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全長1012kmの大河、ロワール川の西部流域一帯は、ルネッサンス時代の古城が点在する、風光明媚な場所として知られます。なかでも2019年に着工から500周年を迎えたシャンボール城は、その規模と美しさにおいて群を抜き、訪れる人を魅了しています。
●シャンボール城の位置と歴史
シャンボール城はロワール地方の中心都市トゥール(Tours)から東へ約80kmの所にあります。カシ、シラカバなどが生い茂る森に囲まれた広大な敷地内にあり、ロワール地方最大のスケールを誇る城館です。
城が建てられたのは1519年のこと。当時24歳だった国王フランソワ1世(1494~1547年)の命で、築城工事が開始されます。イタリア遠征時、ルネッサンス芸術の素晴らしさに触れ、感銘を受けた王は、帰国後、その建築様式を取り入れた城を造ることを決意したのでした。居住用ではなく、狩猟の際に滞在する場所として造られたもので、森に囲まれた環境は、理想的なロケーションでもありました。
城の建設に情熱を注いだフランソワ1世でしたが、1547年、その完成を見ることなく世を去ります。その後、息子のアンリ2世(1519~1559年)が工事を引き継ぎ、さらに17世紀、ヴェルサイユ宮殿を造った太陽王ルイ14世(1638~1715年)によって改装されるなどして、シャンボール城は現在の姿となりました。
フランス国有資産となったのは1930年。1981年には単独でユネスコの世界遺産に登録されましたが、2000年に指定範囲が拡張され、現在は「シュリー・シュル・ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷」の構成要素のひとつとなっています。
また、ディズニーの実写版映画『美女と野獣』(2017)に登場する城は、シャンボール城からインスピレーションを得て描かれたとされ、話題となりました。
●シャンボール城とレオナルド・ダ・ヴィンチ
シャンボール城の建設を命じたフランソワ1世は、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519年)をはじめとするイタリアの芸術家たちをフランスに招いた王として知られています。王は文芸の保護に努め、フランス独自のルネッサンス様式を開花させたことから、「フランス・ルネッサンスの父」とも呼ばれています。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、フランソワ1世に主席画家、建築家、技師として迎えられ、晩年の3年間をロワール地方で過ごしました。シャンボール城の建設が始まったのは、レオナルドが亡くなったあとでしたが、彼が関わったと考えられている部分もあります。
シャンボール城への行き方は、下記の①~③が代表的です。
①ミニバスツアーの利用
パリのモンパルナス(Montparnasse)駅からTGVで約1時間20分のトゥール(Tours)で、ミニバスツアーを利用すると効率よく訪ねることができます。シャンボール城単独のプランはなく、シュノンソー城(Château de Chenonceau)などとセットになったプランとなります。
●ミニバスツアー会社
■トゥーレーヌ・エヴァジオン Touraine Evasion
・URL: https://www.tourevasion.com/ja/loire-valley-chateaux-excursions-for-the-japanese/
■アコ・ディスポ Acco-Dispo
・URL : https://www.accodispo-tours.com/
②ブロワからの巡回バスの利用
3月下旬~11月上旬は、パリ・オステルリッツ(Austerlitz)駅から列車で約1時間30分のブロワ(Blois)から出る巡回バスを利用することもできます。このバスはブロワ駅前から発車、シャンボール城とシュヴェルニー城を巡回します。
③レンタカーの利用
レンタカー利用の場合、トゥールから約1時間で着きます。
①広い城内
シャンボール城はロワール川流域の古城のなかで最大規模を誇ります。高さ56m、幅156m、426もの部屋を持つ壮大な城で、階段の数は83、暖炉は282とすべてが桁外れです。
城は、4つの塔をもつ四角形をしており、その北側の辺に面して「ドンジョン(Donjon)」と呼ばれる主塔(日本の城の天守閣にほぼ相当)があります。その上部の複雑な装飾を施した塔やテラスは、中世の時代にはなかったもので、無骨な「要塞」だった城のイメージを覆しました。
設計者については、シャルル8世の時代にフランスに迎えられたイタリア人建築家ドメニコ・ダ・コルトナ(1465頃~1549年頃)とする説もありますが、この時代に建てられた多くの城と同様、資料が残っておらず、はっきりわかっていません。ただ、フランソワ1世が心酔し、フランスに招いたレオナルド・ダ・ヴィンチの影響が少なからずあったとみられています。
②内部の見どころ
●レオナルド・ダ・ヴィンチが設計したと言われる二重らせん階段
シャンボール城の見どころのひとつとなっているのが、中央にある二重らせん階段です。対になったふたつの階段が、交わることなくらせんを描いており、人がすれ違わず昇降できる仕組みになっています。
設計者の名前は伝わっていませんが、当時のフランスとしては革新的な設計で、レオナルド・ダ・ヴィンチの発想が取り入れられているのでは、と考えられています。
●フランソワ1世の居所
フランソワ1世の居所は、もともと主塔に置かれていましたが、回廊などへの出入りがしやすい東の翼廊に移されました。執務室、ふたつの小部屋、寝室、小さな礼拝堂で構成されています。
●ルイ14世の居室
1680年、ルイ14世は、「王の部屋は本館の中心に位置すべきである」という当時の作法に乗っ取り、王の部屋を主塔の中央に移しました。現在見られる装飾は18世紀のもの、また調度品は資料をもとに復元されました。
●礼拝堂
歴代国王の居室が並ぶ2階部分の西端には、礼拝堂があります。フランソワ1世の命で建設が始まったもので、ルイ14世の時代に完成しました。このとき建設に関わったのが、ヴェルサイユ宮殿の建築総監督を務めたジュール・アルドゥアン・マンサール(1646~1708年)です。
