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サローム(こんにちは)!
今までウズベキスタンでありとあらゆるサッカーの試合を観戦し、このブログの記事で紹介してきましたが(127. パリ五輪女子サッカー2次予選・本田監督率いるウズベキスタンvsなでしこジャパン@タシケント 現地観戦レポート、124. 青の都で活躍する日本人サッカー選手 ディナモ・サマルカンド所属の小池雄大選手インタビュー!など)、この度ついにワールドカップに観戦する機会に恵まれました!といってももちろんサッカーワールドカップではなく、見に行ったのはフットサルのワールドカップ。フットサルワールドカップもサッカーと同じく4年に1度開催されており、何と今年はウズベキスタンで開催されているのです。
会場となった都市はタシケント、ブハラ、アンディジャンの3都市。私の住むサマルカンドでは試合は行われていないものの、グループリーグ抽選会がレギスタン広場で行われたことで、このワールドカップの恩恵を受けられました。抽選会がホールなどではなく歴史遺産で行われるのは、サッカーワールドカップでもフットサルワールドカップでも今までなかったであろう画期的な出来事だったでしょう。
この「2024 FIFAフットサルワールドカップ ウズベキスタン大会」の開催期間は9月14日から10月6日まで、参加国は24か国。我らが日本はこれまで9大会中5大会に出場しているアジアの強豪国のはずですが、よりによって今回アジア予選で敗退。在ウズベキスタン邦人で日本応援団を結成して見に行くことを楽しみにしていたのですが…。代わりに出場したのは、タジキスタンやアフガニスタンといった意外な国々。開催国枠で出場のウズベキスタン、ヨーロッパ予選を突破したカザフスタンを合わせると「4スタン」が出場することになり、フットサルワールドカップ初の中央アジア開催を祝うかのようにスタン系の国々が意地を見せてくれました。他の地域の出場国も、サッカーでよく聞く国に混じりちらほらサッカーワールドカップではなかなかお目にかかれないような国々が並びます。
私が観戦することになったのは、勝った方がベスト4に進出するという準々決勝。会場はタシケント市内中心部、国内最大規模の屋内競技場HUMOアリーナ。ここは普段スケートリンクになっておりアイスホッケーチームのHUMOタシケントが使用し、さらに時折アイスショー(13. ウズベキスタンにザギトワ選手がやってきた!アイスショー観賞記)や柔道(73. 世界柔道選手権2022タシケント大会観戦ミニレポート)、ボクシングの大会などにも使われていますが、今回はフットサルワールドカップのメイン会場として使われています。
ウズベキスタンはアジアの中ではそこそこの実力を持ち、この大会でも上位進出が期待されていましたが、グループリーグであえなく敗退。私が観戦する試合の対戦カードはウクライナ対ベネズエラとなりました。ラウンド16で前者はオランダ、後者はスペインを破っています。アジアの国でもスタン系の国でもなく、ちょっと盛り上がりに欠けそうな試合だな…と組み合わせが決まった瞬間思いましたが、その心配は杞憂に終わりました。
2度の荷物チェックを潜り抜け(瓶やペットボトル飲料は没収)、アリーナ内に入ったのは両国の国歌斉唱が終わろうとした時。それが終わり試合が始まろうとした瞬間、会場を「ウークライーナ!」の大合唱が包みます。そう、中立国での試合とは思えないほどウクライナ人またはウクライナファンが多く、会場は完全にウクライナのホームと化していたのです。
試合が始まってもウクライナコールは鳴りやみません。スタンド中央にウクライナカラーの黄色いユニフォームを着て国旗を持ったウクライナ人の一団がおり、彼らが音頭を取っているようです。私たちの目の前にも国旗を持ったウクライナ人らしきファンが。その隣にも黄色のユニフォームを着た観客がいましたが、よく見るとこのユニフォームはブラジル代表。ウクライナを応援しにわざわざ黄色のシャツを着てきた地元の観客のようです。
恥ずかしながらプロのフットサルの試合を見るのは初めてですが、序盤から試合のテンポの速さと選手たちのテクニックに圧倒され、瞬く間にこの試合に魅入られていきました。フットサルはサッカーとは違い攻守が刻々と移り変わり、全てのミスが命取りになるのです。私は時々現地の人々とフットサルをやっていますが、そんなお遊びと比べること自体がおこがましいもののやはり我々がやっているフットサルとは全く違うスポーツだ…と思わずにはいられません。
それでもやはり選手たちのプレーを見ていると、ああまたフットサルやりたい…と体がうずいてきます。今回はタシケントに住む知人たちと見に来ましたが、隣に座った友人もしきりにフットサルやりてー!とつぶやいていました。ただ彼は前回共にフットサルをやったとき、開始5分でケガをして退場してしまったという経験があるので、この選手たちのプレーを無理して真似しないよう気を付けていただきたいところです…。
コートまでほんの数列という良い席で見られたのも幸運でした。もともとコートが狭くスタンドとの距離が近いフットサルですが、やはり手前の席ともなると迫力が段違い。選手たちの闘志が目の前に迫ってくるようでした。
