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ワーグナーの『ニーベルングの指環(Der Ring Des Nibelungen)』は、「指環(リング)」を巡る4部構成の一大スペクタクル・オペラ。全編の上演に4晩、合計18時間以上を要する超大作です。「リング・サイクル」として、なかなか通しで見る機会の少ないこの作品が、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で、2013年以来、5年ぶりに再演されました。筆者が鑑賞したのは、今シーズン最後の2019年5月6日からの回。世界各国から集まったワーグナー歌手の歌声と45トンもの巨大なセットを用いた演出は圧巻でした。
アメリカ・ニューヨークのマンハッタンにある「メトロポリタン歌劇場(Metropolitan Opera House;通称MET)」は、アメリカが誇る世界有数のオペラハウス。「舞台芸術の殿堂」と呼ばれるリンカーン・センター内に入っています。METのアーチ型のファサードを通して、左右に巨大な2枚のシャガールの壁画を見ることができます。
「リング・サイクル」の初日、『ラインの黄金(Das Rheingold)』が行われる一夜目は、タキシードやイブニングガウンでドレスアップした人々でにぎわっていました。集まった人々の「これから特別な夜が始まる」という高揚感に満ちた華やかな雰囲気でした。なお、このオペラのチケットは、4夜セットでのみ販売され、完売したようです。
筆者が購入したシートは、最上階の「ファミリーサークル」の中央部分の席です。もっとも遠い席ですが、音楽はもちろん巨大なセット(『ザ・マシーン』)による舞台演出も充分に楽しむことができました。
オペラグラスを持参したので、歌手たちの表情もよく見ることができました。まわりには、世界中のこのオペラを追いかけるワグナーオタク「ワグネリアン」も複数いました。
なお、「ファミリーサークル」の後ろには、当日販売される立ち見席もあります。人も入っていましたが、このオペラは超長丁場なので、よほど体力に自信がないと辛いと思います。
初日は、19:30から22:05の2時間35分、休憩なし。
「ラインの黄金」とその黄金で作られた「世界征服できる指輪」を巡り、黄金を守る乙女たち(写真)や巨人族の兄弟が暮らす「地上」、小人族の住む「地下」、神々が暮らす「天上」の3つの世界を行き来する演出は、飽きさせず、あっという間に過ぎてしまいました。
演出家は、「シルク・ド・ソレイユ」も手がけたロベール・ルパージュ(Robert Lepage)です。
インタラクティブなプロジェクションが可能な巨大マシーンに各場面が描かれるのはもちろん、英語字幕もありますし、ストーリーも時系列に「地上」「地下」「天上」の男たちの野心を追うドラマなので、わかりやすく、すんなりと入り込むことができました。
第2夜は、『ワルキューレ(Die Walküre)』。休憩2回を挟んで上映時間、5時間以上となります。単独で演奏されることが最も多い人気の幕で、周囲のワグネリアンも期待を寄せていました。
ワルキューレの騎行はもちろん、この物語のヒロイン、ブリュンヒルデと姉妹たち、そして神々の長、ヴォータンとの掛け合いはすばらしかったです。また、次回から登場するジークフリートの母、ジークリンデの歌声もよかった! もっとも印象に残るステージでした。
前回から1日挟んで上演された第3夜は、『ジークフリート(Siegfried)』。こちらも休憩2回を挟んで上映時間、5時間以上です。
タイトルになっている英雄ジークフリートが、伝説の剣を蘇らせ、竜を倒して指輪を手にし、火の中で眠るブリュンヒルデを救い恋に落ちるというもっともベタなストーリーの回です。ジークフリートというキャラのファンも多いようですが、この回を見て、彼がなかなかに困った青年だということがわかりました。
全編を通して言えることなのですが、神も英雄も人間臭く、かなりのメロドラマで、深読みせずとも普通におもしろいのです。
そして、最終回は、5時間30分の『神々の黄昏(Götterdämmerung)』。こちらも前回から1日挟んでの上演でした。土曜日だったのですが、なんと地下鉄の運行が通常と変わっていて、走って走ってギリギリの到着となりました。上演中は、休憩時間以外、途中で出入りすることができないので、焦りました。
ちなみに、毎回ですが、休憩時間はかなり混雑します。トイレに行って、シャンパンやスナックを買って、食べて……などとすべてをこなすことはなかなか困難です。
上演がちょうど食事時に当たりますので、筆者は、1日は館内のすてきなレストラン「グランティア(The Grand Tier)」を予約し、ほかの日はサンドイッチを持参しました。
最終章は、ジークフリートに裏切られたと思い彼の殺害に手を貸してしまうブリュンヒルデの懊悩、そしてこれまでのストーリーを振り返るようなジークフリートの葬送までが印象的でした。
同行した音楽教授は、ものすごい数のライトモチーフを追っていて、この回の音楽が一番好きだと話していました。
筆者は、そんな知識も耳もありませんし、正直、始まる前はこの超大作を飽きずに見続けられるかという不安もあったのですが、杞憂でした! どっぷりオペラの世界にはまる1週間は、忘れられない体験となりました。
いかがでしたか。ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演されたワーグナーの『ニーベルングの指環(Der Ring Des Nibelungen)』を紹介しました。機会がありましたら、みなさんもぜひトライしてみてください。