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カンヌで『ドライブ・マイ・カー』が脚本賞始め4冠受賞、濱口竜介監督に映画祭と作品の感想を聞く

守隨 亨延

守隨 亨延

フランス特派員

更新日
2021年7月21日
公開日
2021年7月21日
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公式記者会見での濱口竜介監督(中央右)ら

第74回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に、日本映画として唯一出品されていた『ドライブ・マイ・カー』。映画祭最終日に行われた表彰式において、同作の濱口竜介監督と共同脚本の大江崇允さんに脚本賞が贈られました。また同作は、独立賞である国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞にも併せて選出。英スクリーン・インターナショナル誌が掲載する各国の批評家たちによる星取表では、4点満点中3.5という『パラサイト 半地下の家族』 以来のハイスコアで、最後まで同誌の首位を走りました。カンヌでの様子と、映画祭期間中における濱口監督との質疑応答をまとめました。

観客からの拍手に濱口監督は目を潤ませる

左から三浦透子さん、濱口竜介監督、霧島れいかさん、ソニア・ユアンさん

2021年7月6日〜17日の映画祭期間中において、『ドライブ・マイ・カー』は6日目の7月11日に公式上映が行われました。日本から参加したのは濱口竜介監督、三浦透子さん、霧島れいかさん、ソニア・ユアンさんの4人。西島秀俊さんら他の出演者は、新型コロナの影響があるなか、スケジュールの都合でカンヌ入りできませんでした。

上映終了後は、スタンディングオベーションに。マイクを渡された濱口監督は「こんなに大きな拍手を頂けて感動しています。初めて劇場で皆さんと見て、3時間近く一緒に旅をしているような気持ちで見ました。幸せな時間でした。この感激を日本に帰ったら、一緒に仕事させていただいた主演の西島さんや岡田さんたちキャスト、そして支えてもらったスタッフの皆さんと分かち合いたいと思います」とスピーチして、目を潤ませました。

公式上映前のレッドカーペットでは、タキシード姿の濱口竜介監督を中央に、三浦透子さんがアクネ・ストゥディオズのパンツスーツ、霧島れいかさんは花柄があしらわれたヴァレンティノのロングドレス、ソニア・ユアンさんはアートクラブの深いスリットの入ったブラックとホワイトのドレスで登場しました。

カンヌの熱狂に触れることはうれしいけれど怖い

公式上映後に日本メディアの質問に答える濱口監督ら

──公式上映を終えての感想は?

拍手の熱量を感じました。本当に良いと思って拍手をしてくださっているというのを、少なくとも自分の周りからは感じたので、胸を打たれました。劇場で見ることで、観客と一緒に乗り物に乗っているようでした、観客と一緒に見ることによって、新しい映画の形というのが発見できて、自分でもそれはすごく素敵な体験でした(濱口監督、以下同)。

──コロナ禍でのカンヌはどうですか?

来る前には本当に不安でした。出発2、3日前にPCR検査を受けて、もしそれが陽性だったら行けないので、ドキドキしました。フランス入国して初めて、ようやく来られたという気持ちになれました。

レッドカーペットを登り手を振る濱口監督ら

──3年前は『寝ても覚めても』での初めてのカンヌでしたが、3年経って感じた違いは?

1回目は本当に右も左もわからず、連れて行かれるままにという感じでしたが、今回は余裕を持って連れて行かれたというか。連れて行かれるのは変わらないんですけれど、多少余裕はありました。しかし(公式上映で)劇場に入ったそばからの拍手は、前はなかったような気もするので、うれしい戸惑いでした。

──映画祭自体に対しての印象は?

すごく特殊な映画祭という印象があります。特別な映画祭と言ってもいいかもしれません。熱狂の度合いが全然違うというのを肌身に感じます。すごく残酷なほどそれがあり、その熱狂に触れることはうれしいですけれど、怖いことでもある。そう思います。

「あなたの映画と通じる部分ある」と言われ読んだ原作

公式記者会見での濱口監督

──製作の経緯を教えてください。

村上春樹さんの原作を読んだのは、2013年。知人から「あなたの映画と通じる部分があるのでは」と言われて読みました。

──今回の映画化に際して思ったことは?