今回はFIFA公式サイト(https://www.fifa.com/en/tournaments/mens/futsalworldcup/uzbekistan-2024/articles/buy-tickets-sale)から購入し、この席で料金は15万スム(2024年10月現在のレートで約1700円)。この試合でも観客の数は予想以上でしたが、当然決勝となるとチケットの値段が跳ね上がりかつ争奪戦になるようで、すでに決勝のチケットを購入したという友人によると2階席の端を買うしかなかったとのこと。
肝心の試合内容ですが、世界ランキングで見ると格上のウクライナが始終ペースを握る展開。ウクライナの選手たちは皆背が高くパワーもあり、テクニックでも翻弄。しかしベネズエラも粘り強く戦い、ウクライナがリードしてベネズエラが追いすがる…という状況が続きます。5-3でウクライナがリードし、ハーフタイムへ。
大会公式グッズが買えると聞きつけ、席を立ってショップへ。
Tシャツは大会ロゴがプリントされたシンプルなデザイン。この大会ロゴ、サッカーボールの柄がウズベク人の民族帽子ドッピのようになっており、分かる人には一目でウズベキスタンと分かる好デザインなのです。値段は1枚18万スム〜。
なんとそのドッピも、大会ロゴが描かれたものがちゃっかり売られていました。ウズベキスタンでこの期間、ここだけでしか売られていないであろうレアドッピです。こちらは5万スム。サッカーファンやサッカーグッズコレクターの物欲を刺激する運営の術中(?)にはまり、シャツもドッピも購入してしまいました。
お客の会話に耳を澄ますと、僕はボスニアから来たよ、僕はベラルーシ出身だよ…と聞こえてきました。旅行がてら試合を見に来たサッカー好きでしょうか、それとも毎回大会を見に行っているフットサルファンでしょうか。
後半もスーパープレーが続出し、スタンドが盛り上がります。観客が一番沸いたのは、ウクライナのゴールキーパーがするするドリブルで駆け上がったと思うとそのままベネズエラ守備陣を突破し、自らシュートをゴールに突き刺したとき。ゴールキーパーが流れの中からゴールを決めてしまうという、サッカーではほぼあり得ない驚愕の光景を目にしてしまいました。
この時にもなると私は完全にフットサルの虜に。ワールドカップを観戦する機会がなければ、フットサルがこんなにも面白いスポーツだと気づくことはなかったでしょう。もしタシケントに住んでいれば、準決勝も決勝も全て見に行きたかったものです。
前半は善戦していたベネズエラですが、後半は地力の差が開き始め、3点差、4点差…とどんどんウクライナに突き放されていきました。攻撃時ゴールキーパーを下げてフィールドプレーヤーを投入するパワープレーに出るも、状況は変わらず。
そして残り時間1分を切ったとき、敗北を悟ったベネズエラの選手が攻撃を止め、事実上の試合終了。レフェリーの笛が鳴る前にウクライナ陣内に歓喜の輪が出来上がり、スタンドが大歓声に包まれました。ウクライナ、見事準決勝進出です。
終わってみればスコアは9-4。決勝トーナメントではダントツ、グループリーグを含めても3番目に得点の入った試合となりました。こんなゴールラッシュの試合を良い席で見られて本当にラッキーでした。素晴らしい試合を見せてくれた両国の選手、そして最後まで応援を欠かさずアリーナを最高の雰囲気にしてくれたウクライナファンたちに感謝です。
ウクライナの選手たちがスタンドに挨拶に来ると、ウクライナファンたちがマラツィー(よくやった)のコールで出迎えます。このフレーズはウズベキスタン人たちの間でもよく使われるので、現地の観客たちもマラツィー!マラツィー!と選手たちを称えていました。
そして選手が退場しようとしたその時、一人のウクライナ人がスラーヴァ・ウクライニ!と叫び、他のウクライナ人たちがヘローヤム・スラーヴァ!と叫び返しました。一昨年始まったウクライナでの戦争でウクライナ人たちのスローガンとして広まり、悲嘆に暮れるウクライナ人たちを奮い立たせてきたこの「ウクライナに栄光あれ!英雄たちに栄光あれ!」と言う意味の言葉を試合のどこかで聞けるのではと密かに期待していましたが、最後の最後に耳にすることができたのです。
1996年以来28年ぶりとなったベスト4進出にウクライナ人ファンたちの興奮は止まらず、アリーナのロビーでは国旗を持ったファンたちが歓喜の撮影会を開いていました。ここでもやはりスラーヴァ・ウクライニ!ヘローヤム・スラーヴァ!の大絶叫。
アリーナを出たところで、私もウクライナ人ファンと記念撮影し、少しお話しすることができました。夫婦で観戦しに来たとのことで、男性はウクライナ出身で今はウズベキスタン在住、そして女性はウズベク人とのこと。現在ウクライナでは原則成人男性の出国を禁じているそうで、ウクライナ人たちがウズベキスタンまでやってくるのは難しいはず。このウクライナ大応援団は、彼のようにもともと国外にいたウクライナ人や、ウクライナ系ウズベキスタン人が中心となって結成されたのでしょうか。それだけであの数のファンを動員でき、迫力ある応援を繰り広げられたのだとしたら、本当に大したものです。
準決勝の相手は世界ランキング1位のブラジルになりましたが、ぜひともこの大会で優勝し、長引く戦争で苦境にある国民を勇気づけてほしいものです。
この大会の決勝は10月6日、会場はこのHUMOアリーナ。チケットの入手は難しいかもしれませんが、タシケントに滞在中の方は機会があればぜひ行ってみてはいかがでしょうか。対戦カードがどこになっても、手に汗握る熱戦になるはずです。
それではコルシュグンチャ・ハイル(また会う日まで)!