07 地球の歩き方 aruco 香港 2025~2026
2024.11.26
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香港でメガヒットを記録し、第97回アカデミー賞® 国際長編映画賞香港代表作品に選出、東京国際映画祭で上映されたことでも話題の映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』が、ついに2025年1月17日に全国公開されます。主演のルイス・クーを筆頭に、香港映画界のレジェンド、サモ・ハン、アーロン・クォック、リッチー・レンといった豪華俳優陣が集結するうえ、舞台は“東洋の魔窟”と恐れられた九龍城砦だというから期待せずにはいられません! 幼少期に九龍城砦に住んでいたというプロデューサーのジョン・チョン氏により、リアルに再現されたセットも見どころのひとつ。ジョン氏のインタビューとともに映画の魅力に迫ります。
舞台は、1980年代の香港。密入国した若者、チャン・ロッグワン(陳洛軍/演:レイモンド・ラム)は、裏社会のルールを拒み、己の道を突き進んだことで、組織に目を付けられる追われる身となります。追い詰められたチャンが命がけで逃げ込んだ先は、かつて無数の黒社会が野望を燃やし、覇権を争っていた、アジア屈指の巨大なスラム街・九龍城砦でした。彼はここで運命の仲間となるソンヤッ(信一/演:テレンス・ラウ)とサップイー(十二少/演:トニー・ウー)、そして彼らの師であり九龍城砦の伝説的リーダーであるロンギュンフォン(龍捲風/演:ルイス・クー)と出会い、徐々に絆を深めていきます。やがて、抗争が激化し、チャンたちはそれぞれの信念を胸に、命を賭けた戦いに挑むことになるのでした。
物語の舞台となった九龍城砦は、この映画のもうひとりの主役と言っても過言ではないくらい圧倒的な存在を放っています。現在では取り壊され、跡地は九龍寨城公園 (Kowloon Walled City Park) となっているので、もうその姿を見ることはできませんが、映画で映し出される九龍城砦は当時を知る人たちからも本物だと思うほどの再現度が高いと評判です。それだけ精巧につくられたのは、美術スタッフの力はもちろん、幼少期を九龍城砦で過ごしたというプロデューサーの体験があったからこそ。「3歳の時に家族と九龍城砦に引っ越し、100平方フィートに満たない狭い部屋に8人で暮らしていた」という、プロデューサーのジョン・チョン氏に当時の九龍城砦の様子と、セットへの思いを伺いました。
―――幼少期を九龍城砦で過ごされたそうですが、どのような雰囲気だったか教えてください。
3歳から7歳までこの悪の枢軸と呼ばれた九龍城砦に住んでいました。1960年代の頃です。ただ、住んでいたからといって、九龍城砦の中を全部歩き回れるわけではありませんでした。ご存じの通り犯罪もあったので、特に子供があちこち歩き回るのは難しかったですね。
―――九龍城砦は「一度入ると出られない」という噂が流れるなど、怖い印象がありましたが、住んでいて怖い思いをしたこともありましたか?
九龍城砦は、黒社会の人たちが集う悪の巣窟として有名ですよね。色々な噂もありましたし。「中国・イギリス・香港のどの政府も触れない無法地帯で、管理もされていないとにかく怖い場所」とか、「一度入ったら抜け出せない」とか。でも私は、どれもオーバーな話だなと思っていました。実際、黒社会の人たちは、城砦の住人のことを把握していましたが、彼らには「絶対に住人には手を出さない」というルールがあったと記憶しています。よく色々な映画で九龍城砦が描かれる際に、住人はみんな恐ろしい人たちであろうというイメージで描かれていますが、私は全くそう思いません。実際、そこに住んでいた多くは善良な人たちでしたし、住人のなかである種のルールみたいなものがあったので、噂されるほど怖い場所ではありませんでした。
―――複雑な構造もあってそういう噂を呼んだのかもしれませんね。道に迷ったら出てこられなさそうというか。実際に住んでいて迷子になることはありませんでしたか?
九龍城砦の道事情については少しお話しした方がいいかもしれません。日本人が研究して作った資料には詳細な図面があって、今でこそ全体構造がわかるようになりましたが、当時住人たちの間でそういった見取り図のようなものはありませんでした。だから、私が3歳の時、両親は自宅の場所から目的地までの道順を叩き込んでくれました。このT字路をまっすぐ行って左へ曲がって出ていくように、とか。右へ曲がるとどこに出られるのか、とか。私は、とにかくそのルート通りに行って帰ってくるようにと教えられたので、迷うことはありませんでした。
―――映画の中では九龍城砦内でのコミュニティの絆の強さが印象的ですが、実際に住人同士の心の距離は近かったのでしょうか?
