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社会や環境に適応しながら何世代にもわたり発達し、形づくられてきた農業上の土地利用。伝統的な農業とそれに関わって育まれた文化、景観、生物多様性に富んだ、世界的に重要な地域を次世代へ継承することを目的に、国連食糧農業機関(FAO)が2002年から開始したプログラムが「世界農業遺産(GIAHS: Globally Important Agricultural Heritage Systems、ジアス」です。ジアスに登録されている「トキと共生する佐渡の里山」を紹介します。新潟沖約32kmの日本海に浮かぶ佐渡は、世界文化遺産登録を目指す佐渡金銀山の影響を大きく受け発展しました。農業によってもたらされる多くの恵み、今も暮らしの中に息づく多様な伝統芸能・文化、日本の農山漁村の原風景ともいわれる美しい景観などが受け継がれるとともに、農業の近代化が進む佐渡においても生物多様性を重視した農業を進めていることが評価され日本で初めて世界農業遺産に認定されました。
佐渡市と新潟県のシンボルに指定されているトキは、淡い桃色の羽毛に包まれそのしなやかな姿で、学名のニッポニア・ニッポンにふさわしく、日本を代表する鳥として愛される存在。
現在、生きものを育む農法を進める佐渡の豊かな里山に多数のトキがが生息していますが、大型のケージ内に自然環境が再現され、ゆったりと羽ばたくなど、リラックスした表情のトキが見られます。
また、健康状態が良ければヒナも公開され、ケージや窓ガラスを通して間近にトキを観察できます。両津港より車で約20分でアクセスできます。
■トキの森公園
・住所:〒952-0101 新潟県佐渡市新穂長畝383番2
・URL: http://tokinotayori.com/tokipark/
300年以上の歴史を美しい棚田が残る佐渡。人口140人余りの小さな岩首集落では、世界農業遺産認定をきっかけに大切に守り続けてきた棚田を案内するツアーを開催しています。
集落手前から標高350mまで連なる山間の棚田は、天空へ続くような形状から昇竜棚田と呼ばれ、地元住民の案内で棚田を歩けば、海からの潮風が稲穂を揺らし、サラサラという心地よい音が全身を包みます。両津港より車で約50分でアクセスできます。
■岩首昇竜棚田
・住所:〒952-0857 新潟県佐渡市岩首573(岩首談義所)
佐渡金山は、江戸時代から平成まで約400年にわたって採掘が続けられました。斧を入れたように真二つに裂けた姿が特徴的な「道遊の割戸」。周囲には江戸時代の坑内労働を再現した宗太夫坑や明治時代の工場跡などがあります。これらを回る坑道周遊コースの他に、ガイド付きで北沢浮遊選鉱場など明治時代の近代鉱業を知る産業遺産コースがあります。普段車では通らない、ただ歩いただけではわからない歴史や文化など知ることができます。両津港より車で約60分でアクセスできます。
■遺跡佐渡金山
・住所:〒952-1501 新潟県佐渡市下相川1305
「ジオパーク」とは、地球をそのまま展示物に見立てた大地のテーマパークのこと。歴史を伝える地形やそこで育まれた動植物、文化など広い視野で学ぶ新しい観光スタイルとして注目を浴びています。
佐渡は見事な地形景観と豊かな自然、そして独自の歴史や文化が評価され2013年に日本ジオパークに認定されました。なかでも小木半島は、海底火山の噴火でできた貴重な地形が多く見られ、現地を歩きながら島や日本海の成り立ちを楽しく学び、ジオパークの魅力に触れることができます。小木港より車で約10分でアクセスできます。
■佐渡国小木民族博物館
・住所:〒952-0612 新潟県佐渡市宿根木270-2
「美酒の島」と呼ばれる佐渡。日本酒の醸造に欠かせないのが米と水です。日本海に囲まれ、トキを育む豊かな里山の中で、米、水、人にこだわり醸造される佐渡の日本酒。対馬海流からの潮風を浴び、良質の酒米ができ、大佐渡山脈を覆う雪は地中深く染み込み、大自然のフィルターを通して湧き出ます。
佐渡には、世界的に評価された銘酒から明治初期から続く手仕込み酒蔵、地元でしか手に入らない地酒などがあります。
「佐渡の能」は、能が武士階級のものと言われた江戸時代であっても農民や商人などの庶民が支えてきました。村々にある能舞台の多さからも能が地域に根付いてきたことがうかがえます。
現存する36棟の能舞台のうち8棟が県指定有形民俗文化財に、10棟が市指定有形文化財に指定されています。演能があるのは4~10月で、特に6月は能月間として多くの能が開催されます。また、薪能と呼ばれる夜の演能もあり、暗闇に包まれた能舞台で演じられる幽玄の世界にどっぷりと浸かれます。
佐渡金山の発展により、豊かな里山環境が生まれ引き継がれ、トキが日本で最後まで生息した佐渡島においても、経済性を重視した土地改良や農薬、化学肥料の使用等、農業の近代化が進み、次第にトキの生息環境も失われ、絶滅しました。
しかしながら、トキの野生復帰に向けた活動が盛んになり、2008年には、トキの餌場となる田んぼの生物多様性を育む農法を全島規模で推進するため、朱鷺と暮らす郷認証制度が発足。この1年をとおして田んぼに棲む小さな生きものの命を育む特別な農法「生きものを育む農法」で栽培されるとともに、品質・食味の厳しい基準をクリアしたお米のみが「朱鷺と暮らす郷」として首都圏を中心に販売されています。
■(問い合わせ)新潟県佐渡市役所 農林水産課 生物多様性推進室
・住所:〒952-1292 新潟県佐渡市千種232
・URL: https://www.city.sado.niigata.jp/
※本記事は、「日本の歩き方」内、「おでかけガイド」に2015年12月20日に掲載されたものです。