17 地球の歩き方 島旅 沖縄本島周辺15離島 改訂版
2026.2.26
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日本各地の島の魅力を紹介するガイドブック・地球の歩き方島旅シリーズ。初めて『沖縄本島周辺15離島』を担当することになった新人編集者が、2025年9月に掲載地のひとつである離島へ取材に向かいました。
訪れたのは、沖縄本島の東およそ360km。海の真ん中にぽつんと浮かぶ大東諸島のひとつ・北大東島(きただいとうじま)。周囲を断崖絶壁に囲まれたこの島は、沖縄の離島のなかでもひときわ個性的な場所です。派手な観光スポットがあるわけでも、アクセスがよいわけでもない……それでも、なぜか人々を惹きつける不思議な魅力がある、そんな島。今回は、取材を通じて出合った島の風景やエピソードとともに、その魅力をご紹介します!
北大東島は、沖縄本島の東側約360kmに位置する沖縄最東端の島です。南大東島とともに大東諸島を構成しています。人口は約600人、面積は約12平方キロメートル。小さな島なので、車があれば1時間もかからずに一周できてしまいます。
1903年に開拓団が上陸し、燐工業やサトウキビ産業で発展してきました。那覇から遠く離れており、まさに絶海の孤島!断崖絶壁に囲まれた独特の地形と、大迫力の自然風景が観光の魅力です。
宿泊施設は島内に2ヵ所だけ。コンビニはありませんが、ローカル感あふれる商店がいくつかあり、島ならではの買い物が楽しめます。沖縄の離島のなかでもかなり個性的な存在で、島旅好きの間では「いつか行きたい島」として名前が挙がることも多い場所なんだとか。
基本のアクセスは那覇空港からの飛行機で、1日1往復のみ。所要時間は約1時間です。
1日1便、同日往復は難しいダイヤのため、訪れる際は1泊は必須となります。
今回は飛行機で訪れましたが、船で行くことも可能。ただし北大東島は島の周囲が断崖絶壁のため港に直接入れず、船からクレーンで吊り上げられて上陸するというなかなかスリリングな体験が待っています。那覇から船で移動する場合の所要時間は約15時間。時間に余裕がある方は、こちらのルートに挑戦してみるのもおもしろいかもしれません。
那覇から北大東島へは、小さな飛行機で向かいます。
キャパシティはざっと50人ほどでしょうか。フライト時間は約1時間です。
短い空の旅ですが、機内ではパッションフルーツジュースが配られ、島に着く前からしっかり南国気分が味わえます。
北大東島観光の玄関口となる「北大東空港」。建物はかなりコンパクトで、規模感としては地方の駅のよう。思わず「会社最寄り駅(五反田駅)の方が広いのでは……?」と思ってしまうほど。
そんなこぢんまりとした空港の雰囲気が、これから始まる離島旅の期待をぐっと高めてくれます。
到着ロビーには、乗客を迎えに来た家族や友人、宿泊施設の方が来ていて、島ならではのどこかあたたかい空気が漂っています。
空港2階には、島のおみやげや軽食を販売する「Ufuagari Café 空港店」もあります。
搭乗前後にちょっとひと息つける、島の数少ないカフェスポットです。
宿に荷物を預けたあとは、さっそく海へ!