近所の人たちとはとても仲がよかったです。特に大家のおばさんは、店子に対してとても親切な人でした。私たち家族が九龍城砦から外に引っ越したあとも、何十年にわたってお付き合いが続いているんです。彼女はもう亡くなってしまいましたが、今では彼女の子供たちと連絡を取り合ったりして、もう親戚のような付き合いになっていますね。本当にすごく仲がいいんです。
―――ご近所づきあいでの印象的なエピソードがあれば教えてください。
当時我が家はとても貧しくて、家賃の支払いが滞ることもあったのですが、大家のおばさんは無理に取り立てることなく待ってくれてました。とても寛容な方で、私の兄が小学校の卒業式に履いていくようなきちんとした靴を持っていなくて困っていたときには、自分の息子さんの靴を貸してくださったり、また、私の姉が、九龍城砦から通うには少し不便な場所にある学校に通うことを知ると、自分の家に姉を半年くらいタダで下宿させてくださったり……とにかくすごく親切な方で、とてもよくしてもらいました。
―――映画では「氷室(ビンサッ)」(飲み物と軽食を提供するできる喫茶店のような店)や美容室など、生活に必要なあらゆるお店があったり、「老人街」など道の名前が出てきたりしましたが、九龍城砦はひとつの街のような感じだったのでしょうか?
映画に出てくる「氷室」のようなところはあちこちありました。九龍城砦の中では、みんな自給自足をしていましたね。ただ、うちの父親は、九龍城砦の中の店には行きたがらなくて。家族で飲茶など外食をする際は、たいてい九龍城塞の外のレストランに行っていました。
―――映画では氷室で叉焼飯を食べるシーンが印象的でしたが、当時九龍城砦で評判の料理はありましたか?
九龍城砦の中には、「魚蛋(ユーダン)」という、魚肉をつみれ状に丸めた団子を作る工場があって、それが九龍城砦の名物というか、魚のつみれ団子入りスープビーフンが名物料理になっていました。ほかにはサツマイモのデザートを出すお店などもありましたね。
――――当時の様子を見てみたかったですね。
私が住んでいた60年代は、みんなとても貧しくてカメラなど持てなかったので、残念ながら当時の写真なんてものももちろんないんですよ。
―――では当時の様子はこの映画で想像するのがよさそうですね。実際に、映画での九龍城砦はどれくらい再現できていると思いますか?
この映画のセットと雰囲気は、当時の九龍城砦を95%以上再現できたと思っています。残りの5%は撮影用のカメラや照明を置く場所に費やした感じですね。
―――つまりほぼ100%再現されたようですね。映画を観てとても魅力的なセットだと感じました。
セットを手掛けた美術監督がとにかくすごくて、本当にいろんな状況を考えて工夫していたんです。セットの移動やバラし、修理もしやすいようにセットそのものをレゴのように組み立てる造りにしたりね。とても残念なことですが、香港は土地代がとても高くセットをそのまま維持できないので、撮影が終わるとどうしてもセットを撤去しなければならないんですよ。
――――九龍城砦は、日本人にとって危険でありながらもミステリアスで魅力的な場所として昔から人気がありますが、香港人にとっても年々注目度が上がっている印象です。
香港人はずっと前から、日本人が九龍城砦にとても興味を持っていることをよく知っています。資料を集めて研究したり、さらには九龍城塞を舞台にしたゲームなんかも作ったりしていますよね? 九龍城砦についての本が出版されたり、九龍城砦を舞台にした漫画が評価されたり。そういった一連の流れで、多くの香港人が九龍城砦に対して関心を持ち始めて注目度が年々高まっていているんです。その関心はこの映画の登場でピークに達したと思います。
――――九龍城砦を知っている人はもちろん、知らない世代からも注目されるのはうれしいことですね。
ご存じの通り、香港が中国に返還されたあと九龍城砦は取り壊されてしまい(正式には、香港が1997年に中国に返還されることが確定すると1987年には香港政庁が九龍城砦を取り壊す方針を発表。1993年から1994年にかけて取り壊されました)、今ではもう存在しません。そんな状況のなか、この映画を見ると皆さんは本当にびっくりするんですよ。特に当時のことを知っている年配の方はみんな、「本当にすごいね!」、「こんなところでよく映画が撮れたね!」って言ってくださるんです。映画ではセットで撮っているのですが、九龍城砦はまだ壊されていなかったのかと思われるぐらい、リアルに感じていただけたようです。また、九龍城砦を知らない若い人たちにも、こんな場所がかつて香港にはあったと知ってもらうことができました。観客の皆様からの声で、今、九龍城砦に関する関心や注目が年々高まってきているとすごく実感しています。
<プロフィール>
ジョン・チョン(莊澄):香港映画界を代表するプロデューサー、脚本家、作詞家。1959年、香港生まれ。幼少期を九龍城砦で過ごす。テレビ局、映画製作会社で経験を積み、1994年には、メディア・アジア・グループ(寰亜集団)を設立。『インファナル・アフェア』シリーズ(02-05)などのヒット作を手掛けたことでも有名
旅人にとっても怪しくも魅力的な場所として映っていた九龍城砦。80年代の『地球の歩き方 香港・マカオ』でも九龍城砦への行き方を掲載していたので、訪れたことがある人もいるかもしれませんね。しかし、ジョン氏が話すように、現在では撤去されその姿を見ることは叶いません。この映画を観て少しでも当時の面影を感じたいと思った人には、跡地にできた九龍寨城公園 (Kowloon Walled City Park)を訪れることをおすすめします。園内には九龍城砦の模型をはじめ当時の様子をうかがえる展示があり、映画で当時の九龍城砦の雰囲気をイメージしてからこの場所を訪れれば、きっと感慨もひとしおでしょう。
TEXT:清水真理子
D09 地球の歩き方 香港 マカオ 深圳 2024~2025
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