• Facebook でシェア
  • X でシェア
  • LINE でシェア

【スウェーデン】ヴァーサ号博物館のプロジェクト・ディレクターに訊く「ヴァーサ号の未来」と「アクセシビリティ」

Yurie Yoshimura

Yurie Yoshimura

スウェーデン特派員

更新日
2026年8月4日
公開日
2026年8月10日
Photo: Anneli Karlsson, the Vasa Museum/SMTM.

スウェーデン・ストックホルムを代表する観光スポットのひとつ、ヴァーサ号博物館。17世紀に沈没し、333年後に引き揚げられた巨大な軍艦を間近で見られる、世界でも類を見ない博物館です。今回は、ヴァーサ号の保存を未来へつなぐ「Vasa Project」や、2028年に迎える沈没から400年という節目について、プロジェクト・ディレクターにインタビューを実施しました。さらに、ベビーカーや車椅子での見学、子ども連れで楽しむポイントなど、アクセシビリティについても詳しく伺いました。

AD
©︎Photo: Anneli Karlsson, the Vasa Museum/SMTM.

筆者にとって3回目の来館となったヴァーサ号博物館。今回は、ヴァーサ号博物館のプロジェクト・ディレクターのPeter Rydebjörk(ピーター・リューデビョルク)氏にインタビューを行いました。

―スウェーデンの人々にとって、ヴァーサ号博物館はどのような存在なのでしょうか?

実は、来館者の85~90%はスウェーデン国外から訪れる観光客です。その意味では、ヴァーサ号博物館は主に観光客が訪れる場所ともいえます。それでも、スウェーデン人の多くは一度はヴァーサ号博物館を訪れたことがあると思います。この博物館がスウェーデン人にとっても、海外から訪れる人にとっても特別な存在である理由の一つは、展示されているヴァーサ号の98%がオリジナルであることです。

歴史博物館を訪れると、展示されているものは比較的小さかったり、壊れていたり、断片的な状態で残っていたりすることが多いですよね。しかし、ここにあるのは非常に大きな船で、しかもほぼ完全な状態で残っています。これは、ヴァーサ号博物館の最大の特徴の一つです。

もう一つ特別なのは、博物館に入ると、すぐにヴァーサ号そのものを見ることができることです。

多くの博物館では、最も重要な展示物を最後に配置し、そこにたどり着くまでに期待感を高めるような展示構成にしています。しかし、ヴァーサ号博物館はその逆です。入館するとすぐに船を見ることができます。これもヴァーサ号博物館ならではの特徴です。

もし来館者全員に決められた順路を歩いてもらう必要があれば、非常に混雑してしまいます。しかし、この博物館はオープンな設計になっているため、来館者はそれぞれ好きな方法で見学できます。20分ほどで見終える人もいれば、5時間かけて過ごす人もいます。自分の好きなペースで、自分の好きな方法で見学できるのです。

また、ここで伝えているストーリーが大きく3つに整理されていることも特徴です。

一つ目は17世紀。ヴァーサ号が建造され、そして沈没した時代について。二つ目は1960年代。ヴァーサ号が海底から引き揚げられた時代について。そして三つ目は現代。ヴァーサ号をこれから未来へ向けて、どのように保存していくのかというテーマです。

多くの歴史博物館では、膨大なコレクション全体を簡単に説明することは難しいものです。しかし、ここでは中心となるのが一隻の船なので、ストーリーをわかりやすく伝えることができます。これもヴァーサ号博物館の大きな特徴だと思います。

©︎Photo: Anneli Karlsson, Vasa Museum/SMMTF.

―今後、数十年先を見据えて、ヴァーサ号博物館ではどのような取り組みを行っていくのでしょうか?