沖縄といえばやはり海。なかでも北大東の海は、とにかく広く、青が深い。
これだけ広い海なら、観光船や漁船のひとつくらい見かけそうなものですが……。
目に入るのはただただ水平線だけ。
船は一艘も通っていません。ひたすらの海です。
まさに「絶海の孤島」という言葉がぴったりの風景です。
島内で唯一、波打ち際まで降りられるスポットが「沖縄海(おきなわうみ)」。
島の子供たちは、ここで海水浴をするそうです。
とはいえ、足元はゴツゴツした岩場。波しぶきがあがり、なかなかワイルドな環境。
私が訪れた時も、岩場に打ち付ける波のあまりの激しさに、遠くから眺めるのが精いっぱいでした。
島の子供たちは大きくなると、「そのへんの崖から海にダイブして遊ぶ」のだとか。
さすがは島を知り尽くした島人。観光客にはハードルの高すぎる遊びです。
海の雄大さと美しさに見とれていると、島の人が北大東島の海事情を教えてくれました。
こんなに海がきれいなら、ダイビングやサーフィンなどのマリンスポーツが盛んなのでは?と思うところ。
しかし実は、北大東島の海はなかなか手ごわいのです。というのも、
・サーフィン → 潮の流れが速くて基本できない
・ダイビング → 同じく潮の流れが早くて、一般向けではない
・釣り → 崖の上からできなくもないけれど、観光客には危険
・ビーチ → 岩だらけで砂浜がほとんどない
つまり、こんなにきれいな海なのに、観光としては遊びにくいのです。
どこもかしこも断崖絶壁。
そのため海を観光に活かしにくい、ちょっと不器用な島、北大東。
でも逆にいえば、人が無理に自然を変えず、ありのままの海と共存しているということ。
そう思うと、この景色がいっそう魅力的に感じられました。
北大東島を語るうえで外せないのが、燐(リン)鉱石貯蔵庫跡。
1903年に上陸した開拓団がこの断崖絶壁の島で燐鉱石の採掘を行い、島の発展につながりました。
その歴史を今に伝える貴重な国史跡です。
前回も取材をしたライター曰く、「前に来た時より規模が小さくなっている」とのこと。風化の影響で一部取り壊しと修復工事を行っているようです。
この場所は島の西側の海に面しており、とてもきれいな夕焼けが観れる絶景スポットでもあります。
さらに周囲に街灯がほとんどないため、夜にはすばらしい星空を観ることもできます。
とはいえ、暗くなると真っ暗に。ひとりで行くのは少し心細いかもしれません。
燐鉱石貯蔵庫跡にはいつでも自由に入れますが、正直なところ、歴史的な背景を知らないと、少し地味に感じるかもしれません。
おすすめは北大東島振興機構が実施している「ぐるっと島ガイド」に参加すること。
ガイドさんの解説を聞きながら、燐鉱石貯蔵庫跡をはじめとする島内の名所をぐるっと車で巡ることができます。観光客だけでは入りにくいスポットも案内してくれるので、北大東島の歴史や自然をより深く楽しむことができます。ウェブサイトからの事前予約が必要なので、ぜひチェックしてみてください。
カメラマンが「気になるところがある」と言い、向かったのが北大東ピラミッド。
港の建設工事などで出た鉱石を再利用して作られた、人工の観光スポット(?)です。
ピラミッドと聞くと三角形を想像しますが、実際に行ってみると、まさかの台形。ちょっと拍子抜けします。
前回取材したメンバーによると、「前の取材のときはピラミッドはひとつだったけど、今回は3つに増えている!」とのこと。どうやら少しずつ増えているようです。この調子だと、将来はピラミッド群になっているかもしれません。北大東島らしい、ちょっとゆるい新名所でした。
平成27年にできた、ヒラメの養殖場へ。島に新しい産業を生み出そうと始まった取り組みです。
北大東島は毎年のように大型の台風に見舞われ、農業や経済活動が大きなダメージを受けることも少なくありません。そんな状況から「島で安定した産業を」とスタートしたのが、このヒラメ養殖でした。
養殖場は、なんと使われなくなったプールをリノベーションして作られたもの。当初は屋内プールのみでしたが、現在は屋外施設も整備され、およそ1万匹のヒラメを育てられる規模になっています。
沖縄の海水は年間を通して水温が安定しており、冷たすぎず温かすぎない環境。そのためヒラメの成長が早く、日本本土よりも効率よく育つのだそうです。
まだ流通量が少なく、出荷先は主に沖縄本島のみ。
つまり、北大東島か沖縄本島でしか食べられない「幻のヒラメ」なのです。
この養殖場の施設長を務めるのが、仲曽根さん。
実はもともと海外で貿易の仕事をしており、養殖の知識はゼロからのスタートでした。
以前この施設で働いていた知人から話を聞き、「おもしろそうだ」と思い切って挑戦したのだとか。現在は本土の養殖業者からアドバイスをもらいながら、日々ヒラメと向き合っています。
