを口伝えする手法が取られてきました。しかし、今作では事前に台本を読み、芝居として演じてもらったそうです。
これについて是枝監督は「今回のふたり、黒川想矢くんと柊木陽太くんに関しては事前に台本を読み、お芝居をしてもらうほうが本人もやりやすそうだった。僕は自分のやり方を、あらゆる役者に適用しようと思っているわけではありません。役者によって、いちばんいいパフォーマンスを発揮できるアプローチは違うし、今回の役柄では台本を渡すアプローチのほうがいいと思った。それがうまくいったんじゃないかな」と答えています。
さらに、自分が書いたものではない脚本で撮影をすることで、撮影現場では冷静に、客観的に各シーンを捉えることができたそうで、「自分で書いた本は現場でもつねに疑っているんですが、自分で本を書いていないと脚本上の試行錯誤がない分、こんなにもクリアに現場が見えるんだなって。坂元さんの本が素晴らしかったからなんですけど、今回の現場は楽しかったです」と是枝監督は振り返っています。
スクリーンに映し出される映像の美しさとロケ地も、今作の注目すべき点です。
『怪物』の脚本は最初、「町の中を一本の大きな川がながれている」という西東京の話として坂元さんは書いていたそうです。しかし、演出上必要な消防車を走らせられないなど、撮影に関して実現できない点があった結果、撮影に協力的なフィルムコミッションがあった長野県中部にある諏訪地方で主に行われました。脚本も「大きな川」から「大きな湖(諏訪湖)」に代えて、坂元さんは書き直しました。
その諏訪地方では現在、諏訪圏フィルムコミッションが映画『怪物』の舞台となったロケ地マップを、長野県内を中心に配布しています(諏訪圏フィルムコミッション 映画『怪物』ロケ地特設サイト)。ロケ地のほか、諏訪地域グルメスポットの紹介などもあるそうで、鑑賞後はぜひ舞台となった諏訪地方を訪れてみてください。