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雄大なアルプス山脈、美しい湖、古い街並み――。まるで絵本の中に迷い込んだかのような風景が広がるスイスは、多くの日本人にとって憧れの旅行先だ。しかし、その魅力が自然から歴史、文化など多岐にわたるため、どこを訪れればいいのか迷ってしまうことも。。大自然を満喫するトレッキング、歴史・文化を感じる街歩き、絶景の列車旅まで、スイスの魅力を存分に味わえるスポットを紹介。
リマト川を挟んでチューリヒ湖まで南北に延びるエリアが旧市街。チューリヒの歴史は古くローマ時代から栄えていた。市内には16世紀から続く建物も数多く残っている。リマト川東岸のエリアは、狭いニーダードルフ通り沿いにぎっしりと建物が並び、ショップやレストラン、カフェなどが並ぶ雰囲気のある町並みを作っている。チェーン店の看板がなければ中世の町を歩いているかのような気分になるほど。西岸エリアは東岸に比べてゆったりとした町並みだが、高低差のある路地が入り組んでおり、こちらもそぞろ歩きが楽しい。散策するならまずは高台にあるリンデンホフの丘を目指そう。東岸エリアを見渡すことができ、見どころの位置関係も把握できる。
リマト川西岸の高台、4世紀にローマの要塞として造られた場所が公園として開放されている。リンデンホフとは菩提樹のことで、公園内には名前のとおり菩提樹が植えられている。町のなかの公園とは思えないほどすばらしい眺望が得られるおすすめスポットだ。丘には南北方向から上る道があるので、市内散策の途中にも立ち寄りやすい。公園西側ではチェスを楽しむ人々の姿も見られる。展望ポイント近くにある泉のあたりでは韓国ドラマ『愛の不時着』のロケが行われた。オープニングと、第16話でユン・セリがピアノを弾く青年をジョンヒョクと見間違えたシーンだ。ベンチもあり木陰で読書を楽しむ地元の人々も多い。身体も心も休めることができる都会のオアシスだ。
1898年にオープンした歴史ある博物館。チューリヒ中央駅すぐ目の前にある。お城のような外観の建物は内部装飾も見事で、建物を見る楽しみもある。2016年7月31日にモダンなデザインの新館も完成して展示ホールや図書館、イベントスペースが加わった。博物館の収蔵物は多岐にわたり、14に分類された87万点以上のコレクションを有する。考古学的に貴重なものから、絵画・彫刻、ジュエリーと時計、武器や制服などのほか、人々の暮らしのなかで使われてきた馬車やそり、家具、ファッション、玩具など幅広いジャンルの展示物を見ることができる。コレクションはオンラインでも閲覧できる。興味のあるジャンルがあれば、どんな展示物があるかを予習しておくのにもいい。
1787年設立の古い歴史をもつ美術館。本館は1910年に建築され、増築を繰り返してきた。2021年秋の新館オープンにより面積は一気に2倍に広がり、スイス最大の美術館となった。4000点の絵画や彫刻などのほか10万点の紙の作品を所蔵。財団や個人のコレクションも常設されているため、鑑賞できるコレクションは非常に充実している。18~20世紀のセガンティーニやホドラー、ヴァロットン、アルベルト・ジャコメッティなどのスイス美術のほか、17世紀のオランダ絵画、スカンジナビア以外で最大規模のコレクションを誇るムンク、フランス印象派作品など、幅広い年代の名作が揃う。1916年にチューリヒで運動が起こったダダ芸術のコレクションは世界最大規模。
853年に設立された女子修道院が前身の教会。細く伸びた尖塔が印象的な教会は、チューリヒのランドマークのひとつだ。11世紀から13世紀にかけて国王たちの保護を受けた修道院長の権力は増大していき、貨幣の鋳造権も与えられていた。しかしツヴィングリの宗教改革の影響を受け、1524年に修道院とその資産はチューリヒ市に引き渡され、修道院の歴史を閉じた。建物は13世紀頃に再建されたゴシック様式の教会で、ロマネスク様式の内陣を有している。マルク・シャガールの5枚のステンドグラスと、アウグスト・ジャコメッティの高さ9mのステンドグラスが見事で、多くの観光客を集めている。地下の博物館は2016年から公開されている。
