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軽い気持ちで書き始めてみたら思いがけず大ボリュームなレポートになってしまった、サマルカンドでの同僚の友人の結婚式潜入記。3回目の記事でようやく完結です!
花嫁宅での昼食と儀式を終え、ゲストはいったん解散。ただ私は花婿の親友ということになっているので(初めて会ったのは今日なのですが…)、このまま新郎新婦についていってもいいよとのこと。次なる目的地に、花婿の正真正銘の友人たちと向かいます。
ソビエト時代はこのタイミングで市役所に婚姻届を出しに行っていたとのこと。現在の結婚式ではこの時間はフォトセッションタイムになっていることがほとんどで、多くの新郎新婦がサマルカンドのシンボル、レギスタン広場で撮影会を行います。前編の記事でも綴りましたが、レギスタン広場へ行くときれいに着飾った新婚カップルを高確率で目にすることができるのはそのためです。
私たちもレギスタン広場へ行くのかと思いきや、到着したのは新市街の一角のこんな場所。
中に入って部屋に案内されると、新郎新婦とそれぞれの友人8人ほどが座っていました。ここは親しい友人たちだけが集まるイベント、いわゆる0次会を行う場所だったのです。
花婿の友人たちは男性のみ、花嫁の友人たちは女性のみで、それぞれ別のテーブルに座っています。陽気な司会の案内でゲームが開始。友人代表が立ち新郎新婦のいいところを言い合ったり、司会の指示に合わせて顔やお腹だけでダンスしたり、借り物競争をしたり。
この施設の中にはスタジオのようなフォトスポットも用意されており、新郎新婦はここでフォトセッションを行うことができます。この花嫁と花婿以外にも、何組もの新婚カップルが撮影を行っていました。レギスタン広場じゃなくてこういう場所で撮影会をするのが最近のイケてる新郎新婦のトレンドなのだ、親しい友人たちと一息つくこともできるし…とのこと。確かにこの国結婚式では、一日中常に大勢の友人や親戚たちと接しなければならず、想像するだけで気疲れしてしまいそう。若い世代が新しい結婚式の形を模索し始めても不思議ではありません。何十年も前からほぼ変わっていないはずのウズベキスタンの結婚式のスタイルですが、徐々に変化が起こり始めているようです。
そうこうしているうちに、披露宴の時間が近づいてきました。とにかく派手に行うウズベキスタンの結婚式、その中でもさらに豪勢といわれるサマルカンドの結婚式の神髄がこの披露宴なのです。
とにかく多い結婚式需要に対応するため、この国には無数の結婚式用レストラン(ウズベク語で「To'yxona トイホナ」)が建っています。そのだいたいが大きくきらびやかで、外から見ても他のレストランとは格が違うただならぬオーラを感じることができます。サマルカンドでは有名なとある大規模な結婚式用レストランが、今回の披露宴の会場でした。
会場の外で、日本で働いた経験があり日本語が話せるという花嫁のいとこが話しかけてくれました。その場にいた花嫁側の親戚を次々に紹介してくれますが、とにかくその数の多いこと。ウズベク人は大家族が多く3人以上きょうだいがいることも珍しくなく、当然親戚もたくさん。さらに家族の絆が深いため、結婚式ともなると一族総出で駆け付けるのです。
ホールに入ってみると、巨大な空間にたくさんのテーブルと豪華なご馳走がセッティング。ステージには楽団がスタンバイしています。テーブルの数から察するに、200人以上のゲストを呼んだのでしょうか。これでもサマルカンドでは平均的な規模の式なのだといいます。
0次会と同じく異性が同じテーブルにつくことはなく、花婿側男性ゲスト、花婿側女性ゲスト、花嫁側男性ゲスト、花嫁側女性ゲストにきれいに分かれます。さらにイスラム教に敬虔な家族ともなると、男女全く別の部屋で披露宴が行われるケースもあるとのこと。
