• Facebook でシェア
  • X でシェア
  • LINE でシェア

【スペイン】バレンシアの火祭り・今年灰になるのをまぬがれ博物館行きになったニノットはこれ!

田川 敬子

田川 敬子

スペイン特派員

更新日
2025年3月26日
公開日
2025年3月26日
©Junta Central Fallera
AD

火祭りが終わって1週間が経ちます。2月12日にここでバレンシアの火祭りのニノット展のことを書きました(こちら)。最終日に燃やされる可燃性のオブジェを設置する各火祭りグループが、オブジェのまわりに飾るニノット(人形)をひとつ選び、それを集めて展示するイベントです。来場者による投票で1位になると、灰になる運命を免れて火祭り博物館に半永久的に飾られる栄誉を受けます。今回は、今年の火祭りではどんなニノットが1位になったのかをご紹介します。

皆さまの中にはご存じの方もいらっしゃると思いますが、昨年10月29日にバレンシア郊外の多くの町を洪水が襲い、死者200名を超える未曽有の水害(現地ではDANAと呼んでいます)が発生しました。今年のニノットには、このDANAに思いを馳せるものがとても多く、私にとってこれまでで最も胸を揺さぶられるニノット展でした。

バレンシア市と隣接する4つの自治体だけでも400近い火祭りグループが存在します。基本的に各グループには大人の部と子どもの部があり、最終日に燃やすオブジェもそれぞれひとつずつ飾ります。というわけで、火祭りグループはニノット展に大小2つのニノットを出します。そしてニノット展の来場者は、大人の部からひとつ、子どもの部からひとつ気に入ったものを選んで投票するのです。

3月14日にはまず、火祭り博物館行きになる子どもの部のニノットの発表がありました。こちらです。

©︎Junta Central Fallera
©︎Junta Central Fallera 実際にあった光景を再現したすばらしいニノット

DANA発生の3日後は祝日でした。その日、驚くほど多くの市民が清掃用具や救援物資を手に橋を渡って被災地に向かい、そして泥だらけになって家路につきました。その様子はSNSでも次々とアップされたのですが、途切れなく延々と続くボランティアの人たちの列には感動の涙が出ました。このニノットはまさにその光景を再現したものなのです。橋の名前は「連帯橋」となっていて、被害の多かったHorta Sud地区に向かう人たちはまだ汚れていない服装ですが、バレンシア市内に帰る人たちは泥だらけ。多くの人がこれを選んだ気持ちがわかります。子どもの部のニノットには60,726人が投票し、そのうち11,810票を集めたとのことでした。

翌日には大人の部の発表があり、この写真の右のニノットが選ばれました。

<右のニノットが今年の1位!! よく見ると左のニノットの足元にも泥が>

一見すると、バレンシアによくあるパンとケーキのお店のカフェに孫を連れた老夫婦がいるニノットです。男性が女性に指輪をプレゼントしているようで、ウィンドーの真ん中には金婚式のケーキが見えます。よく見ると、左の壁にかかった絵はバレンシアの州旗をバッグに泥にまみれた民族衣装姿の女性で、「市民が市民を救う」と書いてあります。中央政府や州政府の対応の悪さが大きく批判された中、結局は市民を救うのは国や州ではなく市民なのだという意味で、DANAの後によく目や耳にしたフレーズです。このフレーズが書かれたニノットはほかにいくつもありました。

足元には、長靴を履いて床の泥を掃除するネズミたちが。

©︎Junta Central Fallera

水を配布するネズミたちの後ろには、「ボランティアの人たちありがとう」と書かれています。

©︎Junta Central Fallera <指でつくったハートがたまらなくかわいい>

そして、大きく掲げられたFORN PA I PORTAの文字。バレンシア語でfornはパン屋さん、paはパン、portaは門のことなのですが、これはもっとも被害の大きかった町PAIPORTAを意味にしているのです(国王に泥が投げられたあの町です)。温かみのあるシーンの中に悲しいDANAの記憶を盛り込んでいる点が気に入って、私もこれに投票しました。69,922人の投票があった中、13,847票を獲得したそうです。おじいちゃんやおばあちゃんがいるちょっとノスタルジックなニノットは毎年人気なのですが、これは2位と3位が5000票台だったので、ダントツの1位でした。

この2つのニノットはいったんは火祭りグループが持ち帰りオブジェのまわりに飾りましたが、最終日には持ち出され、これから火祭り博物館に展示されることになります。もし目にする方がいらしたら、今回のこの話を思い出してくださいね。

トップへ戻る

TOP