1990年に現在の博物館がオープンした当時は、ある意味では、博物館とヴァーサ号に関する仕事はこれで完了したと考えられていたのかもしれません。しかし、その後、二つの大きな問題があることがわかりました。一つは、船体に使われている木材が現在も劣化し続けていることです。年を追うごとに、木材は少しずつ脆くなっています。もう一つは、船体がゆっくりと下方向へ動いていることです。

木材の劣化については、博物館内の環境を適切に管理することで、できる限り進行を抑えています。館内は常に18度、湿度50%に保たれています。来館者が非常に多いことを考えると、木材の保存にとって理想的な環境とはいえませんが、可能な限り良い状態を維持しています。

一方、船体の動きを抑えるために、新たに「Vasa Project」という保存プロジェクトを進めています。このプロジェクトでは、主に3つのことに取り組んでいます。

一つ目は、船体の重量を支えるための外部スチール構造を設置すること。二つ目は、船のデッキの重量を支えるための内部スチール構造を設置すること。そして三つ目は、船体を正しい位置に戻すことです。

現在、ヴァーサ号は少し左舷側に傾いています。目で見てわかるほどではありませんが、2~3度ほど傾いています。これは船体の長期的な保存にとって良い状態ではありません。まず、外部スチール構造を設置する第一段階は、2027年に完了する予定です。

2028年は、ヴァーサ号が沈没してから400年という節目にあたります。そのため、その時には博物館とヴァーサ号を最も良い状態にしておきたいと考えています。

その後、船体を正しい位置に戻す作業や、内部のスチール構造についても引き続き取り組んでいきます。これらについては、いつすべての作業が完了するかはまだ決まっていません。今後も長期的に取り組んでいくことになります。

2028年については、沈没事故で多くの人が亡くなっているため、私たちは単純に「記念日」や「アニバーサリー」と呼ぶのではなく、亡くなった人々を追悼し、記憶するための機会と考えています。

―館内は車椅子やベビーカーでも利用できますか?

はい。基本的に、車椅子やベビーカーでも館内を利用できます。来館者が非常に多いので、細かいルールをたくさん設けることはできません。基本的には、行きたいところへ自由に行っていただけます。

ただし、ベビーカーで訪れる場合は、エレベーターを利用する際に待ち時間が発生する可能性があることを知っておいてください。この博物館は、基本的に階段を歩いて移動することを想定した設計になっていますが、すべての階にエレベーターがあります。ただし、混雑時には待つことがあります。

―館内は少し複雑な構造にも見えます

そうですね。初めて来た方には少しわかりにくいかもしれません。

入館すると、2階下に行くこともできますし、3階上に行くこともできます。そのため、最初は少し迷うかもしれません。しかし、館内のほとんどの場所から、ヴァーサ号を見ることができます。どの階にいても、さまざまな角度から船を見ることができるのです。どうやって別の階へ行けばいいのかわからないこともあるかもしれませんが、館内を歩いているうちに自然と自分の行きたい場所が見つかります。

これは建築家が意図した設計でもあります。決められた一つの順路を歩く必要はなく、自分の好きな方法で博物館を探索できるようになっています。そして、非常に重要なのは、入館した瞬間にヴァーサ号が目の前に現れることです。

来館者の中には、誰かから「ヴァーサ号博物館に行くといい」と聞いて来るものの、実際に何が展示されているのかをよく理解していない人もいます。そのため、絵画などを展示している普通の美術館のような場所を想像して来館し、目の前に巨大な船が現れて驚く人もいます。しかし、入った瞬間に実物を見ることができる。それこそが、この博物館の大きな魅力です。

例えば、ローマなどの歴史的な場所を訪れると、壊れた遺跡や一部だけが残っていて、残りの姿を想像しなければならないことがあります。ヴァーサ号博物館では、そうではありません。実際に目の前にあるものを見ることができます。非常にリアルで、体験型の見学ができる場所なのです。

©︎Photo: Anneli Karlsson, the Vasa Museum/SMTM.

―ヴァーサ号がこれほど良い状態で残っているのはなぜですか?