カンヌに来て質問としていただくのは、「なぜ村上春樹さんの小説なのか」ということ。そもそも村上春樹さんに関心があって、この映画に注目していただけているというのは感じます。短編の内容だけでは長編映画にはならないため、何かしら膨らませる必要があると思っていました。好き勝手にやっていいものでもなく、できる限り村上さんの精神に則ってやれるように考えました。ただ、それは書かれていることを映像で再現するということとは違うと思っていたので、何度も読んで自分にとってこれが映画になるという要素を組み合わせました。

西島秀俊さん演じる家福悠介(左)と三浦透子さん演じる渡利みさき(右)

──どういうところで映画になると思いましたか?

村上春樹さんの許諾を取る際の手紙で、「村上さんにとっての文章というのは、私にとっての役者さんなんです」ということは書きました。役者さんの感情というのが、観客が感じる感情でもあるので、役者さんが何か感情を持ってその場にいられるように、自分はできるだけ準備をします。安心して演じられるような環境をできるだけ作ることで、観客に対して直接的に伝わるものがあるんじゃないかと感じています。

台湾のソニア・ユン(左)さんと韓国のパク・ユリム(右)さん

──キャスティングは、どのように決定しましたか?

観ていただいた皆さんが同意してくれると信じているのですが、本当に素晴らしく上手くいっていると思います。インターナショナルなキャスティングをするというのは、実際経験がなかったので手探りでした。韓国に関しては、もともとそこで撮影する予定もあったので、ロケハンもかねてオーディションをしました。台湾とフィリピンのキャストは、オンラインでのオーディションになりました。オンラインでわかるものか不安はありましたが、ちゃんと顔も声も聴けて、その人の人間性も感じることができたので、結果として上手くいったと今も思えています。

乗り物に乗るように映画を見てほしい

──今作も長く3時間ありますが。

映画の長さに関しては、なぜそうなってしまうのかというのは、自分でもけっこう思っているところです。90分とか120分の映画は本当に見やすいですし、そういう尺ものはとても好きです。ただ、自分が作るとなった時に必ずしもそこに収まらないといか。長さが乱高下するのは、キャラクターが持っているものや問題みたいなものが、どう解決するのか、もしくは解決しないでもどう抱えていくのか、その抱えていくことがどう観客に納得されるのかということを突き詰めていくと、単純に時間に換算されないということがあります。キャラクターがたどり着く場所をあらかじめ決められないというところがあって、時間が長くなってしまいます。

──脚本賞を受賞しての感想は?

最初にお礼を申し上げなくてはならないのは、この物語を我々に与えてくれた原作者の村上春樹さんです。共同脚本家の大江崇允さんという脚本家がいらっしゃいます。大江さんと僕の関係は奇妙なもので、大江さんは僕にひたすら書かせるタイプの脚本家です。大江さんはいつも読みながら「本当に素晴らしい。このままやりなさい」と彼がいつも言ってくれました。

この作品は、3時間近くあり壮大な物語。単純にわかりやすさだけを考えたらそうはいかなかった。彼がずっと励まし続けてくれたから、この物語を最後まで映画として書ききることができたと思っています。脚本賞をいただいたが、脚本は映画には映っていない。それを素晴らしいと思っていただけたのは、表現する役者たちが本当に素晴らしかったと。役者たちこそが物語だという風に思っています。

脚本賞を授賞式後の濱口監督

──映画を通じてどんなことを伝えたいですか。

こういうことを伝えたいというのは、特にないというのが正直なところです。体験をしてほしい、とは思っています。そこそこ長い映画ですけれど、その時間をずっと楽しめるように作っていますので、乗り物に乗るように映画を見ていただけたらいいかな。その時に感じていることがすべて正しいことだと思うので、乗り物に乗るような感じで見にきていただけたらと思います。

■ドライブ・マイ・カー
・公開: 2021年8月20日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
・原作: 村上春樹『ドライブ・マイ・カー』
・監督: 濱口竜介
・脚本: 濱口竜介 大江崇允
・製作: 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
・配給: ビターズ・エンド
・URL: https://dmc.bitters.co.jp/
・出演: 西島秀俊
三浦透子 霧島れいか
パク・ユリム ジン・デヨン ソニア・ユアン ペリー・ディゾン アン・フィテ 安部聡子
岡田将生

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※当記事は、2021年7月20日現在のものです

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