【日本のこと、どれだけ知ってる?】インバウンドガイドが教える「シェアしたくなる”日本の魅力”」~「日本食」&「建築」編~
2022.9.17
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日本各地でガイドを採用・育成し、訪日外国人向けのツアーや体験を提供しているマジカルトリップ。久しぶりに日本を訪れる海外の人々にとって、「冬」にこそ見られる日本の美しさは必ず訪れたい場所。知るとより楽しむことができる日本庭園の魅力について、そして冬にこそ訪れたい日本庭園4つを『今こそ学びたい日本のこと』(https://www.arukikata.co.jp/guidebook/series/books/books8018057)の著者・蜂谷さんが紹介。
日本庭園は、大きく分けると「池泉庭園」「枯山水(かれさんすい)」「露地(ろじ)」の3つに分けることができます。
ひとつ目の「池泉庭園」とは、庭園の中心に池を、その周辺には石橋や築山(つきやま)を、池の中には小さな島などを配置し、自然の美しさや自然との調和などを表現している庭園です。平安時代には、貴族たちがその池に舟を浮かべて楽しみ、鎌倉時代には書院造りの建物の中から庭園を鑑賞し、そして園内を歩きながら楽しむ回遊式へと時代とともに変わっていきました。
江戸時代には、大名が将軍の訪問にも困らないよう、豪華な池泉回遊式の大名庭園を作りました。有名なもののひとつは、石川県金沢市にある「兼六園(けんろくえん)」です。兼六園は8000本を超える木々や日本最古とされる噴水、歴史的建造物を自然の移ろいとともに楽しむことができます。
雪が多く降る金沢では、雪の重みで松の枝が折れないよう、11月から雪吊りが松に施されます。松の中心部分に柱を立て、柱の先端から縄を張り松の枝をつり上げる技術は、松を雪害から守るだけでなく、冬の庭園の魅力のひとつとなっています。
冬の日本庭園の魅力である雪吊りは、実は東京でも見ることができます。
築地や新橋の近くにある浜離宮恩賜庭園も、冬に雪吊りを見ることができる庭園のひとつです。都内最大級の樹齢300年の黒松や、東京湾の海水を園内に引き入れた「潮入りの池」が有名で、池の真ん中にある中島の御茶屋では、抹茶をいただきながら高層ビルを借景とした東京ならではの庭園風景を楽しむことができます。
池泉回遊式庭園は、場所によって景色が変わって見えるため、さらに広く感じられるのも魅力。浜離宮恩賜庭園は、東京ドーム5個分ほどの面積があるので、できれば冬晴れの天気がよい日を選んで、太陽を感じながら歩き、植物をゆっくり眺めたり、茶屋で抹茶をいただいたりして、都会の喧騒から離れたゆったりした時間を感じるのがおすすめです。
ふたつ目の庭園の種類である「枯山水(かれさんすい)」は、水を中心とした池泉式とは対照的に「水を用いずに水を表現した」庭園で、歩いて楽しむのではなく、「眺めて感じる」のが特徴です。
枯山水は、鎌倉時代〜室町時代、禅を好んだ武士の時代に生まれた庭園で、鎌倉時代に日本に伝わった禅と深く関係しています。庭園には、清浄を意味する白砂が敷かれ、そこに水面の波やうねりを表現する砂紋が描かれます。ところどころに配置された石組は、仏教で世界の中心にそぼえ立つとされる須弥山や仏様が3つ並んだ三尊石、縁起のよい鶴亀を表現し、植物も華やかな植物ではなく、苔や木が使われ、無駄を削ぎ落とした禅の精神を感じられる庭園となっています。
瞑想や座禅を目的に作られた庭園なので、静かに座り、ゆっくりと眺め、鳥の囀りや風の音とともに流れゆく時間を感じながら、その庭園の意図や意味を自問自答して過ごします。
京都には、冬におすすめの枯山水庭園が多くあります。そのひとつが世界遺産でもある龍安寺です。
龍安寺の方丈庭園は、白砂に大小15個の石が並べられた非常にシンプルなデザインですが、どこに座って眺めても、一度にすべての石が見えない造りとなっています。この意図は、諸説ありますが、東洋の世界では月が15日で満ちることから15は「完全」を表し、どの位置からも15個の石が見えないことは、すなわち「不完全さ」を表しているといわれています。
日本には「物事は完成した時点から崩壊が始まる」という思想もありますので、庭園を眺め、不完すべてや欠点を知り、常に完全や満ちた状態を目指す精神が表現されているのではないでしょうか。無駄を削ぎ落とした枯山水庭園の前で、禅問答のような終わりのない問いかけを、時間を気にせずしてみるのも、楽しみ方のひとつです。
砂と石で組まれたシンプルな庭園も、冬の雪化粧により違った美しさを感じることができます。春や秋と比べると拝観者も少ないので、庭園の意味や日本的哲学を感じながらゆっくりと庭園の魅力に浸ってみてはいかがでしょうか。
最後、3つ目に紹介する庭園は「露地(ろじ)」です。露地とは、茶室に付随して作られる庭園を指し、茶庭とも呼ばれます。室町時代以降、武士や商人が好んだ茶の湯は、街なかでも日常から離れて静かな空間を楽しめるよう露地を設け、入口からその世界観を楽しめるようにデザインされました。
決して大きくない露地ですが、そこには和のエッセンスが多く含まれています。
樹木や苔に彩られた山里をイメージさせる空間は、自然との調和や一体感が表現され、季節ごとに異なる美しさを感じることができます。そのなかに配置される夜の茶会で使用される石灯籠や、歩くスピードを調整するように配置された飛石、手と口を清めるための蹲踞(つくばい)など、スペースが大きくないぶん、ゲストをおもてなしするための配慮が隅々まで行き届いています。
当時の人々は、露地を含めた茶の湯という文化を通して、静寂や非日常を感じ、内なる平安や調和を追求していたのです。
茶の湯といえば、最も有名なのは茶道という文化を確立した千利休。京都の乙訓郡大山崎町には、千利休が造り、唯一現存している日本最古の茶室建造物「待庵」があります。
茶道へと続く「侘び茶」の開祖である村田珠光は、茶の湯に禅の思想を取り入れ、無駄を削ぎ落とした4畳半の茶室を考案しましたが、この待庵では、千利休がさらに極限まで削ぎ落とした2畳の茶室があります。
国宝であるため、茶室の中に入ることはできませんが、茶室の少しの光を取り込むための窓や土で作られた錆壁、身をかがめて入るための躙口、そして限られた空間の中に表現されたその雰囲気から日本独特の美である「わびさび」を感じることができます。
禅や茶道となると、どうしてもそれらの文化が発展した京都におすすめスポットが偏ってしまいますが、訪日外国人のピークシーズンは春と秋のため、インバウンドの観光客が少ない冬の京都にぜひ訪れてみていただければと思います。
『今こそ学びたい日本のこと』でも、日本庭園と西洋庭園の違いや魅力、わびさびについてなど紹介しています。日本庭園を巡るときや、日本を旅するときなど、ぜひこの本を片手に観光をより深く楽しんでください。
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※当記事は、2024年1月11日現在のものです
TEXT: 蜂谷翔音
PHOTO: 蜂谷翔音、PIXTA、公益財団法人 東京都公園協会
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