スイスで5番目に大きな南東に向かって延びる三日月形の湖。広さ88.66平方キロメートル、長さは40kmある。チューリヒ駅から南に延びるバーンホフ通りの突き当たりに船着場があり、湖船は観光だけでなく市民の足としても使われている。短いクルーズは往復で1時間、食事をとるのにちょうどいい1時間25分のクルーズは30分おきに運航されていて使い勝手がいい。長距離クルーズは湖の東端の町ラッパースヴィルRapperswillまで行く片道2時間10分強のルート。ラッパースヴィルはバラの町として知られる見どころの多い町だ。人気の高いリンツ・ホーム・オブ・チョコレートも船でアクセスできる。最寄り船着場はキルヒベルクKilchbergで徒歩10分ちょっとの距離にある。
登山鉄道で上ることができる標高3454mの人気展望台。年中無休で営業している。終点のユングフラウヨッホ駅はヨーロッパで最も標高が高い鉄道駅だ。外のテラスに出て360度の眺望を楽しめるスフィンクス展望台の標高は3562m。展望台の施設は充実しており、ユングフラウ鉄道の歴史を知ることができるアルパイン・センセーションや巨大スクリーンで迫力ある山岳映像を見られるユングフラウパノラマなどのほか、ショップやレストランも入っている。おみやげ選びや食事もここで済ませることができる。スノーアクティビティも体験できるので、じっくりと見て回るなら2時間以上の滞在時間を確保したい。酸素が薄いので、深呼吸しながらゆっくりと行動しよう。
2020年12月から運行を開始した最新鋭のロープウエイ。グリンデルワルト駅からひと駅戻るグリンデルワルト・ターミナル駅とアイガー北壁すぐ隣のアイガーグレッチャー駅とを約15分で結び、ユングフラウヨッホまでのアクセス時間を大幅に短縮した。26人乗りのゴンドラは足元まである窓ガラスに囲まれているので、どの席に座っていても眺めがよい。3sと呼ばれる3本のケーブルで運ばれるので安定性がよく、風が強いときでも運行が可能だ。標高1023mのグリンデルワルトから標高2328mのアイガーグレッチャー駅まで一気に上るので、雲が出ているときは劇的な天候の変化を見られるチャンスもある。景色を楽しむためだけに乗車してもいいほどの絶景ルートだ。
日本の旧安曇村(現松本市)と姉妹都市の関係にある日本人にも人気の村。アイガーの麓の日当たりのよい斜面に村が広がっており、アイガーを正面にユングフラウ地方の山々のパノラマを楽しむことができる。ユングフラウ三山を見る観光拠点として非常に便利な位置にある山岳リゾートだ。村の周りの展望台からスタートする魅力あるハイキングコースも多い。フィルストやメンリッヒェン、アイガーグレッチャーなどがハイキングの始点で、1時間ちょっとのハイキングからロングコースまで、難易度の異なるハイキングを体験できる。滞在客には村内バスを無料で利用でき、ロープウエイや施設利用が割引になるゲストカードが提供されるので活用しよう。
アイガーとユングフラウ、メンヒのユングフラウ三山を正面に仰ぎ見るポイントにある鉄道駅。標高2062mでヴェンゲン方向とグリンデルワルト方向から上る登山鉄道の終着駅であると同時に、ユングフラウヨッホに上る登山電車の始発駅になっている。駅前には100年以上前から営業を続ける由緒ある山岳ホテルがあり、非常に満足度の高いホテルステイが体験できる。ユングフラウヨッホ観光と組み合わせて訪問するなら、アイガーグレッチャー駅からハイキングでここまで下るといい。中間地点にはファルボーデン湖があり、風がなければ湖面に映るアイガーの姿が見られる。駅から少し坂を登ったあたりで韓国ドラマ『愛の不時着』のロケが行われている。
