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東西の文化が調和する不思議な魅力をもつ都市、香港。
それは芸術分野においても同じで、今日では東西文化の交差地点であることを活かし、最先端アートの発信地としての役割も担っている非常にユニークな場所です。
香港×アート×旅の可能性を探るため、毎年3月下旬に数日間開催される香港の国際アートフェア、「アートバーゼル香港」と「アートセントラル」を取材してきました。
アートバーゼル香港(Art Basel Hong Kong)とは、世界有数の現代アートフェア「アートバーゼル」のアジア拠点として開かれる国際的なアートイベントのこと。世界中のギャラリー、アーティスト、コレクター、評論家、愛好家が一堂に会する現代アートの祭典です。毎年春に香港コンベンション&エキシビション・センター(香港會議展覽中心、HKCEC)で開催され、2013年の初開催以来、アジアを代表するアートフェアとして高い評価を受けています。
フェアはいくつかのセクションに分かれており、特定のテーマや地域に焦点を当てたキュレーション展示や、新進気鋭のアーティストによる作品紹介など、さまざまな体験が可能です。また、トークセッションやパフォーマンス、フィルム上映なども行われ、アートに対する理解と関心を深める機会としても楽しまれています。2025年は、42の国と地域から240のギャラリーが参加しました。
アートセントラル(Art Central)も同じく、香港の現代アートを象徴する国際的なアートフェアです。主にアジアの革新的なギャラリーや新進気鋭のアーティストを紹介する場として知られており、絵画、彫刻、映像、インスタレーションなど多様なメディアの作品が展示されます。また、著名な作家の美術館級の作品と、実験的な若手アーティストの作品が並ぶことなど、他ではできない刺激的な体験も魅力のひとつ。海風が心地よいセントラル・ハーバー・フロントのイベントスペースに特設会場を設置することから、屋外イベントのような解放感があるのも特徴です。10周年を迎えた2025年のアートセントラルは、40以上の国と地域から108のギャラリーと500人以上のアーティストが参加する、過去最大規模での開催となり、注目を集めました。
アートバーゼルとアートセントラルに共通することとしては、「膨大な数の現代アートを全身で感じられる空間」だということ。絵画、彫刻、映像など、ジャンルを問わない多様な作品が一堂に会し、その情報量に圧倒されます。しかしながら厳かで緊張感がただようわけではなく、作品を見て談笑したり、気に入った作品を写真におさめたりと、とてもリラックスした雰囲気なので安心して来場してください。
強いて言えば、アートバーゼルの方がフォーマルで、参加者も美術を生業とする人が多い印象。アートセントラルの方がカジュアルで、誰でも気軽にアートに触れられる場という印象でした。
ドレスコードは特にありませんが、どちらのフェアも会場が広いので歩きやすい靴がおすすめです。また、大きな荷物などは持ち込めないので注意してください。
アートセントラルは全日一般公開(※プレビューデーはVIPのみ)、アートバーゼルは会期後半に一般公開日がありますので、チケットがあれば、どちらのフェアも誰でも入場できます。
特にアートセントラルでは、サッカーユニフォームを着た少年たちや、制服姿の学生グループなども見かけました。子供も気軽にアートに触れられる、市民に親しまれたフェアということが分かります。
美術館のような解説はほとんどありませんし、ひとつのギャラリーでもテイストがばらばらな場合もあるので、初めて訪れた方は混乱されるかもしれません(筆者自身も、目の前の情報量の多さに最初は圧倒されました)。もちろん、心の赴くまま、好きなように回ればよいというのが大前提です。しかし今回は、アートフェア初心者やふらりと立ち寄った観光客でも満喫できるよう、アートフェアの3つの楽しみ方をご紹介します。
ウェブサイト内のMAPや、会場の入り口でもらえるパンフレットを参考に、気になるギャラリーやアーティストに目星をつけて回るのが一番効率的な回り方。特にないという人は、見たい作品の形態(絵なのか映像なのか、など)で選ぶ、もしくは、好きな国からの出展者のスペースを回る、というのも面白いかもしれません。
アートバーゼルに関しては、国際的に注目されるギャラリーを集めた「ギャラリー」、アジアのアーティストに特化した「インサイト」、新進気鋭のアーティストの新作を展示する「ディスカバリー」などいくつかのセクションに分かれているので、セクションごとに回るのもよいでしょう。もちろん、すべてのスペースを順に見て回るのもありです。
各スペースには、基本的に出展関係者が常駐していますので、あまり忙しそうでなかったら話しかけてみるのもおもしろいでしょう。作品に関する解説や裏話を教えてくれるはずです。英語に自信がないという方は、日本からの出展ブースを狙って行くのがおすすめ。
日本から参加しているブースに話を聞く最大の利点は、言語よりも、帰国後も繋がれるチャンスがあること。趣味の合うギャラリーが実は家の近所だった、気に入った芸術家の作品が多く収蔵されている美術館を教えてもらえた、デビュー仕立ての若手アーティストの個展情報をゲットできた、などなど……。今後のアートを楽しむためのきっかけがつかめるかもしれません。
しかし、言葉がなくても感動できるのがアート!もし心に留まる作品があれば、言語に自信がなくてもいいので、出展者に伝えてみてください。とても喜んでくれます。
アートフェアの楽しみ、それは気に入った作品があれば購入できること!当然、アートバーゼルとアートセントラルでも同様です。実際に取材中も「4万ドルでどうでしょう?」というような金額交渉が聞こえてきたり、スペースの隅で商談をしている人がいたり、世界中のコレクターや美術関係者の熱量を感じました。
少し無粋かもしれませんが、「この作品はいくらだろう」「自分だったらいくら払うだろう」という想像をしながら鑑賞するのも、美術館とは違った楽しみ方かもしれません。もしくは、「この絵をダイニングのあの壁に飾ったら……」など、目の前の作品を自宅に飾る想像をしてもおもしろいかもしれませんね。
これらがただの想像ではなく、その気になれば実現できるかもしれない、というのがアートフェアのミソだと思います。(ちなみに、アートバーゼルよりアートセントラルの方がお手頃価格なことが多いそうです)
会場内では、作品だけでなくオフィシャルグッズも販売しているので、記念になにかほしい!という方はぜひこちらも見てみてください。
歩き疲れたら、一息つけるスペースもあります。大きな買い物をする前に頭を冷やす場としても使えるかも!
出展者の方に、観光客やアート初心者がアートフェアに参加することについて聞いてみたところ、みなさん「大歓迎!」とのことでした。
「作品の中には、著名な美術館で見られるものもあるけれど、作品をゆっくり楽しめて、気に入ったら購入交渉もできるのはアートフェアだけの特権ですね」
「日本人現代アーティストといえば村上隆や草間彌生がやっぱり有名だけど、他にもこんなに素敵な人がいるんだよ、というのを知ってもらえる場になれば」
と、国際アートフェアならではのメリット、そしてギャラリー側の思いを教えてくれました。
毎年3月末にたった数日しか開催されないレアイベント、しかも現代アートの祭典ということで、敷居が高いように感じてしまいますが、アートとは誰にでも開かれるもの!
ニューヨークやパリの美術館にある作品や、老舗ギャラリーの秘蔵品なども一同に会するまたとない機会です。人と違った香港旅行がしたい方や、アートの刺激に触れたい方は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
取材協力:香港政府観光局
香港政府観光局ウェブサイト | PartnerNet 日本 :https://www.discoverhongkong.com/jp/index.html
TEXT&PHOTO :奥津結香