「この島はサトウキビくらいしかないので、新しい産業ができれば、島に戻りたい若い人の選択肢が増えると思うんです。ヒラメの出荷が安定すれば、飛行機の便も増えるかもしれませんしね」
そう語る姿は、島の未来を見据えた、まさに令和の北大東島パイオニア。
仲曽根さんたちが愛情いっぱいに育てたヒラメ。
北大東島を訪れたら、ぜひ味わってみたい島グルメです。
北大東島で食べたい名物は、じゃがいもの焼酎「ぽて酎」に、じゃが麺、月桃茶といくつかありますが、今回はヒラメにフォーカス。
まず外せないのは大東寿司。北大東島と南大東島で親しまれている名物の握り寿司です。
タレにくぐらせたネタと、甘めのシャリが特徴です。
今回はせっかくなので、ヒラメの大東寿司をいただきたました。
上品なうま味が広がり、思わずもう一貫食べたくなる味です。
もう一品、ぜひ試してほしいのが、ヒラメの天ぷら。ふわふわでホロホロとほどける食感で、一般的な白身魚の天ぷらよりも口当たりがやわらかく、いくらでも食べられてしまいそう。
ヒラメのユッケも、淡泊ながら身のうま味をしっかりと味わえる品でおすすめです。
島にはいくつか飲食店がありますが、今回は「マルコ商店」を訪れました。
サトウキビ畑の中にポツンとたたずむ離島らしい雰囲気が印象的なお店で、地元の方との交流も楽しめます。マルコ商店にかぎらず、島でヒラメ料理を食べたい場合は、事前にお店に電話などで確認をしておくと安心です。
観光やグルメを楽しんだあとは、宿でゆっくり旅の疲れを癒やしましょう。
北大東島には宿泊施設がふたつあります。
ひとつはハマユウ荘うふあがり島。青少年の家や公民館のような雰囲気の建物で、敷地内に大浴場やレストラン、島のおみやげが買えるスペースもあります。
もうひとつが民宿二六荘。1982年創業の、北大東島を代表する名物宿です。
今回私は民宿二六荘に宿泊したのですが、ここで島旅の洗礼を受けることになります……。
二六荘(にろくそう)は1982年創業。著名なエッセイストや画家も訪れた、島の歴史ある宿です。
水色のかわいらしい建物は登録有形文化財に指定されており、「離島で文化財に泊まる」という貴重な経験ができます。
館内は歴史を感じる造りで、シャワーとトイレは共用。部屋も布団とテレビがある程度のシンプルな設備です。でも、それがまた離島らしくて最高!
ほかの取材メンバーがハマユウ荘に泊まるなか、筆者は「どうしても泊まりたい」と、ひとり二六荘を選びました。
床をダイレクトに感じるせんべい布団に入り、今日の島の出来事を思い出しながら目を閉じると、
コンコン、コン、と、誰かが窓をたたくような音がします。
最初は、枝かなにかが当たっているのかと思いました。でも昼間見たとき、窓の外に木はありませんでした。不思議に思っていると、しばらくして気づきました。
大きな虫が窓に体当たりしている。それも大量に。
慌てて部屋の電気を消して真っ暗にしますが、窓を閉めているのにどこからか入ってくる大きなカメムシとハエ。寝返りするたびに、真っ白なシーツの上に新しい虫が添い寝しています。
このとき私は、島の名産品が「虫よけ線香」である理由を理解しました。
窓に虫が体当たりする音を子守歌に、壁を這うヤモリが虫を食べてくれることを心の支えにしながら、なんとか眠りにつきました。
テレビとWi-Fiがあるのは救いですが、なかなかに不便。そしてなかなかにワイルド。
でも不思議と、「これぞ離島の夜だなあ」と楽しめてしまうから旅はおもしろいです。
朝になって目覚めると虫はいなくなっており、朝日が差し込む館内は趣深く、とてもきれいでした。
島旅の魅力は、島ごとにまったく異なる楽しみ方があること。
その点で言うと、北大東島は「何もしない」を楽しむ島だと感じました。
取材中、沖縄育ちの取材メンバーが、こんなことを言いました。
「僕、この島で生まれ育ったら東大受かるかもしれません」
勉強が娯楽に感じるくらい、何もない。その言葉が妙にしっくりきました。
そして、そうは言いながらも、なぜかとても嬉しそうに島の自然を眺めていた様子も、なんだかこの島らしい光景に思えました。
せっかく海がきれいなのに観光に活かしきれない不器用さ。
観光スポットも決して多くはありません。(その一方で虫は多い。)
でも、そういった 「何もない」時間が、なんだかとても心地いい。
これこそが、北大東島が旅人を惹きつけてやまない理由なのかもしれません。
さて、そんな取材を経た北大東島。
実際のガイドブックではどのように掲載されているのでしょうか?
ぜひ、好評発売中のガイドブック『島旅 沖縄本島周辺15離島 改訂版』でチェックしてみてください!
TEXT&PHOTO 奥津結香