しかし目の前に広がるこのご馳走の量たるや。1テーブルだけで1万円以上はかかっていそうです。アルコールは出ず、このレストラン全体が禁酒となっているようでした。この国では若者ほどお酒を飲まない印象で、私の周りでも30歳以下の知人で酒を飲むウズベク人はほとんどいません。
この料理だけでも間違いなく食べきれない量だろうに、さらにどんどん料理が運ばれてきます。何と船盛りに載せて寿司(といっても海外でよく見る寿司ロールですが…)まで運ばれてきました。これも最近の式のトレンドなのでしょうか。
楽団の生演奏が鳴り響く中、花道が敷かれて新郎新婦が入場してきました。どデカい花に囲まれた花道を通り、花嫁がゲストと花婿にケリンサロームと呼ばれる挨拶の儀式をした後、会場を見下ろせるような高さの壇上に座ります。
日本であれば新郎新婦が入場した後、開宴の言葉やら主賓の祝辞と乾杯やらが続くことになりますが、ここでは彼らが登場した後もゲストは皆料理を食べ続けるのみ。そして楽団はひたすら演奏を続け、ボーカルのしっとりとした生歌も入ります。うーん、何てマイペースなんでしょう。
しかし時がたつにつれ、次第に音楽がアップテンポに、さらに会場の照明が激しくチカチカし始めるように。気づけば中央の広いスペースでダンスを始めるゲストが現れました。そう、ウズベク人の結婚式といえばとにかくダンス!ダンス!ダンス!
花婿の友人たちも踊りの輪に加わり始め、当然のように私も誘われます。踊りの下手さには定評のある私ですが、こんなときはとりあえず見よう見まねで手と足を動かしさえすれば勝手に場が盛り上がってくれるのです。
今やこのスペースがダンスフロアと化し、何十人ものゲストが一心不乱にダンスに興じていました。それにしても皆素面なのに、これだけ踊れるのがすごすぎる…。どうやったらこの年でこんな軽やかな動きができるんだ?と突っ込みたくなるおじいさんやおばあさんも嬉々として参加し、子供たちも大人に混じって踊りまくっています。こうやってダンス好き民族のDNAが受け継がれていくのです。
さらにダンスの輪の中にプロらしき踊り子も。さすが見栄っ張りなサマルカンド人、皆そこそこの額のチップを手渡していました。
しかし新郎新婦はその場に入らずずっと壇上に下り、ダンスの様子をじっと眺めたり、時折壇上にやってくるゲストと談笑したりするのみ。おそらくゲストは皆踊り狂いながらしっかり祝っているはずですが、ちょっと新郎新婦がそっちのけにされているようで、少し可哀想に見えたことは否めません。前編の冒頭で紹介した私たちの結婚パーティーに参加してくれたウズベク人たちは、夫婦とゲストが話す機会がたくさんあってよかった!こんな雰囲気の結婚式は初めて!などと口々に言ってくれ、結婚式では当たり前のことだろうに何言ってんだ…?と思っていましたがこの光景を見て納得。
皆がこれでもかと踊りまくった後、ようやく新郎新婦が主役の時間。会場中央で、彼らが何やら書類を書くのを皆で見届けます。何と披露宴中に婚姻届を提出するのです。
それに引き続き、結婚指輪をお互いの指に付け合います。
それが終わると、またしても始まるダンスタイム!今度は花婿も踊りに加わり、よりダンスがヒートアップ。花嫁は壇上にとどまり、親戚や友人たちとおしゃべりや記念撮影を楽しんでいました。
新郎新婦が入場してから約2時間、ほとんどダンスの時間に費やされましたが、やっと宴もたけなわ。音楽の演奏が止まり、花嫁と花婿、そして両親やきょうだいが並びます。ここで行われるのはそれぞれのスピーチ、そして花嫁から花婿の家族へ、花婿から花嫁の家族への花束の贈呈。
