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サローム(こんにちは)!
サマルカンドに住んでいて私が惹かれたことの一つが、伝統工芸の世界。古都サマルカンドは職人たちの町でもあるのです。かのアミール・ティムールがサマルカンドを帝国の都にふさわしい豪華絢爛な町にするため、領内のあらゆる地域から職人たちを連れてきたことで、伝統工芸文化がこの地で一気に発展しました。このブログではこれまで観光エリア内の工房センター(119. 職人たちの手仕事が見学できる工房が集まるハッピーバード・アートギャラリー サマルカンドで雑貨土産を買うならここ!)や伝統楽器の工房(145. ウズベキスタン楽器の美しい音色はここから生まれる!サマルカンドの民族楽器工房見学)、古代の紙作りの技法を現代に復活させたコニギルメロス紙すき工房(146. いにしえの紙サマルカンドペーパーも陶芸も コニギル・ツーリズムビレッジで昔ながらの伝統工芸に触れる)といった工房を取り上げてきました。
そしてサマルカンドの歴史建築を彩る鮮やかなタイルも、この町の重要な伝統工芸品の一つ。今回ご紹介するのは、以前執筆したウズベキスタンのお土産大特集記事(101. ウズベキスタンお土産大全!伝統工芸品から食べ物、斬新ファッションまでおすすめ品を一挙紹介)でも掲載した、私が気に入って足しげく通った工房。「青い都」「サマルカンドブルー」というフレーズに惹かれた方ならぜひ訪れてほしいタイル工房です。
このタイル工房があるのはレギスタン広場(96. サマルカンド観光の中心 3つの神学校が織りなす壮大な景観「レギスタン広場」)の中。正面向かって左側の神学校ウルグベク・メドレセに入り、中庭に出て右側にあります。日本語で「レギスタンタイル工房」の文字が出ているのですぐ分かるはず。
レギスタン広場には他にもタイルを販売しているお店がありますが、全てここの職人さんが作っています。余談になりますが、レギスタン広場の中はお土産屋さんだらけですが全く同じ品物を売っている店が多く、困惑する旅行者も多いよう。ここのように、専門技術を持った職人さんたちの工房やオリジナリティあるお店がどんどん増えることを願っているのですが…。
かつて神学校として使われていた際は教室だった1階部分は販売スペースとなっており、左右に職人さんが国内各地で仕入れてきた美しい食器や陶器、そして奥に職人さん自らが作ったタイルが売られています。その緻密な模様やユニークなデザインに見とれてしまうこと間違いなし。職人さんたちが歴史建築の装飾やサマルカンドの街並みからアイデアを得て、自ら発想したデザインが多いとのことです。旅の思い出に一枚買ってみるのはいかがでしょう。
値札は付いていないので、値段は職人さんに直接聞いてみましょう。彼らは皆流暢な英語で話してくれますが、ウズベク語で交渉してみると値下げしてくれるかも。
職人さんたちの都合が合えば、階段を上って2階にある作業部屋も見せてくれます。この職人さんたちは毎日ここでお土産用タイルを製作していますが、もともと彼らはソ連時代から歴史建造物の修復に携わっていたタイル作りのプロ中のプロ。彼らの話では、かつてはサマルカンド空港近くに大規模なタイル工場があり、そこが自分たちの職場だったといいます。サマルカンドだけではなく他の都市のイスラム建築のタイル修復に赴いたこともあり、遠くジョージアで働いたこともあるとのこと。当時すでにいにしえの染色の製法が失われていたり、染色の原料が揃わなかったりといった状況でしたが、できるだけ建造当時に近い色を出そうと苦労しながら作っていたそうです。
当時働いていたタイル職人たちはその後各地に散らばりましたが、サマルカンドに残ってお土産用タイルを作っているのはこの工房の主イクロムさんとその一族だけとのことです。この国の職人は一族内で技が継承され、親の仕事を子供や孫が次ぐことが多いのですが、ここも然りなのです。
このイクロムさんと、私の前任のJICA青年海外協力隊観光隊員が親しかったことから、私も赴任当初にこの工房を案内してもらい、その後ときどきお客さんを連れて行ったり弟子作業体験させてもらったりと、何度もここに通うようになりました。
あるときは職人さんたちに、旅行者によく売れるタイルデザインを考えてくれと言われ、芸術音痴なりに頭を悩ませた末にようやく思いついたのがこの高速列車アフラシアブ号柄タイルと、ウズベキスタン国土地図柄タイル。このうちアフラシアブ号柄タイルは早速めでたく商品化され、1階で飾られて売られています。その他タイルを使って鍋敷きやコースターなども作ってみては?とアドバイスしたのですが、果たして採用されるでしょうか。他にいいアイデアがひらめいた方はぜひ職人さんへお伝えください。
またこちらは、前任隊員の方が開発した富士山柄タイル。日本人はもちろん、富士山を知る日本人以外の観光客もときどき買っていくとのこと。
さらに、ここではオーダーメイドの作品も作っているとのこと。というわけで職人さんたちと一緒に、自宅玄関に飾れる表札も作ってみました。おそらくサマルカンドで作ったタイル表札は日本でこれだけでしょう。自分にとっての究極のサマルカンド土産になりました。
サマルカンドに長期滞在する方、この国に駐在する方はぜひ世界で一枚だけのタイルを注文してみては?
