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フランス・アルザス地方の中心都市ストラスブール(Strasbourg)。まるでドイツのような、かわいらしい木骨組みの家々が並ぶメルヘンティックな風景で知られる古都です。その美しい旧市街は世界遺産に登録されています。さらに、欧州議会などEUのさまざまな機関が置かれる国際都市としても重要な町です。その位置と役割から「ヨーロッパの十字路」と呼ばれています。
ストラスブールは、フランスの北東部、ドイツとの国境沿いのアルザス地方に位置しています。パリの東駅からTGVで約1時間50分。2016年から、それまで2時間20分だった所要時間が30分も短縮され、パリからの日帰り旅行もしやすくなりました。ブルゴーニュ地方のディジョン(Dijon)からはTGVで約2時間10分。リヨン(Lyon)からはTGVで約3時間40分。また、スイスやドイツからもアクセスできます。
町の名前の由来は、「道の町」を意味するラテン語「ストラテブルグム」。古くから交通の要衝として栄えてきました。
そんなストラスブールの歴史は、とても複雑です。というのも、フランスとドイツの間の領土争いで何度も国籍が変わった町だからです。17世紀にフランスの王政下に置かれ、普仏戦争(1870~1871年)の敗戦でドイツ領となり、第1次世界大戦でフランスに戻り、第2次世界大戦ではナチス・ドイツに占領され、戦後再びフランスに戻りました。ドーデ(1840~1897年)の小説『最後の授業』からは、普仏戦争の敗戦でアルザス地方がドイツ領となった際の様子がよく伝わってきます。
ストラスブールに欧州議会や人権裁判所が置かれたのは、このような複雑な歴史を踏まえてのことでした。「ヨーロッパの平和は仏独の和解から」という信念がその根底にあります。
ストラスブールのあちこちで感じられるドイツの香り。旧市街を歩くとまず目に飛び込んでくるのは、美しいコロンバージュ(木骨組み)の家々。まるでおとぎの国のような世界が広がっています。童話の主人公気分でお散歩してみましょう。
家屋をよく見ると、なんだか上の階の方が大きくてバランスが悪いような・・・・・・。これは、1階の面積によって税金が決まっていたからだそう。間口の広さによって税金が決められていたために奥行きが伸びていったといわれる(諸説あり)日本の京町家とも、似たものを感じますね。
町歩きをするうち、ふたつの言語で書かれた道路表示にも気づくことでしょう。上はフランス語、下はアルザス語で書かれています。これはアルザス地方の方言で、ドイツ語に非常に近い言語です。日常的に話す人は減っていますが、今でもアルザス語を解する年配の方がいたり、大学で授業があったりと、アルザスのアイデンティティを示すものとして受け継がれています。
旧市街は、なんとまるごと世界遺産に登録されるほどの美しさを誇ります。1988年に登録され、2017年にはノイシュタット(Neustadt)を加えて拡大登録されました。ノイシュタットとは新市街のことで、19世紀後半、ドイツの統治下にあった時代に造られた重厚な建築が並ぶ地区です。ネオ・ゴシック様式の教会やアール・ヌーヴォー調の美しい住宅を眺め、この町の歴史を感じながらお散歩するのもおすすめです。
旧市街の中でも一番の見どころはここ。ストラスブールに流れるイル川の本流が4つに分岐する地点にある「プティット・フランス(Petite France)」です。川沿いに木骨組みの建物が並び、とりわけ色とりどりの花が咲き誇る春には、絵のような風景に出合えます。天気のよい日にバゲットやアイスクリームを片手にお散歩するのも、すてきな旅の思い出になりそうですね。
運が良ければ、ムーラン通りの回転橋のフェザン橋(Pont du Faisan)がくるりと回って、イル川を航行する船を通す様子が見られるかも!
