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香港というとネオン看板が突き出す街並みを思い浮かべる人は少なくないでしょう。しかし、そんな香港の象徴であるネオンサインが今、姿を消しつつあります。時代が変化する中、香港の街を彩り続けたネオン職人とその家族の絆を描いた『燈火(ネオン)は消えず』は、まさに今観たい映画。1月12日に公開です。
『燈火(ネオン)は消えず』は、香港の夜景を彩ってきたネオン職人の魂を感じる作品。主人公はネオン職人の夫ビルを亡くした妻メイヒョン。夫に先立たれ失意に暮れるある日、彼女は10年前に閉めたはずの夫の工房の鍵を見つけます。疑念を抱きながら工房に向かうと、そこにはビルの弟子だと名乗る青年がいて、夫にはやり残した仕事があったと聞かされます。メイヒョンは夫が最後に作るはずだったネオンを完成させようと決意しますが、一方で、ひとり娘からは香港を出て海外に移住をすると告げられ…。
作品冒頭では、ネオンサインが取り外されていく様子が映し出され、切ない気持ちになります。香港の特徴であるネオンサインは、2010年の建築法等改正により安全上の理由で取り外され、2020年までにおよそその9割が姿を消しました。中でもネオンが最も華やかだった九龍半島の目抜き通り、ネイザンロードの看板がほぼ全て撤去されたのはかなりの衝撃でした。
作品のロケ地となったのは、ネイザンロードのある九龍半島の尖沙咀(チムサーチョイ)から旺角(モンコック)にかけてと、香港島の中環(セントラル)から銅鑼湾(コーズウェイベイ)にかけて。いずれもかつて多くのネオンサインが光を放っていた香港の中心地ですが、撮影時にはほとんどのネオンが撤去されていたが、それに先立ってネオンだけ撤去前に撮影したり、過去の映像を使用したり、3Dを駆使したり、職人の指導のもと新たにネオンを作り直したりして再現したといいます。
若かりし頃のメイヒョンがビルと出会った頃の回想シーンでは、かつて街を照らした有名なデザインのネオンサインがいくつも登場するので、香港好きなら「見たことある!」と懐かしくなるでしょう。主人公夫婦に限らず、ネオンは香港の人々の毎日を照らしてきました。
そして、この作品からもわかるように数々のネオンサインの看板は、小さなお店のものから、ド派手な茶餐廳のもの、さらには大手企業の巨大なものまで、その一つひとつが職人の技術によって生み出されてきました。手仕事で作られたと思うと、ネオンの鮮やかな光が今まで以上に温かく懐かしく感じられます。
手描きでデザインを起こし、色と配置を決めて、1本1本丁寧にガラス管を曲げ、ガスを入れ電気を流すことで発光させる…ヨーロッパで発明されたネオンの技術はイギリス領時代に香港に伝わり、経済成長とともにどんどん増えていきました。作中でビルが「商売があるところにネオンあり」と言っていますが、まさにネオンは香港人の商売に対するエネルギーの象徴。今までSARSなどで経済の危機がありましたが、職人と商売人の誇りと人情で持ち堪えてきたのだと、この映画から察することができます。
本編が終わっても見どころは続くので最後まで席を立たないように。エンドロールでは、実際のネオン職人が次々に登場します。そして最後には、2016年に水没した水上レストラン「JUMBO」の在りし日の姿も映し出されます。
香港のひとつの時代を照らし続けたネオン。その風景が失われてもネオンの輝きを残したいと願う職人の想いと共に、私たちは観客として、光に満ちた当時の風景を心に刻みたいと思うのです。
香港の魅力はネオン以外にも。そのひとつは食。作中で登場する食事シーンで出てくるひとり娘の好物、焼鵝(ロースト・グース)は、香港グルメの代表格のひとつで、ローカルレストランでは単品ではもちろん、ご飯や麺にのせたメニューも人気です。また、ロースト・グース1羽もしくは半羽をメイヒョンのようにテイクアウトして、家族で食べるのも一般的。パリッとしたグースの皮とジューシーなお肉には甘酸っぱい梅ソースがマッチ。香港へ行く際にはぜひ味わってみてください。
<DADTA>
『燈火(ネオン)は消えず』
監督・脚本:アナスタシア・ツァン
出演:シルヴィア・チャン、サイモン・ヤム、セシリア・チョイ、ヘニック・チャウほか
制作年:2022年
制作:香港
時間:103分
https://moviola.jp/neonwakiezu/#
1月12日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネマート新宿ほか全国順次公開
TEXT: 『地球の歩き方 W29 世界の映画の舞台&ロケ地』編集担当 清水真理子
〈地球の歩き方編集室よりお願い〉
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