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中国で2023年7月1日に施行された改正反スパイ法はスパイ行為の定義が大幅に拡大されたものです。2014年に施行された反スパイ法におけるスパイ行為の定義は「国家機密の提供」でしたが、今回はそれに加えて「国家の安全と利益に関わる資料やデータ、文書や物品の提供や窃取」が定義に盛り込まれ、当局権限も大幅に強化されます。中国情報機関のトップも改正法によって国内でのスパイ活動を強化することに意気込みを示しています。
2014年のスパイ法施行以降、これまでに少なくとも17人の日本人が拘束されました。今年春には大手製薬会社アステラス製薬に務める50代の男性社員が帰国直前に当局によって拘束されましたが、拘束理由など具体的なことは全く説明されていません。また、同様に2019年9月には中国近代史を専門とする研究者が日本へ帰る直前に北京の空港で拘束されましたが(のちに釈放)、こういった帰国直前の拘束では中国で入手した情報が国外に渡るのを抑えるためとも指摘されています。そして、邦人の拘束では判決を下され、刑期を終えて日本へ帰国するケースも多く、それを経験した人の話で共通するのは、拘束時も具体的な説明はなく、監視の目が極めて強い環境での生活を余儀なくされるという点です。
今後、日本人の中国渡航は大丈夫なのでしょうか。まだ施行されてから1週間程度しか経ちませんが、改正反スパイ法によって邦人拘束に拍車が掛かっている状況ではありません。一部には劇的に増加する恐れも専門家の間で指摘されてはいましたが、中国政府としても一気に国内での監視や拘束を強化すれば、国民からの不満が強まるだけでなく、外資の脱中国に拍車が掛かる恐れもあるので、とりあえずは法に乗っ取って取り締まりを強化するとみられます。スパイ行為の定義が大幅に拡大したことから、それによって中長期的には邦人の拘束案件が以前より増える可能性があるでしょう。
今日、中国に進出する日本企業の間では、現在中国に駐在する社員、もしくはこれから中国に渡航する予定の社員らに対し、改正反スパイ法への対策が行われているようです。具体的には、軍や警察の機関では写メールを撮らない、そもそも近づかない、現地では中国人の人々とたとえ親しくなっても習政権や台湾、香港、米中対立などの政治的話題はしない、また改正反スパイ法に照らし、中国共産党の歴史や戦争の歴史などを展示している博物館や資料館などへの出入りを避けるなどを社員に注意喚起し、現地での行動では十分注意するよう呼び掛けているようです。そして、企業の中には中国に駐在する邦人の数を減らしたり、できるだけ出張させないよう取り組みを強化する企業もあるようです。これは学生を留学させる大学や語学学校でも同じような流れが出ているようで、今後の日本人の中国渡航に影響を与えそうな感じが現在します。今後の動向には十分注意する必要があるでしょう。