ベルン市が設立されたのは1191年。最初は時計塔から東側のニーデック橋の手前まで、次いで牢獄塔、さらに鉄道駅前までと東側に町が拡張された。ベルンは1405年の大火で木造住宅が失われたため、家々は石造りで建て直されることになった。ショップやレストランも充実しているスイスの首都だが、落ち着いた雰囲気を漂わせており、リラックスして町歩きを楽しむことができる。季節のイベントも多数開催され、毎週の市に加え秋のタマネギ市やクリスマス市も見物だ。博物館などの見どころも充実しているので、ベルンに滞在してじっくりと観光を楽しむのもいい。地上から見る旧市街の建物も圧巻だが、ホテル上層階から見る町並みの景色もすばらしい。
1421年の礎石が残る600年以上の歴史をもつ後期ゴシック様式の教会。16世紀までに大部分が造られたが、300年近く工事は中断。スイスで最も高い100.6mのネオ・ゴシック様式の塔は1893年に完成した。教会の建物は長さ86.72m、幅37.55m、高さ20.70m。ジャンボジェットと呼ばれたボーイング747の長さと高さを上回るスイス最大の教会だ。建物の見どころは正面入口の彫刻で造られた「最後の審判」や内部のステンドグラス。塔は登ることができ、気象条件がよければベルナーアルプスまで見渡すことができる。コンサート(2024年は6/18~9/3の毎週火曜日夜に定期開催あり)やさまざまなイベントも開催されているので、ここを訪れる予定があるならウェブサイトのイベント情報を確認しておきたい。
ドイツ人科学者アルベルト・アインシュタインが住んでいた家が公開されている。アインシュタインは1903年から1905年までの3年間、ベルンで特許庁に勤務しながら研究も進め、家族とともにこの場所で暮らしていた。1905年には『光量子説にもとづく光電効果の理論』『ブラウン運動の理論』『特殊相対性理論』を発表。この年は「奇跡の年」と呼ばれている。改修工事が行われたが、2階に上る螺旋階段は当時のまま。2階は家具や衣服が置かれ当時の暮らしぶりがうかがえる。3階は展示室になっており、アインシュタインの生涯と業績をたどることができる。入口を見逃しそうになるが、1階にアインシュタインの名を冠したカフェがあるので、それを目印にすると迷いにくい。
1902年完成の左右対称形の建物。連邦議会会議場と委員会室があり、議会が開催されていない期間にガイドツアーで見学できる(議会は一般公開されているが旅行者向けではない)。ツアーの所要時間は60分。パスポートが必要で20分前までに集合する必要がある。エントランスホールではベルン市の紋章である熊が出迎え、正面にはスイス建国の父と呼ばれる3人の彫像が立つ。中央の建物は天井にスイス国旗と州の紋章が描かれたガラスのドームがある。ドームすぐ下の半円形のステンドグラスに描かれているのは、さまざまな州の生産物だ。議事堂前の広場ブンデスプラッツでは毎週マーケットが開催され、夏季はスイスの州と同じ数の26本の噴水が吹き上がる。
町の中心部に建つ東西両面に時計盤がある塔。12~13世紀に建てられ、当時は市の西の端にあり、門として使われていた。東側のメインの時計盤の下には16世紀から動く仕掛け時計と天文時計がある。仕掛け時計は毎時4分前から動き始める。派手な動きのある仕掛けではないが、ちょうどいい時間に近くにいたら訪れてみよう。塔の中に入ることができるガイドツアーが催行されている。所要1時間のツアーは7~9月は毎日15:15から、10月は月・金・土が13:15から、火~木・日は15:15からスタートする。所要3時間のツアーも13:00または11:00スタートで催行されている。機械室を見学したあとは階段で展望ポイントまで上り眺望を楽しむこともできる。