ここで作られているタイルは、パーツを組み合わせて作るモザイクタイル、型に粘土を押し当てて凹凸のレリーフを施すマジョリカタイル、粘土を成型した素焼きタイルを染色して作るテラコッタタイルの3種類に分かれますが、この工房で最も種類が多く、また歴史建築でもよく使われるモザイクタイルの作り方を紹介しましょう。
まずウズベキスタン国内各地で職人さん自らが探し当てた、タイル作りに適した土をよくこね、タイルの原料となる粘土を作ります。この粘土を板状にして使う分だけ切り取り、作りたいモザイクタイルの模様に沿ってナイフで切っていきます。一見簡単に見えるこの作業ですが、寸分の狂いなく綺麗に粘土を切っていくのはとてつもなく難しいのです。少しでもズレるとモザイクタイルが仕上がった時に線がガタガタになるので、一瞬の油断も許されません。花やアラビア文字といった複雑な模様を次々と切って仕上げていく職人技には舌を巻くばかり。
これを一度乾かしてパーツごとに分けた後、1度目の窯焼きに入ります。窯があるのはメドレセの2階で、ここへ行くには一度工房を出てメドレセの隅にある階段を登らなければありません。旅行者の目に触れることがほぼないこの部屋も職人さんの作業部屋として使われているのです。
この電気窯で800度の温度で焼いた後、また先ほどの作業部屋に戻って染色のプロセスへ。この時点ではタイルのパーツは完全にバラバラになっており、窯で焼く前に鉛筆で書いた印を見ながら丁寧に釉薬を塗っていきます。よくこの国の食卓で使われる湯呑みを釉薬入れとして使っているのが、いかにもウズベキスタンの工房らしい光景。
砂漠に生えている特別な植物の灰と染料を混ぜて作るという釉薬は、どれも同じような色に見えますが…
1000度以上の高温で2度目の窯焼きをした後、不思議なことに鮮やかな色に染まります。
最後にこのタイルのパーツをパズルのように組み合わせていきます。一見何も手掛かりのないパーツが職人さんの手によってするすると組み合わさり、どんな技を使っているのか訝しく思うはずですが、実は最初に粘土を切った時点で作品によって形の違う切り込みを側面に入れており、これを見ながら組み合わせているのです。
このタイルの裏に石膏を流し込んで固定し、完成となります。
作品できるまでの期間は2~3週間。タイルの値段を聞くとどうしても高く感じてしまいますが、このようにすべての行程が手作業で行われていると知るとその値段に納得することでしょう。
ぜひともこの工房で、この町のイスラム建築の美しさを守り続けてきた職人さんの技を目の当たりにしてください。
それではコルシュグンチャ・ハイル(また会う日まで)!
■レギスタン広場のタイル工房 Registon maydonidagi koshin ustaxonasi
住所: Registon maydoni Ulug’bek madrasasi, Samarqand
営業時間: 特に決まっていないがだいたい9時頃から17時頃まで
入場料: レギスタン広場に入場(6万5000スム)すれば無料で入れる
アクセス: レギスタン広場に入り、左側の神学校ウルグベク・メドレセへ。中庭に入り右側、アラビア書道店右隣