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2023年に入り日本で香港映画の上映が増えています。12月も上映されるのですが、2本を紹介したいと思います。まず、12月1日から上映が始まったのが『香港怪奇物語 歪んだ三つの空間(失衡凶間 / Tales from the Occult)』です。
これは3つの作品からなるオムニバス映画です。
1本目「暗い隙間」は、中学時代、ヤウガーは“眼”を見開いた死体を発見して以来トラウマを抱える。成人し1人暮らしを始めるが、部屋の中であの“眼”に見られているという恐怖を感じ…。主演の顔卓霊(チェリー・ガン)は“ダンス”のイメージが強いですが、全く異なる演技をします。2024年は『罪與罰』という舞台も待っている彼女。俳優としての幅を広げています。
次の「デッドモール」は、ライブ配信で投資案件を提供するヨンと奇妙な噂の真相を配信で暴露するガルーダ。客が居なくなった暗闇のモール内で、2人の前にガスマスクの女と不気味な警備員が現れ…考えもしなかった展開に巻き込まれていく。林暁峰(ジェリー・ラム)が、がめつい香港人を演じているのですが、いい味を出してます。
最後の「アパート」は、あるアパートの1階で、顔面蒼白の溺死者らしき幽霊が目撃される。小説家のアチー、伝説のヤクザのホーら5人の住人は幽霊退治に立ち上がるが、悪夢の一夜は始まったばかりだった。びっくりするのは、普通に映画の主演を担っている任賢齊(リッチー・レン)が、ホラーのオムニバス映画に出演したことです。びっくりしました。水を使ったりと日本のホラーのテイストが感じられます。
この映画は、血が飛び交うスプラッター系と貞子に代表される日本的な怖さの中間という印象で、目を手で覆って見られないという感じではないです。香港映画のホラーはあまり馴染みがないので、そういう意味でも観賞する良い機会だと思います。
もう1つは、12月16日公開で、オランダ、ニュー人ランド、カナダなど世界各地の映画祭で上映され、金像奨で11部門、金馬奨で12部門でノミネートされるなど、非常に高い評価を受けた『香港の流れ者たち(濁水漂流 / Drifting)』です。全国5都市にて開催された「香港映画祭2022」で上映された映画が、ついに劇場公開です。
2012年に深水埗(Sham Sui Po)の通州街(Tung Chau Street)にある高架下のホームレスが強制退去させられた「通州街ホームレス荷物強制撤去事件」を元に作られています。ホームレスは、麻薬や万引きの日常の中で政府によって強制退去させられ、損害賠償を求めて政府を訴える…。
筆者は以前、同作に出てくる無料でご飯をホームレスに配布したり、低価格で提供する「北河同行」という店の記事も書き、フードロスの食材を活用して深水埗で老人に食料を提供しているフードバンクの「惜食堂(Food Angel)」も取材したり、個人的に何人かのホームレスも知っていました。保護シェルターにも行きましたが、そういった筆者の経験から見ると、この映画は貧困層の生活動態をリアルに描き出してます。
こういった問題になると、日本では自己責任論がよく噴出しますが、もはやその一言で片づけられない社会問題と言っていいでしょう。格差社会で日本ほど年金システムが良くない香港は、より深刻な問題です。観光という意味では香港は華やいでいますが、こういった人たちが存在しているということを知ることができる映画です。
この映画の李駿碩(ジュン・リー)監督は1991年生まれ。最近、若手映画監督の台頭がものすごい香港ですが、その代表格の1人です。今までの監督たちとは違う意識、視点を持っているので、新しい香港映画が出来つつあると言えそうです。