広さ約5000平方メートルの公園。クマはベルンのシンボルで、ベルン市を作ったツェーリンゲン公が熊を捕らえたことに由来する。以前は円形の狭いスペースで熊が飼われていたが、自然に近い形で暮らすことができるよう、大規模な拡張工事が行われた。川沿いの斜面も熊たちが自由に移動できるように整備され、2009年10月22日にオープンした。今は広い敷地内で熊たちが木登りや水浴、昼寝を楽しむ姿を見ることができる。現在ここで飼われている熊は3頭。ビョーク(母)、フィン(父)、ウルシーナ(娘)の家族で、もう1頭いたウルシーナの姉妹ベルナは現在ブルガリアの動物園にいる。11月から3月中旬までは冬眠の季節なので、この期間は熊たちの姿を見ることはできない。
旧市街西部の高台に広がる公園。広さ2万3000平方メートルで8000種の植物が植えられている。バラは220種約7500本で、4月には日本から贈られた110本の桜(ソメイヨシノ)も咲く。1913年オープンと100年以上の歴史があり、1956年から1962年にツツジや西洋ツツジ、アイリスなども植えられ、春から秋までさまざまな花々の姿を見ることができる。バラ公園からはベルン旧市街と山々を一望でき、眺望も楽しむことができる。旧市街からは急な坂を上る必要があるが、公園の北東側にベルン駅前を経由する10番のバスが到着するので、まずはバスでバラ公園まで直行し、坂を下って旧市街の散策に移るのもいい。旧市街の写真をきれいに撮るなら午前中の順光の時間帯がおすすめだ。
1879年ベルン近郊生まれの画家パウル・クレーの作品を集めた美術館。ここには全作品の4割にあたる4000点以上のコレクションがある。常設展ではクレーの作品を年代順に見ることができ、約70点の作品とともにさまざまな資料も展示されている。クレーが絵画の勉強を始めたのは9歳の時のこと。やがてワシリー・カンディンスキーをはじめとする芸術家と親交を深め、1925年にはピカソやミロたちとともに、パリで最初のシュルレアリスムのグループ展にも参加したが、特定のグループに所属することはなかった。地中に埋もれたような波うつ建物はイタリア人建築家のレンゾ・ピアノによる設計で、ライブラリーや文化センター、コンサートホールも併設する複合施設だ。
旧市街の南側のキルヒェンフェルト橋を渡った先にある博物館。建物は1892~1894年に建物され、56万7000点のコレクションを有する。博物館の創設は1889年で歴史と考古学、民俗学、貨幣のコレクションを行ってきた。ベルンの歴史だけでなく、エジプトやインド、東洋の品々も展示している。ベルン歴史博物館には、1903~1905年の3年間ベルンの特許庁に勤め、『特殊相対性理論』の論文を発表したアルベルト・アインシュタインの業績を伝える博物館「アインシュタイン博物館」も併設されている。旧市街ではアインシュタインの家が博物館として公開されているが、こちらでは研究内容やその生涯をより詳しく、ビデオやオーディオガイド(日本語あり)も使って展示している。
ベルンは13世紀には給水設備があり、市内各所にあった泉は生活用水の供給の場として使われていた。現在も旧市街には100を越える泉があり、そのうち11の泉には彩色を施した彫刻が飾られている。今も飲用可能な水を供給するこれらの泉は16世紀に造られたもので、11の泉のうちの8つは彫刻家ハンス・ギエンHans Giengの作品だ。「パイプ吹きの泉」「アンナ・ザイラーの泉」「ツェーリンガーの泉」「シムソンの泉」などは、駅前から続くメインストリートのシュピタール通り、マルクト通り、クラム通りにあるので、探すことなく目にすることができる。泉を巡って市内を歩けば自然にさまざまな見どころにたどり着くので、11の泉をたどって町歩きを楽しむのもいいだろう。
スイスは、壮大な山岳風景と多彩な文化が魅力の国だ。今回紹介する57の観光スポットは、誰もが一度は訪れてみたくなる場所ばかり。アルプス山脈、歴史ある街並み、澄んだ湖など、スイスには自然と人々が織りなす特別な体験が詰まっている。この記事を参考にして、スイスの美しい風景や文化に浸りながら、心に残る旅の思い出を作ってほしい。