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Blwyddyn Newydd Dda!!新年明けましておめでとうございます。ウェールズでは、クリスマスから新年にかけてのこの時期、夜になるとカラフルなリボンやガラス玉、鈴で装飾した馬の骸骨が家々やパブを巡ります。白いシーツで体を覆われた不気味ないでたちの馬は「マリ・ルイド(Mari Lwyd)」と呼ばれるウェールズ版獅子舞?!また「歌の国」ウェールズならではな掛け合いや合唱も行われる、とても興味深い年末年始の伝統行事です。今回はそんなマリ・ルイドについて、紹介します。
初めて聞いたときは、「マリ・ルイドさん??」「有名人??」なんて、人名と勘違いしてしまったマリ・ルイド。可愛らしい響きからは想像できない不気味な馬の骸骨に驚きでした。
ウェールズ語で「マリ」は「牝馬」、「ルイド」は「灰色」を意味するのだそう。ケルト神話において、白馬や淡い色の馬は冥界を渡ることができるとされ、マビノギオンに登場するリアノンも白馬に乗ってたりと、ウェールズでは古くから、白馬が幸運や力強さのシンボルになってるのです。
また別の説では「マリ」は「聖母マリア」を意味するとも。マリアがイエスを出産する際、厩舎から追い出された馬が暗い夜を彷徨ったからだとか。
マリ・ルイドの最初の記録は1800年の旅行記とされてますが、それ以前から行われていたとの言い伝えもあり、いまだ起源ははっきりしていません。
そんな謎めいたマリ・ルイドは馬の頭蓋骨と白いシーツでできてます。目のくぼみにはライトやガラス玉がはめ込まれ、たてがみはカラフルなリボンやヒイラギ、アイビーの葉などで可愛く??装飾。そして、白いシーツの中では頭蓋骨に差し込んだ棒を持ち、顎を動かして口をパクパクさせる人が入ってます。
まさにウェールズ版獅子舞ですよね?!
マリ・ルイドには、通常、グループを率いるリーダーと陽気な道化師、ボロボロの服を着て薄汚れた身なりのパンチとジュディが付き添います。道化師は楽器を、ジュディはほうきを持ってるのが特徴です。そんなマリ一行は村の家々を一軒一軒訪ねながら、玄関口でウェールズ語の詩や歌を披露し、家の中に入る許可を乞います。でも、簡単に家へ入れないのがマリ・ルイドの流儀。まずは家の中の人たちも詩や歌で応戦し、歓迎しないフリをしなければなりません。互いに無礼な歌で相手を馬鹿にし合うのです。もちろん、本気ではありませんから、ご安心を。
そして、最後には家主が降参して、マリたちを家の中に迎え入れます。ただ、それだけでは終わらないのがマリ・ルイドの面白いところ。いたずら好きのマリは大きな口をパクパクさせて、若い女性や子供たちを噛みつこうと追い回します。さらに道化師もそれをはやし立てるように楽器を演奏し、ジュディはほうきで家中をパタパタ掃きまくる。まさに一同バカ騒ぎ!!そんなマリたちに困ったフリをしつつ、家主は酒やご馳走を振る舞います。手厚いもてなしに気分を良くしたマリたちは帰りに、その家の人たちが健康で幸せな新年を迎えられるよう祈りを込めて歌う。
これがウェールズの年末年始に行われる伝統行事のマリ・ルイドです。寒くて長い冬の夜に、村人同士で安否確認し、交流する意味合いもあったとか。ウェールズ人のユーモアと優しさが伝わってきます。
そんなウェールズらしさが詰まったマリ・ルイドの風習もウェールズ語の衰退にともない、一時期は消滅しつつありました。実際、1960年代までに残ってたのは南ウェールズのごく一部の村だけだったとか。それが、近年のウェールズ語の復興とともに見事リバイバルに成功!新たにマリ・ルイドを始めた地域も多く、今やウェールズの冬の風物詩、人気イベントとなってます。
ただ、ウェールズ語話者が少ない地域では、従来のような即興で、しかもウェールズ語で歌を競い合うのはかなり難易度が高いため、事前に歌詞カードを用意したり、合唱にするなど、新たなスタイルを導入。馬の頭蓋骨が入手しづらい場合や学校のイベントなどには、ペーパークラフトで作った可愛いマリ・ルイドが代用されます。
また、前回の記事で紹介したアングルシー島の「ブリン・ケスリ・ズィ(Bryn Celli Ddu)でも、先日行われた冬至祭にマリ・ルイドが登場しました。ウェールズの伝統と文化を未来へと継承する担い手としても活躍してます。
そんなウェールズ版獅子舞?!マリ・ルイドに会いに冬のウェールズ旅行はいかがでしょうか。