③屋上テラス
らせん階段を上りきったドンジョン(天守)の上部にはテラスがあり、屋上に造られた数々の塔や城の外側に施された細かい装飾を間近に見ることができます。復元された美しいフランス庭園や、城を取り巻く広大な森など、素晴らしい眺望を楽しめる場所でもあります。
④ヨーロッパ最大の公園 シャンボールの森
シャンボール城を取り巻く5440haの敷地は、現在ヨーロッパ最大規模の森林公園となっています。32kmの壁に囲まれており、パリ市より少し狭い面積をもつことから、「イントラミュロス・パリ(城壁の中のパリ)」とも呼ばれます。野生動物保護のため、森林公園の大部分は入ることができませんが、立ち入りが許可された約1000haのエリアがあり、徒歩や自転車で散策を楽しむことができます。
⑤フランス庭園
シャンボール城の庭園は、フランス革命以来、放置されたままでした。そんななか、アメリカの資産家が寄付を申し出、復元計画が始動します。18世紀当時の図柄に沿ったものにするため、長年にわたる調査の後、2017年、ルイ15世(1710~1774年)時代のフランス式庭園がよみがえりました。約600本の樹木が植えられた見事な庭園は、城のテラスから見下ろすことができます。
■シャンボール城 Château de Chambord
・住所: 41250 Chambord
・入場料: €14.50、18~25歳€12
・開館時間: 9:00~17:00(3/28~10/25は~18:00、12/24・12/31は~16:00)
・休館日: 1/1、11/30、12/25
・城内の飲食情報: 城内にカフェやレストランはありませんが、城から約50mの所にホテル&レストラン「ルレ・ド・シャンボールRelais de Chambord」があり、城の眺めを楽しみながら食事をとることができます。
・URL: https://www.chambord.org/en
■ルレ・ド・シャンボールRelais de Chambord
・URL: http://relais-de-chambord.loire-valley-hotels.com/ja/
ロワール川流域には、シャンボール城のほかにも優美な城館が点在しています。
●シュノンソー城
16世紀の創設以来、代々の城主が女性だったことから「6人の女の城」と呼ばれています。ロワール川の支流シェール川にかかるように建つ城で、3番目の城主カトリーヌ・ド・メディシス(1519~1589年)によって橋の上にギャラリーが造られ、現在の姿となりました。夫であるアンリ2世から愛された2番目の城主、ディアヌ・ド・ポワティエ(1499~1566年)とカトリーヌの相克も、語り継がれています。
■シュノンソー城 Château de Chenonceau
・住所: 37150 Chenonceau
・入場料: €15.00、18~27歳の学生€12.00(いずれもガイドリーフレット付)、
・開館時間: 9:00~18:00(月によって異なる)
・休館: 無休
・URL: https://www.chenonceau.com/
●アンボワーズ城とクロ・リュセ
古代からの要塞を、15世紀末にシャルル8世(1470~1498年)が改築した城です。イタリアから建築家や画家を呼び寄せ、壮大な城を建設しましたが、現在見ることができるのは、現存する巨大円塔ミニムの塔と続く中央塔のみです。
フランソワ1世の代には、レオナルド・ダ・ヴィンチがここに招かれました。レオナルドは、王から与えられたクロ・リュセ城で1516年から没する1519年まで過ごしました。寝室や大広間が再現され、館を囲む広い敷地は「レオナルド・ダ・ヴィンチ・パーク」となり、彼の発明の数々が再現されています。
■アンボワーズ城 Château Royal d’Amboise
・住所: Montée de l’Emir Abd el Kader 37400 Amboise
・入場料: €13.10、学生€11.30
・開館時間: 9:00~18:00(月によって異なる)
・休館: 1/1、12/25
・URL: https://www.chateau-amboise.com/jp/
■クロ・リュセ城 Château du Clos Lucé
・住所: 2, rue du Clos Lucé 37400 Amboise
・入場料: €17(4/1~11/15)、€14.50(11/16~3/31)
学生€12.50(4/1~11/15)、€11.00(11/16~3/31)
・開館時間: 9:00~19:00(月によって異なる)
・休館: 1/1、12/25
・URL: https://www.vinci-closluce.com/en
●シュヴェルニー城
17世紀前半の建造以来、同一家系の一家が居住しているプライベートシャトーで、内部の装飾や家具調度品がよく保存されています。人気コミック『タンタン』に登場する城のモデルともなった所で、城内にはタンタンに関する常設展示があります。手入れの行き届いた庭園の散策も楽しめます。
■シュヴェルニー城 Château de Cheverny
・住所: Av.du Château 41700
・入場料: €12.50
・開館時間: 4~9月 9:15~18:30、10~3月 10:00~17:00
・休館: 無休
・URL: https://www.chateau-cheverny.fr/
フランス・ルネッサンスの傑作と称されるシャンボール城。イタリアで花開いた様式を習いながら、フランスらしい優雅さをまとわせた建築は、500年の時空を超えて、訪れる人を魅了しています。ロワール川のほとり、歴代の王たちに愛された名城の数々を訪ね歩くのもいいでしょう。
TEXT:オフィス・ギア
PHOTO:オフィス・ギア、iStock
※本記事の観光関連情報は2020年5月21日現在のものです。
※フランスのお城に関しては、こちらもご参照ください。
https://jp.france.fr/ja/val-de-loire/list/loire-deconfinement-202006
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・URL:https://www.anzen.mofa.go.jp/index.html