圧倒的な高さ(142m)を誇る、街のシンボル。あまりの高さに、手前の広場から大聖堂全体を収めた写真を撮るのが難しいほどです。1015年に建設が始まり、現在の形となったのは1439年。その高さは、現在でも世界で10本の指に入ります。ヴォージュの山の赤色砂岩が使われており、その色彩とレースのような繊細な彫刻から、「薔薇色の貴婦人」とも呼ばれています。かの文豪ゲーテも、「荘厳な神の木」と讃えました。
入口にはレースのように繊細な彫像がびっしり。犬やドラゴンなど、中世らしい魔除けのための動物の彫像を探してみるのもいいでしょう。ステンドグラスに彩られた聖堂内は、クリスマスシーズンには18世紀のタピスリーが展示されます。
奥にある世界最大級(高さ18m)の天文時計も観光客に人気です。キリストと使徒たちのかわいらしいからくり人形が、12時30分になると動き出すのでお見逃しなく(チケットを午前中に購入、正午からビデオ上映)。
高さ66mの塔の展望台も見逃せません。300段を超える階段を上り切るのはちょっとたいへんですが、晴れた日にはなんとドイツ南西部に広がる「黒い森(Schwarzwald)」まで見渡すことができます。
なお、ノートルダム大聖堂は、2019年に火災に見舞われ現在は公開を中止していますが、修復が進められ2024年12月9日に一般入場が再開される見通しです(2024年3月28日時点の情報のため、ご自身の旅程に合わせて最新情報をご確認ください)。
大聖堂のすぐ脇にあるロアン宮前の乗船場を出発し、旧市街、プティット・フランスから欧州議会まで、約1時間15分でイル川をぐるりと一周します。趣のある古都の顔、そしてEUの未来を担う国際都市の顔。ストラスブールの歴史を、川の流れとともにたどることができます。歩いて回るのもすてきですが、船の上から見る景色もまた格別です。
モミの木のツリーに関する最古の資料が残るアルザスでは、クリスマスは一年で最も重要なイベント。町の中心、クレベール広場(Place Kléber)には、高さ30mものツリーが設置され、美しいイルミネーションが町を包み込みます。
クリスマスマーケット(マルシェ・ド・ノエルMarché de Noël)はフランス最古と言われており、最も古いブログリ広場(Place Broglie)のマーケットの歴史はなんと1570年にまで遡るそう。今や市内に10以上のマーケットが点在する「クリスマスの首都」として、国内外から毎年150万人もの観光客を集めています。
なお、クリスマスマーケット開催期間中、エリア内に入場する際、荷物チェックがあります。スーツケースも同様なので、中心部で宿泊する場合は注意しましょう。
町中がクリスマス一色になり、ショップのデコレーションやショーウインドウを見ているだけでもワクワクします。マーケットにはクリスマスならではの食べ物や雑貨を扱った屋台がひしめきますが、まずはスパイスの効いたホットワインのヴァン・ショー(Vin Chaud)で温まりましょう! 2cl(200ml)で赤が€2.50、白が€3です。カップはデポジット式(+€1)。返却するとカップ代が返ってきますが、プラスチックで軽く、凝ったデザインも多いので、持ち帰ってもすてきなお土産になります。
小腹がすいたら温かいクレープやプレッツェルがおすすめ。サン・ニコラの日に食べるという、人の形をした伝統の菓子パン「マナラ(Manala)」(€1.20~€1.50)も、素朴な見た目と優しい甘さにほっこりします。スパイシーな「パンデピス(Pain d'épices)」もいろいろな種類があって目移りしてしまいます(価格は大きさや種類によって異なる)。
見ているだけでクリスマス気分が高まる雑貨も、目移りしそうなほどたくさん。キャンドルやリース、オーナメントなど、家に飾りたくなるものばかりです。特にオーナメントは、木製、陶器製、金属製、フェルト製、レース製と素材もモチーフも実に多彩なので、いろいろ見比べてお気に入りを見つけてみてください。
アルザス風極薄ピザ。薄いピザ生地の上に、アルザス名産のフロマージュ・ブラン(クリーム状のフレッシュチーズ)と玉ねぎ、ベーコンをのせて焼いたもの。パリパリとしているので、その大きさのわりにはペロリと食べられます。とろとろのクリームとベーコンの塩味が効いていて、やみつきになるおいしさです。アルザス名産のビールと一緒にいかが?
ドイツでもよく食べられる、塩漬け発酵させたキャベツと豚肉を白ワインで煮込み、腸詰類を盛り合わせた料理。ストラスブールでは魚のシュークルートも有名。
白ワインでマリネした肉とジャガイモなどの野菜をテリーヌ型に入れて、オーブンでじっくり重ね焼きしたアルザス料理。白ワインでじっくりと煮込んだような濃厚な味わいです。かわいらしい陶器ももちろんアルザス製。
プレッツェルといえばドイツですが、アルザス地方のパン屋さんでもよく見かけます。弾力のある食感と塩味が、これまたビールとよく合います。ハムやチーズを挟んだサンドイッチや、ベニエ(揚げパン)などのバリエーションもあります。
年間を通して降雨量は少なく、乾燥しています。夏は暑く、気温が40℃近くまで上昇することも。サングラスは必須です。反対に冬はかなり冷え込むので、防寒対策をしっかりしていきましょう。春と秋は過ごしやすく、穏やかな気候です。
独特の歴史を歩んできたストラスブール。ふたつの文化が混じり合う町で、ひと味違ったフランスの旅を楽しんでみては? 近郊のコルマール(Colmar)やワイン街道沿いのリクヴィル(Riquewihr)など、小さな村も合わせてアルザスを巡るのもおすすめです。
TEXT:オフィス・ギア
PHOTO:オフィス・ギア、iStock
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