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ドイツ鉄道の便利さは誰もが認めるところだが、近年注目されてきたのがゆっくりのんびり楽しむ蒸気機関車の旅。おすすめは中央ドイツの北に広がるハルツ山地の最高峰、ブロッケン山への路線だ。ヴェルニゲローデという小さな町を起点に、HSB(ハルツ狭軌鉄道)が蒸気機関車を走らせている。所要時間は片道1時間30〜2時間。毎日往路4便、帰路5便もあるから予約も不要。車内で買える名産の蒸留酒を早速くいっとやる人もいて、アットホームな雰囲気で旅が楽しめる。
ヴェルニゲローデは、マルクト広場にある美しい木組みの庁舎と中心街の古い建物が印象的な小さな町。ブロッケン山のふもとハルツ地方では、年に1度「ヴァルプルギスの夜」という魔女の宴が催される。ドイツの文豪ゲーテの傑作『ファウスト』にも描写されたことで知られており、ヴェルニゲローデでも4月30日の夜には魔女に扮した美男美女でおおにぎわいになる。魔女は町起こしにもひと役かっており、この町では魔女グッズや魔女ボランティアガイドなど1年中魔女に会うことができる。
HSB(ハルツ狭軌鉄道)は、その名のとおり軌間1000mmの狭軌鉄道。やや小ぶりに見える機関車は、1897〜1900年にかけて買い入れたもので、ドイツで運行中のマレー型蒸気機関車では最古の機関車だとか。車内は木のぬくもりがやさしく、対面式の座席では家族連れやハイカーが発車を待っている。機関車は森の中を抜け、急カーブを続けながら標高を上げていく。標高差は891m、ブロッケン山の頂上付近になると森林限界を越え、一気に視界が開けてくる。
ブロッケン山は標高1142mの山。実は最近の調査で少しばかり低かったことがわかったのだが、とりあえず記念写真用の岩にはいまでもそう書いてある。霧深いことから「ブロッケン現象」がよくあるということで語源となっているが、博物館のスタッフいわく「まず見られないわね」。太陽の光が背後から差し込んで、自分の影に虹のような色がつく現象だそうだが、そうとう珍しいらしい。ただ、霧深いのは事実。天気がよければ北ドイツに広がる大平原が眺められるのだが、訪れた日もなかなかの濃霧だった。北ドイツの最高峰ということから東ドイツ領となった第二次世界大戦後には、ソ連の駐屯地が置かれ一般の人が入境できない時期もあった。岩だらけの頂上には1周できる木道が整備され、晴れていれば眼下の景色を楽しみながら歩くことができる。しかし霧が出れば木道の先も見通せないことも。こんな日は本当に魔女に出くわすのではないかという気になるから不思議だ。頂上にはこの地方の動植物を紹介する小さな博物館もあり、緑ゆたかなふもとからハイマツの這うエリア、そして頂上と豊かな植生や動物の生態をみせてくれる。
また、夏はハイキング、冬はクロスカントリースキーで楽しむ人も少なくない。頂上からの帰路に1駅だけハイキングをしながら下って途中駅で蒸気機関車に再乗車することもできる。魔女にも会えて、蒸気機関車にも乗れる、しかも豊かな自然も堪能できて最高のプチトリップとなるだろう。
文:大和田聡子(どんぐり・はうす)
写真:豊島正直
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監修:地球の歩き方