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サローム(こんにちは)!
前回の記事で紹介したサマルカンド市内北東の丘にあるウルグベク天文台から、中心部方面へ徒歩約15分。アフラシアブの丘とシヨブ川に囲まれた自然豊かな場所に、サマルカンド市民の誰もが知る聖者の霊廟があります。それがダニエル廟。ウズベク語ではホジャ・ドニヨルと呼ばれています。
ウズベキスタンで盛んなイスラム教の習慣が、聖者廟への巡礼。国内各地にある偉人や学者の霊廟、つまりお墓へお参りに行き、バラカ(「神の恩寵」の意味。霊廟の場合は祀られている人から放出される力のようなもの)を授かりに行くのです。宗教は違えど、日本人が神社へご利益を授かりに行く感覚と似ているかもしれません。
サマルカンドだと有名観光地のグル・アミール(ティムール廟)やシャーヒズィンダ廟群もその霊廟にあたりますが、このダニエル廟もなかなか威厳がある霊廟です。なんせここに祀られているダニエルは、イスラム教、ユダヤ教、キリスト教という3つの宗教の聖人とされているのです。さらにイスラム教とキリスト教では預言者、つまり神の言葉を授かった者とされています。関係が良くないイメージのこの3つの宗教ですが、その共通の聖地がこのサマルカンドにあるというのはなかなか興味深い事実です。
ダニエルといえば西洋人の名前を思い浮かべる方が多いと思いますが、まさにその名前の由来になっているのがこの聖人。ウズベク人も、ダニエルのウズベク語名ドニヨルというのはごく一般的な名前です。
旧約聖書に登場する聖人ダニエルは、紀元前6世紀にペルシャの王たちに仕え数々の伝説を起こしたとされるユダヤ人。その墓はイランにあったものの、かの英雄アミール・ティムールがその地を訪れた時遺骨をサマルカンドに持って帰ったというのがこのダニエル廟の起源。このシヨブ川のほとりに葬られた理由は、同じくイランにあった墓と周りの環境が似ていたからとも、遺骨を運んできたラクダのキャラバンが突然この地で止まったからともいわれています。
ただこのダニエルの霊廟、イラクやトルコ、モロッコなど世界各地にあるといわれているそう。青森県にもあるという話があるキリストのお墓と同じで、どれが本物のお墓か何が何やらですが、少なくともサマルカンドの人々はここにダニエルの亡骸があることを信じています。ウズベキスタンではお墓の前でドゥオ(お祈りの言葉)を詠み、オーミンと言いながら両手で顔を撫でる仕草をすることが作法になっていますが、絶えず巡礼者が訪れこの一連のお祈りを行っています。
霊廟の中に入ると、度肝を抜かれるのが長い長い墓石。この棺は18mもあるのですが、なんでも100年ごとにダニエルの骨が成長するという伝説があるためこんな墓石になってしまったそう。世界でも珍しいであろうこの墓石をぜひ見逃さないよう。
霊廟と聖なる泉がよくセットになっているのも、日本の神社を思い起こさせるところ。このダニエル廟にもやはり聖水の湧く泉があり、巡礼者は礼拝を終えると水を汲んで帰っていきます。
この泉にもまた伝説があり、ダニエルの遺骨を埋葬したその時からここに水が湧き出たとされています。最近では、独立後にロシア正教総主教アレクシイ2世がここを訪れ、近くの枯れたピスタチオの木にこの聖水をあげたところ木が生き返ったという話もあるとのこと。
奇跡のようなエピソードで彩られた霊廟、ダニエル廟。いずれも信じるか信じないかは…ですが、自然豊かで穏やかな場所に建つこの霊廟は確かに聖地にふさわしいオーラが漂っています。そういえば私とともに観光案内所で活動しているガイド実習中の学生も、神聖な空気を感じることができるからここがサマルカンドで一番好きな場所なんだ、と言っていました。この場所はまさにサマルカンドを代表するパワースポットなのです。
それではコルシュグンチャ・ハイル(また会う日まで)!