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美食の国イタリアを支える「エミリア・ロマーニャ州」、特にパルマ周辺は世界に名だたる「Parmigiano Reggiano/パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ」の生産地として知られています。DOPと呼ばれるEU法が定める食料品の原産地名称保護制度の下、産地・製造方法など非常に厳格な規定を遵守したものだけが「パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ」と名乗ることが許されています。今回はパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会の全面協力を得て、チーズ製造所を取材することができました。サッカーファンならかつて中田英寿氏が所属したセリエAの「パルマ」で聞き覚えがあるかと思いますが、ミラノから新幹線で1時間強、イタリア北部に位置する人口約18万人の町です。中世には自由都市として繁栄を誇り、ルネッサンス期には「パルマ派」を生み出したパルマですが、美食の宝庫であると共に2000年に及ぶ長い歴史の中でざまざまな文化が融合した「芸術の町」でもあります。 取材協力:パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会
「チーズの王様」と称されるイタリアを代表するハード(硬質)チーズ。これをすりおろしたものはイタリア料理には欠かせないものです。この地域でのチーズ作りは800年以上前まで遡りますが、現在、DOPでパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズの産地として認定されているのはポー川とレノ川、アペニン山脈に挟まれたエミリア・ロマーニャ州のパルマ、レッジョ・エミリア、モデナおよびボローニャ・マントヴァ(ロンバルディア州)の一部であり、同時にその指定エリアで採れた天然の飼料を与え、同地区で飼育された牛の添加物が一切混じらない生乳のみが原料として認められているのです。なお、1kgのチーズを作るために要する牛乳は16リットルなので、最低でも35kgと規定されている一つの塊を作るには実に550リットルの牛乳を使うことになります。
DOP=Denomina zione di Origine Protetta このマークがついていれば「本物」の証。美食の宝庫、エミリア・ロマーニャ州にはパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ以外にもプロシュット・ディ・パルマ(生ハム)、クラテッロ・ディ・ジベッロ(生ハム)、アチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレ(バルサミコ酢)など高品質なDOP製品が数多くあります。これらの製品パッケージにはこのDOPマークがついていますし、レストランなどのメニューにも表記されるので食材や料理選びの目安として覚えておくとよいでしょう。
このように厳しい条件を満たした生乳は、搾乳から2時間以内にチーズ製造所に運ばれ、一晩寝かせ脂肪分を抜きます。そこに朝方の絞りたて全乳を合わせるため製造所の朝はとても早く5時には作業が始まります。これを銅製の大釜で熱したら発酵を促す継ぎ足し用の乳清を注ぎます。この乳清も前日の作業で得られた天然の乳酸発酵体です。そこにこれまた天然の凝乳酵素を加え温めることで、牛乳を凝固(凝乳)させます。
凝乳を「スピーノ」と呼ばれる道具で細き、さらに加熱をしていくわけですが、その火加減の調整はまさに職人の腕が問われる場面です。慎重に撹拌していくと、約5分で牛乳は米粒状の固形分と乳清に分離して全体が黄色を帯びてきます。最後に火を落とすとチーズの粒は塊となり、鍋底に沈殿します。これを丁寧に麻布で引き上げ、二つに切り分けて型に入れて成型、12時間の水切りの後、ステンレス製のタンクに移され、そこでいよいよチーズ側面の皮にparmigiano Reggianoの文字・製造所番号・製造年月日の原産地マークが刻印されます。
そこからさらに二・三日保管してから型を外したら、風味付けととともにパルミジャーノ・レッジャーノの特徴でもあるあの固い皮を作るため、約25%の塩水に約20日間漬けます。この塩漬け作業が終わるといよいよ倉庫での熟成が始まります。倉庫内は常に熟成に最適な温度・湿度に保たれていますが、気候の良い季節には窓を開け自然の風を通すこともあるそう。そして1週間に1回程度全体にブラシがけをし、上下を返して乾燥・熟成を深め出番を待つのです。定められた最低熟成期間は12ヵ月、上限はなく24ヵ月・36ヵ月、中には100ヵ月ものも! 一般的には24ヵ月熟成が一番バランスが取れている、と言われるようですが、ワイン同様、熟成度合いのテイスティングが楽しめるのもパルミジャーノ・レッジャーノの魅力でもあります。
20日ほど塩水に漬ける。風味付けとともにあのパルミジャーノ・レッジャーノ独特の固い皮を作るための大事な行程。
一般家庭でもレストランでも、削りたてのパルミジャーノ・レッジャーノは欠かせません。
サラダ・スープ・パスタ・リゾット・生ハム‥‥‥12ヵ月以上の熟成の間に凝縮された旨味成分(アミノ酸)が料理の味を豊かにしてくれます。そしてワインとの相性もベストマリアージュ! 薄くスライスして、シャンパンやスプマンテと。あるいは大胆に塊をかじりながら、同じく熟成を重ねたフルボディの赤と合わせるのもブラーヴォ! 固い皮の部分も煮込むことでミネストローネやリゾットの出汁として重宝されるパルミジャーノ・レッジャーノはまさに「チーズの王様」です。
12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月、60ヵ月‥‥‥ ミルクのたんぱく質が旨味成分へと変わりまったく異なる色・香り・風味・食感が楽しめます。
是非、製造現場を見てみたい!という方、パルマ近郊には見学可能な製造所がいくつかあります。今回の取材でお世話になったのは「カゼイフィーチョ・ウゴロッテイ」とてもフレンドリーなスタッフが出迎えてくれました。
■ Caseificio Ugolotti S.r.l
・住所: Via Emilio Lepido 72, PARMA
・TEL: 0521-486769
・営業時間: 08:00~19:30
・定休日: 12月を除く日曜日
・URL: http://www.caseificiougolotti.com/
※見学は2名以上、予約は必須で1ヵ月前から2日前まで受付。
・所要時間: 約1時間30分
・料金: パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ試食付でひとり€12
・ガイド言語: イタリア語・英語
・行き方: 鉄道のパルマ駅や市内Piazza Ghialaから23番のバス(S.llario d' Enza行き)で約30分、San Lazzaro dadaumpa下車、進行方向へ約150m進んだ左側。市内からはタクシーで10分程度。
文: レ・グラツィエ、柳 正樹