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第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され注目を集める韓国ノワール映画『このろくでもない世界で』が、7月26日に公開されます。貧困と暴力から行き場を失った少年と、そんな少年にかつての自分の姿を重ねる闇社会の男を、新鋭ホン・サビンと人気俳優ソン・ジュンギが熱演。もがくほど泥沼にはまっていく彼らに光は射すのか!?
暴力がはびこる閉鎖的な町に暮らす18歳の高校生ヨンギュ(ホン・サビン)は、貧しい家庭に育ち、継父のDVに怯える日々を過ごしていました。ある日、継父の連れ子である義理の妹ハヤン(キム・ヒョンソ)を守るために暴力沙汰を起こして停学になり、そのうえ、殴った相手の両親から多額の示談金を求められてしまいます。
どうしてもお金を工面できず途方に暮れるヨンギュに手を差し伸べたのは、地元の犯罪組織のリーダーであるチゴン(ソン・ジュンギ)でした。チゴンは、ヨンギュにかつての自分の姿を重ねていて…。
ヨンギュは仕事という名目で“盗み”を働き、徐々にチゴンに認められていきますが、ある日、組織の掟に背いてしまいます。もがけばもがくほど泥沼にはまっていくふたり。このろくでもない世界で、果たして彼らに希望の光は射すのでしょうか?!
この物語の舞台は韓国の「ミョンアン市」というところですが、これは架空の町。監督は、「漢字で“暗い明、穴の中”という字を使って抜け出せない地獄のような感じを込めた」と話しています。「建物であれ土地であれ、周辺環境であれ、少しでも新しいものがあってはならないという原則を立てた。登場人物たちが感じている窮屈さと疲弊を視覚化し、観客にも体感してもらうために、都市をなすすべてのことを“古道具”のように表現したかった」のだとか。細部まで計算されているので、まるで実在する町かのようなリアリティがありますが、残念ながら存在しないので訪れることはできません。
架空の町を訪れることは難しくても、グルメで映画の世界を旅することはできます。本作では地元の犯罪組織のリーダーであるチゴンと高校生ヨンギュの絆が見どころのひとつですが、なかでもチゴンがヨンギュに魚のチゲを振る舞うシーンは印象的。チゴン役のジュンギさんも、「(チゴンが)ヨンギュと魚のチゲを食べる場面は、ふたりが共感を覚える重要な瞬間」と語っています。「夜中の2時頃から一晩中チゲを食べたが、終わる頃には生臭いにおいがした(笑)。苦労した分、よく撮れたようでやりがいがあった。」と、思い出深い撮影でもあったようです。
張り詰めた物語の中で一時のあたたかさを感じさせるシーンで登場した「魚のチゲ」は、韓国の定番料理。チゴンの手料理の鍋はヨンギュの心をあたため和らげてくれたことでしょう。韓国を旅するときは、この2人の束の間の穏やかな時間に思いを馳せながら、ぜひ味わってみてください。
TEXT:清水真理子