ヴァーサ号が現在まで良好な状態で残っている理由の一つは、沈没した場所であるバルト海の特殊な環境にあることです。バルト海は塩分濃度が低く、一般的な海とは異なる環境を持っています。

通常、木造船が海底に沈むと、木材を食べるフナクイムシなどによって船体が徐々に失われてしまいます。しかし、バルト海は塩分濃度が低いため、フナクイムシが生息しにくい環境です。

そのため、ヴァーサ号は沈没後も船体が大きく損なわれることなく、333年もの間、海底に残ることができました。この特殊な環境が、ヴァーサ号を現代まで保存する大きな要因となったのです。ヴァーサ号は、1961年に海底から引き揚げられました。

現在展示されている船体の約98%はオリジナルの木材でできています。17世紀に建造された巨大な木造船が、これほど良好な状態で現代まで残っていることは、世界的に見ても非常に珍しいことです。

―ヴァーサ号博物館を訪れる際に、知っておくとよいことはありますか?

ヴァーサ号博物館は、歴史に詳しい人だけが楽しめる場所ではありません。

巨大な船を実際に目の前で見るという視覚的なインパクトがあるため、子どもから大人まで、それぞれの楽しみ方ができます。

また、17世紀のスウェーデンやヨーロッパの歴史について学べるだけでなく、当時の人々の暮らしや、船がなぜ建造され、なぜ沈没したのかというストーリーを知ることもできます。

日本から訪れる観光客にとっては、単に「古い船を見る」だけではなく、17世紀のヨーロッパを知るきっかけにもなるでしょう。館内にはオーディオガイドや各種の案内があり、日本語のコンテンツも用意されています。

一人でじっくり見学するのはもちろん、家族や子どもと一緒に訪れても楽しめる博物館です。

特にストックホルムを初めて訪れる方には、ユールゴーデン島のほかの博物館や自然散策と組み合わせて訪れることをおすすめします。

©︎Photo: Denise Lissert. ヴァーサ号博物館 プロジェクト・ディレクター Peter Rydebjörk(ピーター・リューデビョルク)氏

―最後に日本から訪れる観光客にメッセージをお願いします

ヴァーサ号博物館は、一人で訪れても、グループで訪れても楽しむことができます。館内にはオーディオガイドがあり、英語とスウェーデン語のガイドツアーもあります。日本語のコンテンツも用意されています。私たちは、できるだけ多くの人にヴァーサ号について理解してもらえるように努めています。

異なる文化圏から来た方にとって、17世紀のヨーロッパについて理解するのは少し難しい場合もあります。そのため、この博物館ではヴァーサ号そのものだけでなく、17世紀のヨーロッパがどのような時代だったのかについても紹介しています。

例えば、プロテスタントとカトリックの間で起きた三十年戦争についても説明しています。スウェーデンはプロテスタント側としてこの戦争に参加しました。キリスト教の中でも、ヨーロッパで戦争が行われていたという歴史を知らない人もいるからです。ヴァーサ号そのものは、非常に限定された時代、つまり1628年8月10日に沈没した一日の出来事に関するものです。その瞬間が、まるで時間を止めたかのように保存されています。

例えば、船から発見された人々の骨格を見ることで、その日にこの船に乗っていた人々について知ることもできます。しかし、この博物館では、ヴァーサ号が沈没した一日だけではなく、17世紀という時代をより広い視点から紹介しています。

時々、来館者から「これはヴァイキング船ですか?」と聞かれることがあります。その場合は、「いいえ、ヴァイキング時代はこれより約600年も前です」と説明します。また、ヴァーサ号をレプリカや複製品だと思っている人もいます。しかし、実際には98%がオリジナルのものです。

これは非常に驚くべきことで、ヴァーサ号博物館の最も印象的な点の一つだと思います。また、船にある「砲門」についても、誤解されることがあります。船にオールを取り付けて漕いでいたと思う人もいますが、あれは砲門です。

トップへ戻る

TOP