• Facebook でシェア
  • X でシェア
  • LINE でシェア

【学芸員が解説】香港の人気スポット、現代アート美術館「M+(エムプラス)」の楽しみ方

地球の歩き方編集室

地球の歩き方編集室

更新日
2025年4月28日
公開日
2025年4月30日

アジアの現代アートシーンを牽引する美術館、M+(エムプラス)。地元の人はもちろん観光客にも人気のスポットで、香港旅行の際に足を運んだという方でも多いのではないでしょうか。
実はこのM+には、展示室の解説文では書ききれないこだわりがいっぱい! 今回はあえて「作品の楽しみ方」ではなく、「M+という美術館の楽しみ方」を、M+の日本人リードキュレーター横山いくこさんのお話を軸に、美術館・博物館巡りの趣味が高じて学芸員資格を取得した筆者の視点も交えて、紹介していきます。

AD

M+(エムプラス)とは?

菊竹清訓が設計した、1970年大阪万博エキスポタワーのパネルも展示されている

M+は、2019年のオープン以来アジアの現代芸術の新たな拠点として注目されている、香港の現代ヴィジュアルカルチャー美術館。香港の文化・芸術の中心地である西九文化區に位置し、建築家ヘルツォーク&ド・ムーロンによる斬新なデザインと、建物のファサード全体に広がる巨大なLEDスクリーンは、モダンな建築物の多い香港の中でも異彩を放っています。アジアを中心とした現代美術、デザイン、映画、建築などの多様な分野を網羅するコレクションを有し、約6万点以上の作品を所蔵。またその活動は単なる美術館にとどまらず、教育プログラムや公開講座、映画上映なども行っており、地域社会との連携を深めています。
M+という名前は、「Museum and more(美術館にとどまらない)」というコンセプトに由来しているそうです。

M+(エムプラス)の注目ポイントは?

今回お話を伺ったのは、M+のリードキュレーター横山いくこさん。M+の立ち上げ期間から携わり、現在も第一線で活躍しているM+のスペシャリストです。そんな横山さんに、見どころを聞いてみました。

1. 作品のペアリング

横山さんによると「芸術は同時代の歴史で連鎖している。M+は21世紀から始まる美術館として、ジャンルづくりなどの垣根をなくして作品を相対的に見ることで、作品同士の対話を進めたい」とのこと。つまり、美術館の展示はジャンルで分けられることが多いですが、作品と観客、作品と作品同士の出会いの場をシームレスに作りたい、ということだそうです。
そのためにM+が取り組んでいるのが、作品の「ペアリング」です。

例えばこちらは中国が誇る世界的ファッションデザイナー、グオ・ペイの作品展示。きらびやかで上品なスパンコールのドレスの間に、何か置かれています。

置かれているのはドット柄のような模様がかわいらしい陶器作品。グオ・ペイ作品の展示コーナーにありますが、こちらはグオ・ペイのものではありません。でもよく見ると、スパンコールパーツの丸い輝きとこちらの陶器の柄、なんだか似ていると思いませんか?
このように、作品の見た目やストーリーにインスパイアされたものや、背景やメッセージに共鳴するものを、ジャンル問わず同じ空間に展示することを、M+では「ペアリング」と呼んでいます。異なる作品同士が共存することで生まれる新たな世界観が、より深みのあるアートの魅力を楽しませてくれます。
横山さん曰く、「美術の教科書には、西洋の有名な一部のアーティストしか乗ってないことが多い。これまでの西洋中心主義によって美術史から抜け落ちてしまった作品を掬い上げたい」という思いもあって、このような展示方法を行っているのだそうです。

2. アジアの歴史とアイデンティティ

2階のEast Galleriesというスペースでは、20世紀後半のアジアにフォーカスした展示をしています。20世紀後半は、いわゆる「戦後」の時代。日本では第二次世界大戦後をイメージする場合が多いですが、アジア全体で見ると、脱植民地や独立運動などいろいろなポストがあります。「こういった激動の時代に、建築とデザインがアジアの人々のアイデンティティやプライドを取り戻すことにどれほどの活力となっていたか、に注目して見てほしい」と横山さんは言います。

3. 生活に溶け込むアート

M+には「これってアート作品?」と首をかしげてしまいそうなものもいくつかあります。たとえば、日本のウォークマン。このウォークマンを展示している理由は、「新たな家電の登場で人々の行動が無意識的に変わり、文化の変容が生じる」ことを伝えたかったからだといいます。いま私たちが何気なく使っているものも、それまでの文化や生活スタイルを変えるほどのデザインを秘めているのかもしれない、そんな風に考えながら作品をみてみると、新たな気づきが生まれるかもしれません。

倉俣史朗デザインの寿司屋は美しいカーブに注目!

~番外編~ここもおすすめ!穴場の絶景スポット、ルーフガーデン

M+には、香港島とヴィクトリア・ハーバーを一望できる穴場スポットがあります。色鮮やかな植物が生きいきと葉を伸ばす、少しボタニカルな雰囲気のルーフガーデンです。ベンチも置かれているので、腰かけてのんびりと景色を楽しめます。
展示のこだわりとは少し逸れてしまいますが、アートを通じて「香港を知ってほしい」というM+の思いを汲むのであれば、今の香港を一望できるこちらのスポットも大切な要素かも。
ルーフガーデンに行くためには、一度グランドフロアにおりてからエレベーターで上がる必要があるので、分からなかったらスタッフさんに聞いてみましょう。

M+(エムプラス)は香港観光で欠かせないスポット

気に入った作品と写真を撮ったり、ペアリングから興味の世界を広げてみたり、背景の文化変容に思いをはせたり……。視覚文化美術館としての体験を重視しながらも、どこか博物館や歴史資料館的な側面ももちあわせるM+。映画館や図書室、レストラン&カフェも併設された、まさに「Museum and more(美術館にとどまらない)」な場所で、何度訪れても飽きることがなさそうです。
今回、M+の展示に込められた思いを知り、香港やアジアの国々がたどってきた道を振り返ることで、目の前の作品のさらに深いところ、横軸のつながりを感じられた気がします。そしてそれはきっと、香港という複雑な歴史・文化背景をもつ都市を知る上でも、重要な感覚なのではないかと思うのです。
文化の交流地点を担ってきた香港らしさを感じる美術館。初めての方はもちろん、既に訪れたことがある方もぜひもう一度、足を運んでみてください!

M+(エムプラス)の詳細情報

住所
38 Museum Drive, West Kowloon Cultural District, Kowloon
開館時間
火水木日は10:00~18:00、金土は10:00~22:00、
休館日
チケット料金
120 HK$ ※学生、子供、障がい者、60歳以上は割引料金あり。また追加チケットが必要な特別展もあり。詳細はウェブサイトをご確認ください
公式ページ
https://www.mplus.org.hk/en/

取材協力:香港政府観光局
香港政府観光局ウェブサイト | PartnerNet 日本 :https://www.discoverhongkong.com/jp/index.html
TEXT&PHOTO :奥津結香

トップへ戻る

TOP