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スペインの食文化に欠かせない存在がバル。都会にも小さな田舎町にもあり、気軽にコーヒーやワイン、ビールを飲みに行くことができます。おしゃれなバルもあれば、近所のおじさんのたまり場になっているバルなどいろいろありますが、共通点はビールやワインと一緒に軽食が楽しめること。日本でもすっかり浸透したタパスもバル文化から生まれたものです。タパスという言葉はタパの複数形で、もともと‟ふた“という意味。昔々、バルで飲み物にほこりや虫が入らないようにと、パンや生ハム、腸詰類などでふたをして出したことが始まりだと言われています。タパスにはご当地ものも多いので、その種類は何百もあることでしょう。今回は特にポピュラーでスペイン人が好むタパスから3つ選んでご紹介します。
ところで皆さんはポテトサラダはどこが発祥かご存じですか? 19世紀にロシアのエルミタージュというレストランでシェフをしていたリュシアン・オリヴィエ氏がつくり、オリヴィエ・サラダという名前で出されていたそうです。それゆえスペインではポテトサラダのことはエンサラディーヤ・ルサ(ロシア風サラダ)と呼びます。
これはスペインの定番中の定番タパス。日本のポテトサラダとの違いは具材(にんじんやグリーンピースが基本でほかにはオリーブやピクルス、ツナなどを使います)や具材がほぼ同じ大きさにカットされていること、ポテトも同じ大きさでマッシュされていないこともあることでしょうか。マヨネーズは日本よりふんだんに使います。冷たい料理なので、夏のつまみにはぴったりです。
ポテトサラダがロシア風と書いたばかりですが、お次はローマ風。カラマレス・ア・ラ・ロマーナとはローマ風のイカという意味なのですが、その正体はイカのリング揚げです。なぜローマ風というのかは、ローマのイエスズ会宣教師たちが、肉食が禁じられる四旬節に魚介類のフライを食べていたことに由来するのだとか。なんと、それって“天ぷら”のルーツではないですか! どんな日本人でも胃袋をつかまれるわけです。
たいていどこのバルでもカリッと揚がっていてイカはプリプリ。レモンをキュッと搾っていただきます。これがよく冷えた白ワインやビールによく合うんです。子ども達も大好きなタパスなので、あっという間に消えていきます。このイカリング揚げをパンに挟んだボカディーヨ・デ・カラマレスはマドリードの庶民食として愛されています。ちなみに、場所によってはカラマレス・フリトス(イカフライ)やカラマレス・ア・ラ・アンダルサ(アンダルシア風イカ)とも呼ばれています。
最後はトルティーヤ・デ・パタタ。トルティーヤ・エスパニョーラとも言いますね。日本でいうスペインオムレツです。これはもうスペイン人のソウルフードと言ってもいいほど、みんな大好き! どんな具材を入れてもいいのですが、基本の具材はじゃがいも、もしくはじゃがいもと玉ねぎだけ。玉ねぎを入れるか否かは永遠に続く議論ですが、私は甘みが出るので玉ねぎ入りが好きです。日本のレシピも見るとベーコンやトマトが度々出てきますが、こちらでは見たことがありません。じゃがいもと玉ねぎ以外の具材だと、ピーマンやズッキーニ、マッシュルーム、ほうれん草などでしょうか。北部の塩ダラ入りのオムレツは絶品です。
おいしいトルティーヤ・デ・パタタはじゃがいもと玉ねぎをたっぷりのオリーブオイルで炒め、フライパンに残った油も一緒に卵と混ぜて焼くことがポイントです。これでしっとり感が出ます。とてもシンプルな料理なのですが味わいがあり、私も週に1回は卵5~6個サイズのものを作るのですが、夫も子どもも好きなのですぐになくなります。冷めてもおいしいので、ボカディーヨ(スペイン版バゲットサンド)の具に使うことも。最近では中が生焼けのトロリとしたタイプが流行っていますが、私はサルモネラ菌が怖いのともともと生卵が苦手なのでしっかり火を通して作っています。
いかがでしたでしょうか。スペインに来たときにはぜひバルでビールかワインを片手に、エンサラディーヤ・ルサ(スペイン版ポテトサラダ)やカラマレス・ア・ラ・ロマーナ(イカリング揚げ)、トルティーヤ・デ・パタタ(スペインオムレツ)をつまんでみてくださいね。