日本では披露宴前半にやることが多いケーキ入刀ですが、今回の披露宴ではこのタイミングで行われました。さらに日本と違うところは、ファーストバイトのように新郎新婦がお互いにケーキを食べさせ合うだけではなく、それぞれの家族にも食べさせてあげること。これは日本の披露宴で流行ったら面白いかも、、と思って調べたら、すでに演出の一つとして取り入れられているようですね。
最後はこんな幻想的なステージが用意され、花嫁と花婿がゆったりとワルツを踊ります。ゲストたちが2人を見守り(すでに帰ってしまったゲストもちらほらいたようですが…)、新郎新婦の親戚であろう子供たちが嬉しそうに駆け回るほんわかしたムードの中で、大団円を迎えました。
しかしついさっきまでこの場が爆音ダンス空間だったせいで、いまだに目はチカチカ、耳はジンジン。私は入ったことがありませんが、パチンコ屋にいるのと大差ない感覚かもしれません。こんなクレイジーな結婚式を経験してしまうと、日本の式が退屈に思えてしまいそうです…。
これにて長い長い結婚式の一日が終了!かと思いきや、サマルカンドの結婚式では最後の最後に大きなイベントがあるのです。これこそが私が見学するのを楽しみにしていた儀式、その名も「ヨルヨル(yor-yor)」。
披露宴が終わった後、新郎新婦と花婿の友人たちが車を飛ばし、花婿の家から数百メートル離れた路上で車を降り、花嫁のみが車の中に残されます。時は22時半ごろ、静まり返った夜のとばりの中で彼らが出してきたのは3mほどあろうかという長い棒。その先にはハート型の枠が付いています。この枠に豪快にも灯油をぶっかけ、着火。何も知らない人が見ると、黒魔術や秘密結社の儀式に思えることでしょう。しかしこれがゾロアスター教の儀礼の名残といわれる神聖な儀式、ヨルヨルなのです。
花婿の友人の一人が、先端がハート型に燃えているこの棒をエイヤッと持ち上げ、皆で花婿宅に向かってずんずん行進。その最中、もう一人の友人がアドリブを利かせて韻を踏んだ囃子文句を叫ぶと、皆でヨル・ヨル・ヨロネイ(yor yor yoroney)!と叫び返します。これを何度か繰り返すと、棒を置き火の周りを囲んでまたしても皆踊り狂います。これだけ踊ってもまだ踊り足りない、とでも言いたげに。
私たちヨルヨル一行は行進とダンスを繰り返してついに花婿宅にたどり着きました。このとき車の中にいるのは花嫁と、彼女の家族か親戚の男の子。すんなり降りて花婿の家に入るのではなく、花婿の家族がこの男の子にお金を渡し、男の子がお金足りない、もっとちょうだいとやり返すやり取りが行われます。この数分間のやりとりが終わり、お金を受け取った末やっと花嫁が外へ。そのまま花婿が花嫁を抱っこして家の中に駆け込みます。
その途端、楽団の生演奏に乗せて皆で踊る今日最後のダンスが始まります。どんちゃん騒ぎの中、新郎新婦共に家の中へ。こうして、花婿と花嫁にとって人生で一番長いであろう日がようやく終わったのでした。おめでとうございます、幸せになってくださいね、と花婿に伝えてこの家を辞することに。お昼にここに到着してから約12時間経っていました。
この後自宅まで私を送ってくれた花婿の友人が、ウズベク人の生きがいは家、車、そして結婚式なんだよなあ…とつぶやきました。下手すれば数年分稼いだお金が一日で飛んでいくほど盛大に行われる、ウズベキスタンの結婚式。その中でも特にド派手にやるといわれる生粋のサマルカンド人の式に参加でき、感激しっぱなしの日になりました。
旅行者の皆さんも、サマルカンドやウズベキスタンでもし結婚式に誘われるような機会があれば、ぜひ遠慮なさらず飛び込んでみてください。お客好きという評判のウズベク人ですが、それは結婚式についても当てはまり、新郎新婦もゲストも見ず知らずの日本人を歓迎してくれるはず。もしかしたらどんな綺麗な観光地よりも、あるいはどんな美味しい食事よりも、はるかに強烈な経験として一生の思い出に残るかもしれません。
それではコルシュグンチャ・ハイル(また会う日まで)!